270.おみこし男
その内、おみこしの端から血が流れ出した。
「119番だ!」
119番通報で駆けつけた消防隊員がおみこしを退けると死体が出て来た。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午前10時。西東京市。ある市営住宅。
公園に向かおうとした少年綿引翔と瀨賀耕助は、住宅の出入り口に「おみこし」があるのを発見した。
「どこのおみこしだろう?この辺じゃ夏祭りも秋祭りもないけどなあ。」
「おい、翔。下敷きになってるぜ。」
2人でおみこしを退かせようとしたが、出来ない。
その内、おみこしの端から血が流れ出した。
「119番だ!」
119番通報で駆けつけた消防隊員がおみこしを退けると死体が出て来た。
「110番の方が良かったな・・・と言っても、この状況じゃなあ。」
「今、通報したよ。機捜が来たら交替だ。」
30分後。機捜と鑑識がやってきた。
消防隊員は、発見者の2人を紹介、引き継いで、引き揚げて行った。
「君たちが発見した時は、足袋はだしが少し見えただけで、中の様子は見えなかったんだね。」
「はい。一応退けようと思ったけど・・・。」
「ははは。重いからな。普通は大人数人で担ぎ上げるからな。君たちじゃ無理だ。この住宅地は袋小路だな。」
「50メートル先に駐車場があります。入口の近く以外、あ、その家とその家以外は、そこの駐車場を借りています。」と、翔が言った。
「不審なクルマは見かけなかったんだね?」
「はい。」
「外から来るクルマがあったら、そこのコンビニの駐車場に入れると思います。」と、耕助が言った。
「ありがとう。助かるよ。捜査の刑事さんに必ず伝えるからね。」
「え?刑事さんが捜査するんじゃないんですか?」
毎度のことだが、赤井は丁寧に答えた。
「捜査の担当の刑事さんは、別にいるんだ。オジサン達は、初動と言って、現場の状態を確認する係なんだ。大丈夫。必ず伝えるからね。」
「「はい。」」
井関が、赤井に耳打ちした。
「ガイシャは有名人らしい。ウチの情報担当が言ってる。」
赤井は、そっと頷いた。
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『市営住宅死体遺棄事件』本部。
管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、自称風刺イラストレーターの『ひきがねーぜ』こと疋田徹。死体の上に、現場の状況に似た絵があった。井関さん、死因は?」
「窒息死。詰まり、犯行現場は発見現場じゃない。トラックでバックで入って、ズリ落したとしても、荷台に乗せる時は、複数の人間が必要だな。秋野、言いたいか?」
「僕は、週刊誌で一度写真を見たことがあるだけで、大曲さんの方が詳しいみたいです。」
そう言われて、大曲先輩が立って、説明した。
「最初は風刺漫画家を目指していたようですが、あまり売れなくて、SNSに自身の描いたイラストと説明を投稿したら、反体制の姿勢の者にウケたみたいで、週刊誌のインタビューを受けて、ご満悦の写真が載りました。管理官。『名前負け』っていうのはよくありますが、それは、名前が立派すぎる場合の例えです。奴は、ペンネームやアカウント名で、既に負けてます。『引き』がねえぜ、って。」
皆、爆笑した。
「笑っちゃいかんが、確かにそうだな。個人事業主となると・・・。」
言いかけた管理官の言を引き取って、蘭子は、「週刊誌の出版社を当たりましょう。恨みを持つ者が浮かんで来るかも知れない。辻さん達は、出版社を当たってください。村松も行け。疋田の家族が今、溝内さんと遺体確認して面談中です。大曲達は、その家族と一緒に自宅に行ってくれ。」
「「「了解!!」」」
午後3時。クルマの中。
疋田家に向かう途中で、ガイシャの兄、疋田登氏から、政治家との繋がりを聞いた大曲先輩は、すぐ蘭子に連絡した。
「課長。先日、結党した民政の会に参加した江藤すぐる氏と仲がいいらしい。所属はしていないが、調べる価値はありそうだ。」
