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89.『投稿拒否』殺人事件

「ガイシャは、Web小説運営会社車久瑠雄。発見者は、奥さんの睦子。遺体の上には、『投稿拒否』って紙が貼ってあった。井関さん。」

 

 ========== フィクションです ===========

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。

 井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。


 =================================



 午後1時。捜査一課横の大会議室。『投稿拒否殺人事件』本部。

 昼食の後、捜査会議が始まった。

 そして、志摩管理官が説明を始めた。

「ガイシャは、Web小説運営会社車久瑠雄。発見者は、奥さんの睦子。遺体の上には、『投稿拒否』って紙が貼ってあった。井関さん。」

「紙、置くのは流行りかね?とうこうきょひって聞くと生徒が学校行かない様子みたいに聞こえるけど。秋野。」

 秋野は、スライドをスクリーンに映し出した。

「小説の会社の社長ってことは、そのサイトの利用者で決まりじゃないんですか?」

「蒔くん、それを聞き取ってくるのが我々の仕事でしょ。」と、辻さんが、窘めた。


「大曲、眩目。社長の自宅だけでなく、会社の方も探れ。管理官、お願いいたします。」

「了解した。」


 午後2時。車家。

「会社、すぐそこで良かったですね、先輩。」

「かな?かな?かな?」

「まだ、カナブンの季節じゃないですけど。」

「おもしろーいぃ。」


 俺は2階に上がった。

 流石、社長の家だ。4部屋ある。

 寝室、クローゼット、押し入れ、書庫、リビング。ひええ。トイレもある。

 俺は、書庫の本棚からタブレットを回収して、階下に降りた。

 階下は、仏間、応接間、居間、書斎、広いダイニングキッチン。

「眩目。ホシ、判っちゃったみたい。」

「へ?」


 午後3時。Web小説運営会社タローズ。

 辻さんのチームと村松から、大曲先輩はメモを受け取った。


 大曲先輩は会社のサーバーを物理的にも論理的にも、徹底して調べた。

 以前の事件では、筐体に「お宝」があったからだ。

 副社長の青井が見守る中、大曲先輩は、見付け出した。

「オペレーターは、交替制、ですね。副社長。社長の奥さん、副社長の奥さんを含めて。提携している会社に丸投げしていないのはいいが、独断と偏見が強い。嫌われた人間は虐められる側になる。嫌われる人間は、会社経営のコンテストに参加しない人間、投稿数の多い人間、『速筆』に徹する人間、換金に対する不満のある人間、利用規約に不満のある人間。ユーザー同士の噂話やポイント数ですぐに判った。ポイントに応じて換金出来る、そのポイント欲しさに、ユーザーの一部は、オンラインでスタッフとして働く。嫌われる条件は、『会社にとって』であり、『ユーザーにとって』ではない。会社に嫌われてもユーザーの中に『コアなファン』もいた。コアなファンは、陰に日向に庇っていた。ホシにとって見れば、こんな都合のいい、『替え玉』は、いなかった。『投稿拒否』という言葉は一般用語じゃない。時々、イジメとして、投稿した筈の原稿が読まれていなく、極端な場合衆知せずに放置が5時間にも及んだ。どうしましたか、副社長の青井さん。」


 午後4時半。捜査一課横の大会議室。『投稿拒否殺人事件』本部。

 取り調べ室から、大曲先輩、蘭子、管理官が出てきた。

「ホシの青井は、嫉妬心が強かった。昔、換金ポイントが貯まって、換金しようとしたら、オペレーションミスで換金出来なかったユーザー、アカウント名・馬込一朗太は不平を言った。が、青井は取り合わなかった。2回目はわざとオペミスした。馬込は、やはり取り合わないのを見て、換金を諦め、執筆と投稿に専念するようになった。このことは公言している。それでも、『生意気な年上ユーザー』の馬込を青井は許さなかった。苦言を呈した社長も邪魔になった。そこで、犯行を思い立った。次は、馬込に手をかける積りだった。でも、既に馬込は逃がされていた。何故なら、コアなファンの正体は、社長夫妻だったからだ。奥さんの睦子は、青井の魔手から守ったんだ。濡れ衣着せられて殺されるのを恐れたんだ。」

 大曲先輩の疲労度を鑑みて、蘭子は言った。

「替わろう。社長夫妻と青井は、親会社戸川商店からの出向だった。青井は、自分が社長でないことにも不満を持っていた。だから、子飼いを作った。スタッフユーザーは一般ユーザーと違い、複数のアカウントを持てる。それで、どんどん『分身』からユーザーポイントを稼げる。ユーザーポイントから換金ポイントへの『貯金』は、青井のさじ加減だった。奥さんは、会社を引き継ぎ、まともな会社に戻す努力をする、と言っている。スタート直後から流行り病の頃までは、何とか保てたユーザー数は激減した。ライバルが林立したからだ。少しプログラミング出来る青井は自由気ままだったが、逆らえ無かった。もう悪夢は終った。青井は40歳。社長夫妻と馬込は高齢者。人生観も『人生ポイント』も差が開き過ぎていた。」

 最後に、管理官は言った。

「馬込には、奥さんから連絡して貰った。馬込は、今まで通り仲良くやりましょう、と応えたそうだ。時代に乗り遅れないようにしないとな、我々も。」


 午後7時。眩目家。

「文章には、性格も職業も出る、って言ってたそうだ。だからこそ、自分の作品が衆知されないのは偶然じゃない、と気づいたらしい。それと、共同経営を持ちかけたら、執筆・投稿に専念したい、と断ったそうだ、馬込は。」

 言いながら、蘭子は居眠りを始めた。

 実は、現場にいなかっただけで、タブレットの解析をしていたのは蘭子だった。


 素晴らしきかな、我が女房。

 毛布をかけてあげた。


 ―完―









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