288.令和ダメスの大予言
「ここは、新しくできた、公民館専用駐車場なんです。今日は、日曜日でしょう?駐車禁止なんです。」
「ああ、それでチェーンフェンスが張ってあるんですね。」と、赤井が言った。
「赤井。ウチの新人が、ホトケさんを知っているらしい。」と、井関が耳打ちした。
========== フィクションです ===========
=================================
※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
=======================
午前9時半。葛飾区。ある公民館駐車場。
この地区では、公民館の駐車場が無かった。正確に言うと、自動車二台分のスペースしか無かった。
100メートル先の廃屋が長い間放置されていて、区の所有物になったので、区がこの地区の公民館の駐車場として再開発した。
盆踊りや夏祭りには、重宝される駐車場になっていた。
その駐車場から50メートル先のホームセンターで買物を済ませた母子が通りかかった。
「ママ。お昼寝してるの?あの人。」と、子供が駐車場の真ん中を指さした。
今日は、日曜の為、公民館駐車場は、チェーンを張ってある。
不審に思った母親は、チェーンを跨いで、入った。
母親は、呆然とした。
「ママ。お昼寝してるの?その人。」子供が再度言ったので、はっとした。
「こっち来ちゃダメ。」と言い、母親は110番通報した。
30分後。機捜と鑑識が到着した。
「奥谷喜子さん、ですね。」
「ここは、新しくできた、公民館専用駐車場なんです。今日は、日曜日でしょう?駐車禁止なんです。」
「ああ、それでチェーンフェンスが張ってあるんですね。」と、赤井が言った。
「赤井。ウチの新人が、ホトケさんを知っているらしい。」と、井関が耳打ちした。
==================================
=================
午後1時。捜査一課横の大会議室。『公民館専用駐車場死体遺棄事件』本部。
酒井優香が同席している。
管理官は説明した。
「ガイシャは、森おさむ。新山。有名人なのか。」
「はい。先日、元東都大学中退の青年が妙なこと言いだし、SNSで拡散しています。」
「妙なこと?」
「AIが発達しすぎて、後5年以内に人類は滅亡する。その研究をしている、って。」
新山は、済まして言った。
「根拠ゼロ。信じる人もいるけどね。終末予言は、何度も繰り返されてきたわ。令和ダメスの大予言って揶揄する人もいる。」と、酒井はにべもなく言った。
「ノストラダ〇スの大予言、って流行ったよな。システムのバグと無理矢理結び付けた者もいるが、皆生きている。もうそれから26年以上になる。」と、大曲先輩が発言した。
「えー、死因は絞殺。殺害現場は別で、日曜がからっぽの駐車場に遺棄したようです。」と、井関が言った。
「ガイシャは幸いポケットに財布も運転免許証も、お名前カードも持っていた。今、ガイシャのお母さんが、溝内課長に遺体に対面させた上で面接している。どうする?開光くん。」
「辻さん達は、東都大学へ行き、先生や同級生に聞き取りして下さい。村松も行け。大曲達は、ガイシャのお母さんと合流して、森家へ。」
「「「了解!!」」」
午後2時半。クルマの中。
運転しながら、俺は先輩に言った。
「勉強しすぎて、頭おかしくなったんっすかね?」
「頭おかしいのは、ホシも同じだろう。酒井の言い分だと、納得出来るような説じゃないみたいだ。俺は酒井ほど知識はないが、AIはまだ過渡期だって聞いている。AIが暴走するのは、SFの世界だよ。少なくとも5年以内は早すぎる。失業者が増えるとかクーデターが起こるとかなら、説得力があるが。」
午後3時半。森家。
ガイシャの母親は、テキパキと電話をかけまくっていた。
自分の仕事先、葬儀社、親族、保険会社。
15分後。やっと我に返ったようだ。
「お茶も出しませんで・・・。」
「あ。お構いなく。規則で、頂かないことになっています。」
先輩は、要領よく段取りを説明した。
「分かりました。」
二階の手前の部屋は、母親の静子さんの書斎で、隣の部屋が、ガイシャの部屋だった。
広い部屋で、ぎっしりと本が詰まった本棚の片隅にアルバムがあった。葉書ホルダーは無かったが、大学の名簿はあった。個人情報保護法以来、名簿等は姿を消したが、違う形で復活した例もある。専用タブレットだ。ここに電子データがあり、パスワード管理されている。万一泥棒に持ち去られてもパスワードがなければ、起動しない。
大曲先輩の作業中。薄いアルバムに貼られてあるのは、小中高の卒業集合写真と、大学に入ってからのスナップ写真だけだ。
「暫くの間でしたけど、自然科学研究会に入っていたんです。でも・・・。」
「例の研究が始まって、中退した。部活も終わった、ってことですか。」と、俺は尋ねた。
「はい。息子の研究が憎かったんでしょうか?」
「犯人が見つかって、動機が分かる迄は、何とも。」
先輩が、こっちを見てる。まさか、また?
「お母様、PCをお預かりしてよろしいでしょうか?」
「何故です?」
「コンピュータの専門家に解析・・・分析して貰う必要があるんです。息子さんを殺めた犯人を見付ける為に。」
「・・・お任せします。」
今回は、『見張り』がないようなので、俺と先輩でPCをクルマに運びこんだ。
午後5時。捜査一課。第二応接室。
「課長。大学の部室に、ガイシャ用のPCがあったので、万一に備えてと思ってサイバー犯罪対策課に運びました。」と、蒔さんが報告した。
「一時的なバックアップが残っているかも知れませんね。」と、大曲先輩は言った。
「で、ガイシャの評判ですが、頭はいいが、孤立する方だったとか。部活の夏休みの合宿も『旅行なら行かない』と断ったとか。」と、辻さんが報告した。
「女子には、露骨に『変人』って言われていたようです。」と、村松も報告した。
館内電話が鳴り、蘭子が受話器を取り、スピーカーをオンにした。
「やはり、大曲くんの勘は素晴らしいわ。ハッキングされていた。解析結果は明日になりまあす。」
―「捜査一課ですけど、289」につづくー
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
新山ひかる・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
酒井優香・・・サイバー犯罪対策課課員。




