98.嫉妬心
110番通報で駆けつけた機捜の赤井警部補は目を疑った。
隣人の天宮竜子は言った。
「異常なんです。ほら、入る時、気をつけてください。」
玄関の引き戸の前には、ひよこがいた。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
溝内健児・・・生活安全課課長。
赤井悦夫・・・機動捜査隊の警部補。
新垣舞・・・捜査四課課長。
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午前10時。鳥越家。
110番通報で駆けつけた機捜の赤井警部補は目を疑った。
隣人の天宮竜子は言った。
「異常なんです。ほら、入る時、気をつけてください。」
玄関の引き戸の前には、ひよこがいた。
中には数十匹いることが予想された。
赤井は、知り合いの養鶏業者に電話した。
すぐに来た、鑑識課員を待たせ、赤井は養鶏業者がトラックで連れてきた専門業者に捕獲を依頼した。
捕獲業者は、発煙筒のようなものを炊き、ひよこ達を家の中に追い込んだ。
そして、約50匹のひよこを捕獲して去って行った。
「すまんな、源さん。」
「ああ、いいさ。しかし、酷いな。コレ、まだいるかも知れないから。」
源さんと呼ばれた養鶏業者は捕獲網とカゴを赤井に渡して去って行った。
赤井は、事情を簡単に説明し、捕獲網とカゴを井関に渡した。
「養鶏場に賊が入った時の話を聞いていたんだ。奥さん、この人、ここの住人?」
「多分。一人住まいです。連絡先なら・・・と、一旦自宅に入り、メモを持って出て来た。
赤井は、一瞥し、「鳥越新太さん、ね。」と言い、井関にメモを渡し、引き揚げて行った。
「後で、『本式』の刑事が来ますから。」と、井関は天宮夫人を宥めた。
午後1時。捜査一課横の大会議室。『ナタ殺人事件』本部。
管理官は、説明を始めた。
「今回のガイシャは鳥越新太。自称フリーター。20代後半だし、ホストかも知れない。村松、確かか?」
「自信はないですが、ホストっぽいメイクの後があります。それにピアスの跡があります。」
「成程。現場は赤井警部補も仰天する有様だった。ひよこが徘徊し、遺体は、恐らく運搬に使用したと思われるビニールシートに包まれていた。そして、遺体の胸には鉈。凶器の鉈は刺さったままだった。井関さん。」
「無論、胸を刺されて失血死。異常なのは鉈だけでなく、今管理官から説明があった、ひよこ。エサを蒔かれていた。大雑把に。で、赤井のお陰で、調べるのに手間が減った。」
「また、ホシからのメッセージですかね。かなりの怨恨だ。」
「会社が判らないと、聞き込みは、近所だけかな。隣家の天宮夫人は『フリーターですよ』と言われたことがあるとは、言っているが。生活安全課に店を探して貰っている。」
「じゃ、辻さん達は、1キロ以内の不審車両の有無をコンビニ中心に聞き込んでください。大曲達は、消毒剤蒔いてから、PCを当たれ。もしホストなら、衣類から何か出てくるかも知らない。」
「「「「「了解!!」」」」」
「村松は、溝内さん達と風俗店を回れ。ガイシャを見付け次第、連絡。殺人事件優先だから、経営状態は報告しなくていい、と因果を含めろ。」
「了解。」
午後2時。鳥越家。
大曲先輩は、『くん煙剤』を蒔くことを天宮夫人に言った。
「判りました、におうかも知れないんですね。ご近所には私から伝えます。」
「助かります。ところで、あのメモは、いつ鳥越さんに?」
「3年位前、ですね。番号違ったのかしら?」
「いやあ、解約したらしくて、通じないらしいんです。今はケータイの時代ですからね。イエ電、解約する人、多いんですよ。まだ見つかってないけど、スマホがあったら履歴が残っているかも知れない。」
「なるほど。」
「じゃ、お願いします。」
鳥越家に戻って、俺は、衣類をチェックした。
驚いた。他にはめぼしい手掛かりは無かったが、衣類と押し入れと鏡台の裏に、スマホがあった。
階下に降りると、先輩がにやけていた。
「モテる男はつらいねえ。愛人が3人いた。」
俺は、スマホを出した。
午後5時。捜査一課横の大会議室。『ナタ殺人事件』本部。
取り調べ室から、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
蘭子が説明した。
「村松の説得が効いて、鳥越には、2人愛人がいた。眩目が見付けた3台のスマホの内2台が、その2人個別用だった。残りが妹用だった。天宮夫人が預かっていたメモは、妹の家のイエ電話だったが、引っ越したばかりだった。新しい家は蔵前で、こっちに向かっている。店長の機転で、その当該2人を呼び出して貰った。店の常連だ。鳥越を巡って揉めているのを見かねて店員が仲裁に入ったことがあるそうだ。2人とも、同じ風俗の店のホステスだった。事件当夜。2人は、ガイシャが悪いということで意見が一致、揉み合う内に2本の果物ナイフが刺さり、ガイシャは絶命した。ホステスの一人黛真理の客で反社の人間がいて、後処理を頼んで、奇妙な現場が出来上がった。尚、犯行現場は、真里のマンションだった。『アンタラは従犯』って、弁護士は言うかも知れないな、と言ったら、素直に吐いた。新垣が喜んでた。」
それって、よくある『落としのテクニック』じゃないか。
「そこの旦那、文句ある?」
「いえ、別に。」
皆は、爆笑した。
爆笑夫婦だ。
午後7時。眩目家。
「村松も大分慣れたな。しかし、名刺の束が出来たようだ。」
「え?」「引き抜きだよ。すぐナンバー1になれるってさ。」
「なるほど。」
お好み焼きを頬張りながら、蘭子は俺を見て真顔で言った。
「頬張りたいな。」
笑えない。
―完―




