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99.罪と罰

「今回のガイシャは音無五月おとなしさつき。音が無い、に、ごがつ、だ。五月と言うと、女性の名前に多いが、ガイシャは男性だ。

 

 ========== フィクションです ===========

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。

 井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。



 =================================


 午後1時。捜査一課横の大会議室。『窒息死殺人事件』本部。

 管理官は、説明を始めた。

「今回のガイシャは音無五月おとなしさつき。音が無い、に、ごがつ、だ。五月と言うと、女性の名前に多いが、ガイシャは男性だ。仕事はWeb小説ライター。母親の治子が脳梗塞で入院していた。で、退院の報せを受けたガイシャがタクシーで迎えに行くはずだった。ところが母親が幾ら待っても息子は迎えに来ない。イエ電もケータイも繋がらない。そこで、母親は娘、つまり、ガイシャの妹の弥生に電話をした。妹夫婦と自宅に帰った母親は、息子の死体に遭遇した。妹がすぐ110番通報し、機捜と鑑識が到着した。井関さん、窒息死ですね?」

「ああ、明らかに。酷いなあ。ガムテープで口と鼻を鬱ぎ、手と足は結束バンドで縛った。顔に本が乗っていたから、一瞬、本を読んでいる内にうたた寝したかと思ったら、本を取ったら死体だった。結束バンドは持ち帰ったようだが、死ぬまでそこで待機していた可能性がある。室内にあった椅子の足の跡があるんだ。因みに、本は『罪と罰』。妹の話によると、本棚にあった本だそうだ。それと、物盗りじゃない。財布もカードもスマホも机の上にあった。判子もね。」

「怨恨に間違いないな。大曲くん。Web小説ライターについて、説明してくれ。」

「前にもWeb小説ライターの事件はありましたが、インターネット上の小説を書く人を言います。紙の小説のコンテストや賞もありますが、電子ファイルの応募を認めている場合が多いです。ネットの小説の最大の利点は、何度でも書き直しが出来ることです。サイトの方で用意しているエディター、つまり、フリーの原稿用紙用のアプリを使うことも出来ますが、自前のファイルをコピーして貼り付ける方法もあります。俺だったら、こっちにしますね。自分のPCで書いて貼り付けるのなら、バックアップ残せますし。」

「素朴な疑問なんだが、儲かるものなのかね?」と、管理官は尋ねた。

「儲かりません、と言うべきでしょうね。本になったら別ですが。そこからの印税が入ってくるでしょうから。賞を取る取らないに限らず、生活出来る収入は、出版社が付かないと無理ですね。そういう人はレアケースです。書いて投稿する人も『趣味』と割り切っている場合が多いようです。」

「辻さん達は、サイトに当たってください。村松は、ガイシャが頻繁にメールしている人物に連絡を取ってくれ。大曲達は、ガイシャのPCと持ち物だ。」


 午後2時。クルマの中。

「場合によって、サイトの会社にも行くことになるかもな。」

「ああ、そう言えば、先輩。サイトの会社で『お宝』見付けたんでしたね。」

「そういうことだ。」


 午後2時半。音無家。

 大曲先輩は、本当に世渡りが上手い。

 音無夫人にお悔やみを述べ、遺体が帰るのは解剖の後だと告げる。

 俺は、ガイシャの妹の佐倉花江に案内され、ガイシャの寝室や予備の部屋に行った。

 母親とガイシャは、単に同居ではなく、介護生活に入っていた。

 階下と2階とで通話できるようにしてあった。

「あのう。」

「何でしょう?姉婿が口うるさい人で、父の相続の時も散々干渉していたんですが・・・。」

「花江さんは、そのお義兄さんが殺した可能性があると・・・。」

「後で、隠していた、って言われるのも・・・。」

「第一候補かも知れません。でも、それは動機ですよね。証拠がないとね。」

 俺は、本棚を徹底的に調べた。通帳が出て来た。

 あまり、残高はない。


 階下に降り、先輩に報告した。

 先輩は、電話をしていた。

 相手は蒔さんのようだ。

 電話を切った先輩は言った。

「眩目。事件、解決しちゃったみたい。」

 俺と花江さんは顔を見合わせた。


 午後4時半。捜査一課横の大会議室。『窒息死殺人事件』本部。

 取り調べ室から、蘭子、大曲先輩、管理官が出て来た。

「結論から言おう。ホシはサイトの人間だった。以前の事件のように、会社は『人手不足』を補う為、バイトを雇い、ユーザーも兼ねさせていた。ホシは、そのバイトの一人、望月孝史。望月の妹は、以前、ユーザー同士のやり取りで虐められて、自殺した。アカウント名というペンネームしか判っていなかった為、その会社で働き始めた望月は、相手のアカウント名から、本名と住所を知って、犯行に及んだ。妹の敵を取った積りだったんだ。大曲くんが、どうもサイトから虐められている気がする、というメモをガイシャのPCで拾って、蒔くんに確認を取って貰ったら、望月が自白を始めた。辻さんは、連行することにした。ところが、会社で自白した時、近くにいた社員が気づいた。望月の妹の相手のアカウント名と、ガイシャのアカウント名が似ていることを。人違いだったんだ。会社から、当該人物にトラブルがあったかどうかを確認したら、素直に認めた。自殺したことは、勿論知らなかった。」

「管理官、後は俺が・・・。」と大曲先輩が替った。

「アカウント名、普通に言えばペンネームは、全く同じでなければ、違うものと見做されるんです。例えば、おおまがりって平仮名の人物とオオマガリってカタカナの人物は同時に存在する。大曲がアルファベットでも同じように、違う人物。大曲の後にハートマークがあっても違う人物。望月は、判っていなかった。アナログ人間で、SNSもあまり使ったことが無かった。無論、サイトのユーザーとして文章を書いたことも無かった。無知も罪になるんだ。」

「ドストエフスキーの『罪と罰』も無駄になった。」と、蘭子がぽつりと言った。

「お通夜は、3日後。行ける人は弔ってやってくれ。」と、最後に管理官が言った。


 午後7時。眩目家。

「罪と罰か。昔、レンタルで観たことがある。」

「どうだった?」

「やたら長かった。寝たよ。あ。お前の罰は、一生私に尽くすことだ。」

 もう、準備をしている蘭子に尋ねてみた。

「夕飯は?」

「1回戦、終ってから。ひひひ。」


 恐い。俺、何か罪になることしたっけ?


 ―完―









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