81.ホシからのメッセージ
「ガイシャは、加納要。逆さづりにされていたのを、中学生の長男が帰宅時に発見した。珍しいのは、逆さづりだけじゃない。これを見てくれ。」
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
赤井悦夫・・・機動捜査隊の警部補。
神道助六・・・捜査二課課長。
溝内健児・・・生活安全課課長。
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『逆さづり殺人事件』本部。
昼食の後、捜査会議が始まった。
そして、志摩管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、加納要。逆さづりにされていたのを、中学生の長男が帰宅時に発見した。珍しいのは、逆さづりだけじゃない。これを見てくれ。」
スクリーンに10個の2つ折り財布が遺体の側にある写真が映された。
「ダイイングメッセージじゃないな。ホシからのメッセージか。」
「何かロマンチック。」と村松が言うので、「村松、笑えないぞ、今のは天体のほしじゃなく、犯人。」と大曲先輩は村松を睨んだ。
「詰まり、大曲は、連続殺人になる可能性を言ってるんだな。」と、蘭子は言った。
「機動捜査隊、機捜の赤井警部補が、気を利かせて送ってきたんだ。井関さんと同期らしい。」
管理官が、そう言った矢先、井関親子と秋野が帰ってきた。
細かい分析は他の班に任せて、3人が報告するのが通例になっている。
「済みません。搬送に手間どっっちゃって。財布の写真、届きました?秋野、現物。」
秋野が、志摩管理官横のテーブルに財布を並べた。
「有名ブランドなら一応調べますけど、これらは皆スーパーやホームセンターに並んでいる「安物」。共通点は2つ折り。カードが沢山入る。」
「貧乏人の財布って、よく揶揄される財布ですね。私のもその類いですが。」
そう言って。大曲先輩は皆に見せた。
「それで、ガイシャの加納要は、俳優としてもタレントとしても有名人だ。迂闊に人を入れるとは思えない。熱烈なファンがカミソリ送るのとは違って、個人的に怨みを買っている。辻さん。事務所に交遊リスト出して貰えます?」
「了解しました。」
「井関さん、凶器は?」
「刃物じゃない。後頭部を打撃してから、逆さづり。脳血栓で死亡。帰宅して発見した息子が以前、脳梗塞になったことがあるらしい。幸い助かったが、事務所を通して、インフルエンザで入院したことにしたらしい。おかしなものだ、内臓の病気なら誹謗中傷するのに、インフルエンザならダンマリだ。」
ここで、蘭子が「辻さん、事務所に番組でトラブル無かったかどうかも聞き出して下さい。」と言った。
「了解しました。」
午後3時。加納家。
「明くん、今日、学校は?」「冬休みですよ、刑事さん。」
「あ。失敬。そうだよね。」「刑事さんでも謝るんだ、へえ。」
「あ。みんな威張ってると思った?ある意味サラリーマン社会だからね。いい刑事悪い刑事普通の刑事。色々いるよ。」
「刑事さんは?」
「普通の刑事。」「出世しないタイプ?」
「いや、出世出来ないタイプ。」「悟ってるんだ。」
「そう。普通が一番。あ、そうそう。帰宅したとき、玄関の鍵、開いてた?」
「え・・・はい。今日は確か仕事ない日だから。」
「男2人じゃ大変だね。一昨年だっけ?あ、立ち入ったこと聞いちゃった。だから、出世出来ないタイプなのだ。」「おもしろーい。部屋に行ってていいですか?そっちの部屋入れないし。」
「ああ、いいよ。データ、コピーさせて貰うだけだから。1時間もかからない。」
息子が二階に上がると、隠しマイクで様子を探れ、と大曲先輩は言ってきた。
細かい内容は分からないが、ガールフレンドに電話しているようだ。
母親は、離婚した時に拘らなかった。明の受験校が、ここの方が近いのだ。
