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97.理不尽

「今回のガイシャは草笛鯉子。こいは恋愛の方ではなく、緋鯉真鯉の鯉だ。発見者は祖母初子。

 

 ========== フィクションです ===========

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。

 井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。



 =================================


 午後1時。捜査一課横の大会議室。『剃毛殺人事件』本部。

「今回のガイシャは草笛鯉子。こいは恋愛の方ではなく、緋鯉真鯉の鯉だ。発見者は祖母初子。彼岸に来られ無かったので、ガイシャと打ち合せして、先祖の墓参りに上京した。腰を抜かしたが、隣家の辻野家に助けを求め、辻野妙子が110番通報だ。井関さん。」

剃髪ていはつかと思ったら、剃毛ていもうだった。気が付かなかったが、まあ、解剖する時判るけどな。なんでおかしいと思った?智子。」

「体毛剃ってたから、もしやと思って。それに、白い衣装だったし。ガイシャのお祖母さんによると、嫁入りする時に、白い着物を死に装束として用意するのが家風らしい。」

「信心深い人だと、四国何カ所参りだったかな。印を付けて用意するそうだ。」

「宗派によっては、白い経帷子きょうかたびらだったり、そうで無かったりしますね。実は私、もう、お遍路さん回りました。」と、辻さんが神妙な面持ちで話した。

「ガイシャとは違う人物かも知れませんね。頸動脈を。恐らくは体毛剃った日本カミソリで切って、殺している。」と、井関が付け加えた。

「ガイシャは、隣家の辻野さんによると、エスイーだったそうだ。大曲君。プログラマとは違うのかね?」と管理官は大曲先輩に尋ねた。

「そうですね。プログラマが大工さんだとすると、SEは、建築士や現場監督です。顧客と接してシステムの方向性を決めてスケジューリングして、プログラマに担当決めて作業させる。そんなとこです。今は女性でも珍しくないです。」

「じゃ、辻さん達と村松は、会社と担当していた顧客を当たってください。大曲。ガイシャ宅と、会社のPCも洗え。管理官。作業依頼お願いします。」

「了解した。」


 午後2時。クルマの中。

「不可解ですねえ。なんで死に支度させたんだろう。剃毛する必要あったのかな?」

「一つ目 の答だけは判る。女だ。男なら、どんな目的でも、せいぜい剃髪までだ。変態なら別だが。あ、変態かな?」

「え?」


 午後3時。草笛家。

 大曲先輩は、変死なので、解剖待ちになると丁寧にお祖母様に話し、社交辞令の会話を始めた。

「大分県ですか。大火事、大変でしたねえ。」

「ウチは、近所じゃなかったけど、見えましたよ。お祭りでもないのに、赤々と。」

「お祖母様は、お孫さんのお仕事については?」

「さっぱり。連絡に困るから、スマホの操作は教えて貰いましたけどねえ。便利な世の中になったものねえ。電話機なのに写真が撮れるなんて。」

「よろしければ、お写真を・・。」

「はいはい。」と、お祖母様は自分のスマホにある写真を見せた。

「あの子は、説明が上手くてねえ。昔から、そうでした。両親を早く亡くして、私が親代わりでしたが、学校から帰ると、今日あったことを要領よく話して聞かせてくれるんです。」

「賢いお子さんだったねすねえ、お孫さんは。」

「ありがとうございます。とことん、調べてください。」

「はい。とことん調べます。」


 午後5時。捜査一課横の大会議室。『剃毛殺人事件』本部。

 遅くなったが、ホシが自首してきた、と管理官と村松に教えられた。


 午後6時半。捜査一課横の大会議室。『剃毛殺人事件』本部。

 取り調べ室から、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。

「結論から言うと、草笛鯉子は自殺だった。原因は、カスハラだった。草笛とチームを組んでいたプログラマ大下祐子のプログラムに、不具合があった。不具合は軽微なものだった。システムを作った2人と会社を相手取って訴訟をするとまで言われた。無償で改修するという会社からの申し出を相手は断った。まずは頭を丸めて土下座しろ、とも言われた。草笛は剃髪をしたが、思いあまって日本カミソリを喉に当てた。様子を見に来た大下は、止めようとしたが、却って食い込んでしまった。絶命した友人を見て、全身を剃ったのは、せめて言いなりの姿にせず、死出の旅立ちを手伝う積りだった。大下は会社に戻り、欠勤だけを報告し、折角なおしたプログラムを元に戻した。自分も死ぬ筈だった。会社同士は長い付き合いだったが、カスハラした顧客は、所謂『天下り』で、作ったシステムを見たこともないアナログ人間だった。大曲君から連絡を受けた村松が説諭し、出頭に至った。」

 管理官が言葉を切ったのを見て、「私が替ります。」と、蘭子は申し出た。

「自殺幇助になるかどうかは、裁判次第だが、痛ましい事件だった。会社は葬儀費用を出し、退職金を出し、お別れの会を開くことを約束した。お祖母様には、大曲が丁寧に説明し、納得して貰った。お通夜は明後日だ。行ける者は行って欲しい。」


 午後7時半。眩目家。

「マスコミには、管理官は自殺だったことのみを伝えるそうだ。お通夜、一緒に行こう、真吉。」

「勿論。」

 無言で、2人は、おにぎりを頬張った。

 涙は、おにぎりに垂れて、更にしょっぱくなった。


 ―完―


 ※基本的にフィクションですが、作品中のカスハラは、私自身の体験を元にしています。

 多くのプログラマ・SEは、底辺の労働者です。

 クライングフリーマン




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