78.存在しない殺人事件
殺人を犯しました、と男が自首してきた。
よく混同されるが、自首と出頭は違う。
出頭が事件が明るみになった後に対
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
=================================
午前10時。捜査一課取り調べ室。
殺人を犯しました、と男が自首してきた。
よく混同されるが、自首と出頭は違う。
出頭が事件が明るみになった後に対して、自首は事件が明るみに出る前に被疑者が警察に申し出ることである。
容疑のある者が警察に行くことから、マスコミは「容疑者」という言葉をよく使うが、容疑とは、犯罪が立証する迄の「犯罪の種類」である。
マスコミは、半世紀以上に亘り警察から表現の変更を指示されてきたが、頑として譲らない。そもそもが、そそっかしい記者の「失言」なのに。
昔は、重要参考人として、「捜査協力」をお願いしていただけなのに、近所から犯人扱いされて失職した人も多かったので、容疑が固まる、つまり、被疑者として扱う段階でない場合は、何度でも「捜査協力」をお願いすることになった。基本的人権保護である。
さて、被疑者魁虎雄は、すらすらと犯行を語り始めた。
1時間後。休憩したとき、大曲先輩は、蘭子に言った。
「出来すぎているな。普通は、もっとたどたどしいものだ。」
「私もそう思う。誰かを庇っているのかも知れないな。大曲と眩目は自宅に向かえ。村松、所属の会社に行って、噂を集めてこい。」
午前11時。魁家。
本人に預かった鍵で家に入る。
大曲先輩は、親類の者で、法事の打ち合せに、と言い、愛想を振りまく。
相変わらず見事だ。俺には真似出来ない。
こういう時の為に、喪服を着ていく。
法事があるのなら、その日以外は必要ないのだが、印象つける為だ。
「まだ」被疑者でないのだから、尚更だ。
正午。交替でやってきた秋野と智子に任せ、俺達は引き揚げた。
収穫は、魁のPCから出て来た電子ファイルだ。大曲先輩は素早くメモリにダビングしていた。
午後1時。捜査一課。蘭子のデスク。
「ご苦労様。当人は、取り敢えず拘置所に入れておいた。弁護士はと尋ねると、お任せしますと答えたから、当番弁護士がくる事になる。村松から連絡があった。何と半月前にリストラされている。人手不足による人員整理で、問題があって辞めた訳ではない、と常務は言ったそうだ。だが、腑に落ちない。優秀な社員で、何故?と皆そう思った、と女性社員は言っている。管理官に手を回して貰ったから、公認会計士と一緒に行って、会社のPCを探れ。昼飯食ってからでいい。」
そう言って、蘭子は食堂に誘ってくれた。
元カノと元カレと今旦那の、奇妙なトリオは、蘭子の奢りでランチのチャーハンを食べた。
「どう思う?」
「何かがおかしい。」
「俺もそう思う。」
「もう囚人モードだそうだ。自首しても・・・やはりおかしい。」
午後2時。街中板ガラス工場。
魁の、元の勤め先である。
公認会計士藤本は、手早く作業を済ませ、大曲先輩は、提供されたPCから、会社のサーバーにアクセスする。
「ん?」
俺と藤本氏は、揃って首を突っ込んだ。
藤本氏は、気を利かせて常務を呼びに行った。
「ここの事務会計係木田さんは、退職されていますね。今は、天宮さん?」
「ええ、そうです。天宮です。呼んで来ますか?」
「「「お願いします。」」」
期せずして3人は常務に言った。
天宮がやってきた。
「退職の辞令や手続きする時、何を基準にされました?」
「退職された先輩の、木田さんの作ったリストです。」
午後4時。捜査一課横の大会議室。『社長一家皆殺し事件』本部。
村松が、戒名を外した。
捜査会議が始まった。
そして、志摩管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、いなかった。魁虎雄は、趣味で小説を書いていた。昨今流行りだが、以前の事件のように投稿サイトに投稿していなかった。定年まで1ヶ月。突然言い渡されたリストラ。決定した専務や社長は、工場内の事故で入院中だ。常務は、ベテラン社員だった木田さんに任せた。そして、間違いが起きた。リストに載るべきだった槐虎雄でなく、魁虎雄と間違えて載せた。面談があればこんな間違いも起こらなかっただろう。木田さんは、漢字を見間違えたんだ。」
管理官に続いて、蘭子が発言した。
「絶望のあまり、とマスコミなら、そう纏めるところだったが、秋野の調べで、シンナー中毒になっていた可能性が出てきた。浴室周りの綻びをテープを貼って綺麗にしていたが、年数が経ってハゲてきた。その剥離処理をするために、『ラベル剥がし』液剤を大量に使った結果、液剤に含まれるシンナーの為、中毒になった。そして、自分の書いた小説を本当の犯行と思い込んだ。家族がいれば、ある程度防げた事故だが、独居だった。入院中の社長・専務、そしてリストラ処理を適当に済ませた常務は、会社を清算した上で、魁さんに十分な保障をする、と弁護士を通じて言ってきた。悲劇はドミノになったんだ。尚、木田さんには、罪を追求しないそうだ。」
午後6時。眩目家。
「そうか。よくやった。プラス30点だ。」
「ワオ!!!!!!!」と叫ぶ大曲先輩の声が聞こえた。
「以前、事件で知り合ったウェブ小説ライターを魁さんに紹介したそうだ。病院で処方して貰った薬もあるし、立ち直れるさ。」
俺は、思わず蘭子をハグした。
「もう求めてるのか。よしよし。可愛がってやる。飯は後だ。」
しまった!!!!!!!
―完―




