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80.あった筈

110番通報を受けて、初動の機動捜査隊と、鑑識は、驚くべき光景を目にした。

それは、回覧板を届けに来た、隣家の出口貢も同じ光景を目にした、ということだ。


 

 ========== フィクションです ===========

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。

 井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。

 赤井悦夫・・・機動捜査隊の警部補。


 =================================


 午前8時。鎌池家。

 110番通報を受けて、初動の機動捜査隊と、鑑識は、驚くべき光景を目にした。

 それは、回覧板を届けに来た、隣家の出口貢も同じ光景を目にした、ということだ。

「最近、引きこもりがちだから心配していたんですよ。私も定年退職したし、話し相手になってあげようと思っていたら、この惨状で。回覧持ってきたのが私で良かった。女房なら失神していたかも知れない。」

 この家の独居老人鎌池佑介は、DVDを観ながら、下半身を律動させていたようだ。

 TVもDVDプレイヤーもついたままだった。画面は、メニュー画面になっているからAVとすぐ判る。尤も、他の種類なら、下半身露出はないだろう。

 智子が硬直するのを見かねて、井関は言った。

「秋野。智子と手分けして、ゲソコン調べてこい。」

 2人が行くと、「こんなのは、智チャンには、毒だなあ。」と、井関と同期の赤井は言った。

「ざっとだが、死亡推定時刻は12時間位前。」

「了解。権さん、搬送時に・・・。」

「判ってる。迷わず成仏して欲しいな。」

 2人は揃って、手を合せた。



 午後1時。捜査一課横の大会議室。『高齢者脳卒中事件』本部。

 昼食の後、捜査会議が始まった。

 そして、志摩管理官が説明を始めた。

「ガイシャは、鎌池佑介。72歳。独居の高齢者で、回覧板を届けに来た隣家の出口貢氏が、玄関引き戸が施錠されていないのに気づき、声をかけたが返答がない。台所の天井灯を消して就寝する筈のガイシャの家に、こうこうと灯りがあるのが気になっていた。まあ、それで、大して急がない回覧板を持って訪れた。上がってみると、TVがつけっぱなし、DVDプレイヤーもONもまま。そして、当人は画面を観たまま硬直していた。下半身露出も気になったが、一応、口元に顔を近づけ、手首を触って冷たいことを確認した。緊張と興奮の中、出口は110番通報をすることにした。『現場保存』という言葉を思い出し、パトカーが来る迄、近所の人に近づかないようにけん制した。起動捜査隊に入室した時の状況と、台所の天井灯が点いたままだったことを話した。実に賢明だった。井関さん。」

「脳卒中の自然死に見えるから、普通なら、そういう処置になるんだが、気になって、改めて調べたら、後頭部に薄い打撲痕があった。引き金は、興奮状態での血栓だが、その打撲も影響していると考えられる。そして、ゲソコンが見つかった。」

「で、一課の仕事になった。いってる間にいくって、どんなだろうな?」と、蘭子は大曲先輩を見た。

 久しぶりに見た。元カレへのイジメだ。

「辻さん。親族だけでなく、最後の職場でも聞き込んでください。大曲達は『落とし物』を探せ。」


 午後3時。出口家。隣家に挨拶してから、大曲先輩は社交辞令をした。

「いやね、出口さん、奥さん。『悪気無く』現場を触ったりする発見者っているんです。その点、出口さんは100点満点中200点、ってウチの鬼課長が言ってました。ご協力感謝します。助かりました。あ、いつもなら、何時頃、鎌池さんは台所、消灯されてたか判ります?だいたいでいいですよー。」

「9時くらいかなあ。まあ、10時の時もあるかも知れないけど。」

「助かりますぅ。」大曲先輩が深くお辞儀するので、俺も習った。


 午後3時半、鎌池家。

「先輩といると勉強になるなあ。忘れていたことも思い出しますね。」

「ありがとう。まあ、いつも威張ってる政治家・オールドメディアには出来ないだろうな。そう言えばな、昔、『トップ屋』とか『夜討ち朝駆け』って言葉があって、優秀な新聞記者は話術が巧みだったって聞いている。お前、『褒めること』と『おだてること』の違いって判る?」

「前に聞かれませんでした?えーと、『聞き方がお上手ですね』って事実だけ言うのが『褒めること』、『聞き方は日本一お上手ですね』って言えば、『おだてること』の部類に入るんですね。」

「まあ、端的に言えばそうかな?お前が感心した社交辞令は、その応用。要は、相手に合わせること。先日、総理の首脳会談に付いて行って、赤っ恥インタビューしたアホ記者がいただろ?下手すりゃ日本の外交問題になるのに。あ。ここにも書いてあるなあ。子の前の事件の高齢者みたいに、『世間に疎くない』高齢者は多いんだ、そして、アホじゃない。」


 午後7時過ぎ。捜査一課横の大会議室。『高齢者脳卒中事件』本部。

 取り調べ室から、蘭子と管理官が出てきた。

「ホシは、小鳥遊陽子。鎌池さんの妹だ。事件当夜。陽子は、鎌池さんに借金を申し込みに行った。バイクで。目立たないように、裏の塀から侵入、鎌池さんは断った。先日の事件のガイシャほど逼迫してはいなかったが、やはり、生活は苦しかった。『律動』の最中なので驚いたが、妹は、その行為を詰り、後頭部を叩いた。鎌池さんは失神し、死んだと思った妹は119番せずに、逃げた。井関さんの話では、様子がおかしくなった時にすぐに119番して助かった例は多いらしい。一旦、息を吹き返した鎌池さんは、再び下半身を露出させた。妹への当てつけだったのか、行為を再開しようとしたのかは判らない。結局、脳卒中で亡くなった。」


 午後7時。眩目家。

「薄いゲソコンは、妹が履いていたサンダルだ。死体遺棄罪、侵入罪、偽証罪、道路交通法違反、もっとないかなあ。」

「それって、ホシに腹立ててるんだよな。私に『求めている』んじゃないよな?」


「え?」

「りっしょう、して貰おうか。」


 恐い。


 ―完―


 ※脳卒中のうそっちゅうは、脳の血管が詰まる・破れることで脳細胞が死滅する急性疾患です。主なタイプは脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つ。前触れなく手足のしびれ、呂律困難、視野障害などが「突然」起こるのが特徴です。治療が遅れると重い後遺症が残るため、症状が出たら直ちに救急車(119)を呼び、医療機関を受診してください。


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