100.怪しい死体
「鼠のオモチャを口に咥えた死体を、職員が発見した。」食事をしながら言ったのは、捜査一課第一係係長の餅屋だった。
「大曲くん。これ、課長のチームに任せた方がいいよね?」
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。
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午前11時。警視庁食堂。
「鼠のオモチャを口に咥えた死体を、職員が発見した。」食事をしながら言ったのは、捜査一課第一係係長の餅屋だった。
「大曲くん。これ、課長のチームに任せた方がいいよね?」
「俺に言わないで、直接言って下さいよ。」
「課長は?」
「知らなかったんすか?前は鑑識の智子が弁当作ってたけど、今は村松が作ってるんです。課長の席で食べてますよ。」
「判った。ちょっと行って来る。」
警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
午後1時。捜査一課横の大会議室。『ホステス変死事件』本部。
管理官は、説明を始めた。
「今回のガイシャは、宗像慧子。新宿歌舞伎町の風俗店「ひかり」のホステス、源氏名けいこ、だ。発見者は、同僚の井筒あかり。パッと見は、自殺で、自宅で首を吊っていて、遺書があった。吉川線が曖昧で、近くに遺書があったことから、自殺として処理されるところだったが、担当の餅屋係長が不審なところがある、と決裁印を押さなかった。理由の1つが、これだ。大曲くん。」
「係長によると、PCの側に文庫本があり、『警視チュウの間隙』という本があったそうです。かんげきは、『すきま』の、かんげき。『鼠のオモチャを口に咥えた死体を、職員が発見した。』で始まる、SFと言うかホラーと言うか、警視庁を捩った『警視チュウ』が殺害現場の小説です。本名不詳の作者ですが、ベストセラーになりました。Web小説ライターでは、ありませんが、出版社の判断で、個人情報は伏せられています。」
「大曲。出版社は?」「曙のぞみ出版です。」
「じゃ、辻さん、出版社を当たってください。村松は大曲達に同行しろ。」
午後2時。宗像家。
車内できゃっきゃ言ってた村松だが、現場に着くと神妙になった。
こっちのチームに加わるのは珍しいからだ。
到着すると、智子が待っていた。
「餅屋さんのカンが当たってたわ。キーボードが妙に汚れている、って言うから調べたら、ルミノール反応が出た。」
俺は、大曲先輩に促され、反応が出たキーをメモした。
覗き込んだ大曲先輩が尋ねた。「フルキーボードじゃないな。智子、テンキーボードは?」
「無かったわ。使って無かったかも。」
「だろうな。眩目。そのメモ、読んでみ。」
「ぬ、ぬ、わ、え、お、う。」
「今、読んだ、左側の数字を読んで。」
俺は、困ったが、村松が気を利かせて読んだ。
「いち、いち、ぜろ、ご、ろく、よん。」
「偉いぞ、村松。お前の好きな『ホシからのメッセージ』、正真正銘の『ダイイングメッセージ』だ。ネット俗語で「ひとごろし」、の意味だ。詰まり、ガイシャは自殺なんかじゃない。殺される前に、文字通り必死でメッセージを遺したんだ。このキーボード、ドロワーに入ってたんだな。」
大曲先輩は、その辺を探し出した。
「みんな、画鋲を探せ。」
暫くして、俺は見付けた。
「冷蔵庫の下に。」
何とか取り出して、今度は、智子がルミノール反応を確認した。
「眩目。辻さんに連絡して、発見者のあかりさんにガイシャに糖尿病の病歴があるかどうか確認してくれ。」
「智子、予備のキーボードは?」
「折り畳み式なら。」「じゃ、頼む。これから、洞窟探検だ。」
キーボードが届くまでに、蒔さんから連絡が入った。
「昔、糖尿病になったことがあるそうです。今も薬を飲んでいるかどうかは不明です。」
俺は、クローゼットを探したが、ホステスらしい衣装が並んでいただけだ。
「ん?」
「隠し引き出しの中に、名刺ケースが見つかった。」
後は適当に調べ、戻って大曲先輩に報告した。
「1番上の名刺だけ、取り出しておいてくれ。」
15分後。
「ビンゴ!眩目、その名刺は知本って人か?」
「はい。肩書きは、政治家の秘書ってなってますね。」
「村松。課長に連絡だ。ホシが見えた、と。」
午後5時。捜査一課横の大会議室。『ホステス変死事件』本部。
蘭子が説明した。
「手こずったが、吐いたよ。ホシは、集議院議員森田耕作の秘書の轟裕太と若山栄五。ホステスである為に、議員の秘密を握った、と『勘違い』され、殺された。自殺工作も2人の仕業だ。議員と2人の名刺は、クローゼットの中から見つかった。PCの日記には『不用意の発言でスパイと思われてしまった』と書いてある。そして、彼らが踏み込んで来た時、咄嗟に血でキーボードを打った。糖尿病患者は、血糖値を計る際に、指を少し傷つけて測定器で計るんだ。測定器と糖尿病の服用薬は、職場のロッカーにあった。彼女は、あの本の作者だった。疑われた原因の1つが、小説の中にあった。ホシの2人は、議員と彼女の会話から作家であることを知り、彼女のPCの電源を入れたが起動しなかった。確認不能と考えた2人は殺害した。大曲によると、バッテリーが寿命を迎え、電源アダプターを挿さないと起動しない状態だったそうだ。充電出来ないんだから、電池で動く筈がない。あかりさんに確認して、2人を呼び出した。お通夜は明後日。あかりさんが親族に連絡して、段取りが決まった。」
午後7時。眩目家。
村松が張り切って、お好み焼きを焼いている。
「村松、泊まってく?」
「やだあ。眩目先輩は3Pしたいの?ダメです。シンコンさんだから、食べ終わったら退散しまーす。」
蘭子は、白目で、こちらを睨んだ。
恐い。
―完―
※警視庁(本部庁舎)の食堂は、原則として警察職員(警察官・職員)専用であり、一般の人は利用できません。警視庁は桜田門にあり、セキュリティが非常に厳しいため、職員以外が食事目的だけで入館することは不可です。
※利用不可: 警視庁本部庁舎内の食堂・レストラン。
※例外: 警察関係者や用件のある人に「同行する」場合を除き、単独での一般利用は認められていません。
※注意点: ネット上の情報で、一部の官公庁食堂と混同されている場合がありますが、警視庁本部は一般利用不可です。
※この情報は、2026年4月時点の調査に基づいています。
参考:周辺の官公庁食堂
一般人が利用できる官公庁食堂としては、近くの農林水産省(日豊庵)などが有名です。