明は、母親の連れ子だが、加納と仲が良かったらしい。
40分後。大曲先輩は、蘭子に電話した。
電話の向こうの蘭子は渋っていたが、「お前の勘はいつも正しい。どうやって連れだすかだが・・・。」結局、折れた。
午後5時。
葬儀社社員に化けた神道の部下(女性警察官)が明と『葬儀の打ち合せ』をしている間に明のPCを持ち出し、大曲先輩は必要なファイルをコピーした。
遺体は簡単には戻ってこない。変死の場合、監察医の解剖が済まないと、荼毘に付すことは出来ないが、一般には知られていない。年頃の男の子は大人の女性に弱い。
新垣には無理だが、協力させる名目がない。そこで、蘭子経由で、騙した。
神道課長は、すぐに取って返し、OKの合図を大曲先輩に送ってきた。
揺れる車内だが、大曲先輩はちゃんと確認をした。
午後6時。ある会社の工場。
勤務を終え、帰宅途中の大林に、大曲先輩は声をかけた。
「大林さん、養成所同期の加納さんのことで、お話を伺いたいんですが・・・。」
午後7時。捜査一課横の大会議室。『逆さづり殺人事件』本部。
取り調べ室から、蘭子と大曲先輩と管理官が出てきた。
「ホシは、加納明、大林伸彦の共謀共同正犯だ。今年正月、加納が所属していた永年座の養成所同窓会が開かれた。大林は、養成所時代に、マドンナこと山本真理子に振られたことを自虐ネタで披露した。本来は、そこで笑って終る筈だった。ところが、加納は、自分もそうだった、と言い始めた。不安を覚えつつも、大林以外は二次会に繰り出した。大林は、母親の介護が有るために、二次会や三次会に参加出来なかった。そして、後から加納と山本がアバンチュール・・・古いか・・・不倫したことを知った。大林は加納をメールで詰った。ここが問題だ。明は、加納のメールを自分のメールアドレスする設定をしていた。ITに詳しくない加納は、常日頃『監視』されていることを知らなかった。怒り心頭の大林に、明から連絡を執った。発見者がホシの場合は、多々あるが、こんなカラミは初めてだ。明は加納に内緒で大林と面会した。明の母親は、週刊誌等に嗅ぎつけられなかったが、女性問題で離婚した。明が家に残ったのは、受験だけが理由ではなかった。」
ここから、蘭子が交代した。
「事件当日。近所から死角になる場所から大林を招き入れた明は、2人が口論している背後から『痴漢撃退用スプレー』をかけ、2人がかりで絞殺、逆さづりにした。財布の件は、同窓会の時、『貧乏人財布』だと加納が皆の前で恥をかかせたことと、捜査を攪乱する思いだったと言う。大林の財布を見たら、確かにカードが沢山入る財布だが、半分は母親の関係だった。大林を送った明は、改めて帰宅し、発見者になった。大曲は、下の部屋に遺体の痕跡があるのに平気な中学生に違和感を持っていた。加納は、自分宛のメールは、あまり開封していなかった。多分、大林のメールを読んだのは明だけだろう。明は許せなかった。そして、大林も許せなかった。利害は一致した。そして、犯行に及んだ。大林は加納に嫉妬していたんじゃない。寧ろ、哀れんでいたんだ。同期生も利用価値で繋がっていたし、昔マドンナに振られたことも、マドンナと加納が不倫したことも、どうでも良かった。当時の大林は、母親の介護でいっぱいいっぱいだった。」
蘭子は、いつも間にか涙を流していた。村松がハンカチを差し出した。
全く、村松は女の子より女の子らしかった。
「明は、取り敢えず生活安全課の溝内課長が預かった。少年課に送られることになる。こちらに向かっている親族には、私から話そう。」と、管理官は話を締めた。
午後8時。眩目家。
俺は風呂を沸かし、お茶漬けを用意した。
「たまには、お茶漬けもいいな。今日は疲れた。お前の体を弄るのは明日までお預けだ。いや、繰り越しだ。明日、二日分な。」
何もノルマにしなくても・・・。
「何か言ったか?」
「いや、今日は、安眠しようね、奥さん。」
「良い子だ。」
―完―