「了解した。」
「大曲さんは、課長さんより偉い人ですか?」
登氏は、率直にきいた。
「ああ。元カレです。こいつは、今おっと。」
登氏は、あんぐりと口が開いたままだった。
午後4時。疋田家。
大曲先輩は、定番のお悔やみと捜査協力の話をした。
ガイシャの部屋はすごい部屋だった。
PCもゲーム機も多かった。
アルバムは、お兄さんの登氏と共用と言うので、登氏の部屋に行くと、同じ兄弟とは思えない几帳面な片付き方だった。
「両親が交通事故で亡くなってから、引きこもりになりましてね。高校も中退して。逃げ込んだのが『二次元の世界』。イラストは上手とは言えないけれど、現政権へのヘイトが受けたらしくて、こういう変化もありかな?と思いました。」
「ありかな?」
「明るくなったんです。自分を認める人間もいるんだ、って自信が付いたのでしょう。スーパーだって、一人で行くようになったんです。」
「それまでは、お兄さんが・・・。」
「ええ。」
「自信を持つこと自体は悪いことじゃないと思います。投稿だって、フィクションだと思えば・・・。」
「フィクションで無くなりつつありました。政治家と付き合うようになって。」
「お兄さんの勘が当たりましたね。」と、俺達の話が聞こえたのか、大曲先輩は言った。
「お兄さん。このパソコン、お借りしていいですか?勿論、すぐにお返ししますが・・・。」
「はあ。」
午後5時。捜査一課。第二応接室。
館内電話が鳴った。
村松がとり、スピーカーをオンにした。
「ハッキングされてたわ。詳細はこれから。サイバーアタックの『踏み台』にされていたわ。風刺イラストをネタにして、AIでアバターを作り、あたかも与党の重鎮が野党の誰かを嵌めようとしているかのような、現実っぽいフィションを作ろうとしていた。それに気づいた疋田は消されたのよ。自分のイラストの通りに。ネタにされた風刺イラストは、おみこしの下敷きになる絵だった。」
「これからは、我々のターンだ。」蘭子は言い、笑った。
翌日。午後2時。民政の会事務所。
「江藤さん。お隣とも仲が良いですよね、NPO法人むらさっきの会。今、ガサイレしています。ここも家宅捜索していいですよね。これ、令状。」
神道課長は、捜索令状を江藤に突きつけた。
午後5時半。。捜査一課横の大会議室。『市営住宅死体遺棄事件』本部。
取り調べ室から、倉田課長、酒井優香、神道課長、溝内課長、皇係長、紅林係長、蘭子、大曲先輩、管理官が出て来た。
倉田課長、酒井優香、神道課長、溝内課長、皇係長、紅林係長は、すぐに出て行った。
「ホシは、江藤すぐる、NPO法人むらさっきの会の剣崎雄馬、鳥居五郎、他数名。疋田は江藤に会い、『話が違う』と言い出した。『国会で混乱させる為の道具に使うなんて聞いていなかった。棒は、風刺漫画家なんだ。』という疋田に、剣崎は容赦なくクビを締めた。疋田は転んだ拍子に、脚に怪我をした。そして、土地勘のある鳥居の案で、移動をした。これが全貌だ。疋田登氏がアポをとってくれたお陰で、全員逮捕出来た。」
午後7時。眩目家。
「今回は、喪服は?」
「いや、登氏は親族だけで行う、と言ってきた。」
でも、蘭子は喪服を着ている・・・脱ぎ始めた。
神様。
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
新山ひかる・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
神道助六・・・捜査二課課長。警部補。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
倉田喜一・・・サイバー犯罪対策課課長。警部補。
酒井優香・・・サイバー犯罪対策課課員。
溝内健児・・・生活安全課課長。警部補。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
紅林新太・・・捜査一課第四係長。警部補。




