75.高齢者餓死事件
「ガイシャは、大空たけし。独居の高齢者だ。発見者は、ガイシャの母が世話になっていたケア・マネージャー江頭江威子だ。ガイシャの母は、一昨年、他界している。江頭は転勤の為、訃報を知らなくて、一周忌にも出られなかった。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『高齢者餓死事件』本部。
昼食の後、捜査会議が始まった。
そして、志摩管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、大空たけし。独居の高齢者だ。発見者は、ガイシャの母が世話になっていたケア・マネージャー江頭江威子だ。ガイシャの母は、一昨年、他界している。江頭は転勤の為、訃報を知らなくて、一周忌にも出られなかった。元の同僚から亡くなったことは聞いており、たまたま介護相談者宅が、大空家の近くだったことから、線香の一本でも、と思い、お供えと共に訪れた。チャイムを鳴らしても応答がないので留守だと判断して帰ろうとしたら、玄関が開いていた。そこで入ってみると、玄関たたきで、倒れていた。機転を利かせて江頭は救急車を呼んだが、救急隊員に既に死亡と告げられた。親族である大空の妹に連絡を執り、急死を報せた。ここからが問題だ。井関さん。」
「ガイシャの死因は餓死、だが、索条痕があり、結束バンドで拘束されたのではないかと思われる跡があった。拘束され、食事が与えられなかった後、ホシの放置があったと思われる。死亡推定は一週間前だ。」
「酷い。」村松は、涙を流し呟いた。
村松は、女の子以上に女の子だ。
「ガイシャとガイシャの妹なんですが、近所の評判によると、大人しいガイシャに反して、妹は気性が勝ち気で、某宗教団体の会員であることも禍いしてか仲が悪かったらしい。発見者の江頭もそう言っています。父の相続を巡って争いがあったので、母の相続でも争いがあったのでは?と。」と、辻さんは言った。
「はい。捜査一課ですけど。」と、村松は管内電話をとって、会議中だと伝えたが、「課長。江頭さんて方が面会したい、と来られています。」
「応接室に通してくれ。管理官、同席願います。」
「了解した。会議は中断する。」
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午後1時半。捜査一課横の応接室。
「これを生前、預かっていたんです。」と、江頭は手紙を出した。
「コレは、遺言書?」
「他にも、公証人役場で作った遺言書、行政書士に預かって貰っている遺言書があるそうです。」
その手紙には、驚くべき事実が書いてあった。
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午後4時半。捜査一課横の大会議室。『高齢者餓死事件』本部。
発見者の江頭氏が帰った後、俺と大曲先輩は、ガイシャの家を捜索した。
その報告を聞いた上で、蘭子は会議を続行した。
「江頭さんの持参した手紙から、大曲と眩目が家を捜索した。手紙には、日頃から虐待をされていたことが、連綿と綴られていた。例えば、熱中症で救急搬送した後、病院側がしつこく身内の者を迎えに寄越すように言うので止むなく呼んだら、『迷惑かけやがって』と妹は言っていた。父親が亡くなった時、『遺産分割協議書』を行政書士を通じて作ったのに、義兄が『無効だからやり直せ』と圧力をかけ、嘘の経済状況で苦境を訴えたりしたらしい。その話は江頭氏も聞いていたので、転勤後気になっていた。電話くらいすれば良かったと後悔している、と江頭氏は泣いていた。ここからは、自宅PCで判明したことだ。大曲。」
蘭子に替わって、大曲先輩は報告した。
「ガイシャのPCにはプロテクトがかかっていませんでした。親族はアナログだから、覗き見られる心配が無かったようです。ガイシャは、他殺に見える自殺を研究していました。預金はもう底を尽きかけていました。母親の死後、相続の際、一番分配金の少ないのがガイシャでした。想像以上に、介護の費用が嵩み、大赤字だったそうです。江頭氏にも確認しましたが、行政のいい加減さ、ヘルパーの質の悪さ、施設の二重帳簿など、まともな施設はあまりないようですね。そして、ガイシャの生真面目さもあって、『デッドエンド』を常に考えていたようです。『一矢報いる』積りで、『他殺に見える自殺』を考えていたようです。PCの中の文章によると、1ヶ月後に自分宛てに届く荷物を発注していたようです。食料の備蓄は殆どなく、倉庫はガラクタだけ。遺族の片づけが最低限で済むように、『遺品整理』の・・・・・『遺品整理』のマニュアルまで作ってあり、二階奥のアルバムに挟んでありました。」
大曲先輩の、泣きながら読む姿に、皆もらい泣きした。
「真相は、私から遺族に伝えよう。ガイシャは自殺だった。見事な、幕引きだった。」
午後7時。眩目家。
村松は、クレープ作りを蘭子に教えていた。
「村松は、器用だな。」と、俺は、つい口を滑らした。
「村松。私は、料理以外は、器用なんだよ、なあ、真吉。知ってるよな。」
しまった。
―完―




