266.創始者と毒裁者
入口階段の上に、スーツの男が倒れていた。
巡回に来た警備員河野正義は、声をかけるのを止めた。
体の下から血液が流れ出ていたからだ。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午前9時。違憲異種党本部前。
入口階段の上に、スーツの男が倒れていた。
巡回に来た警備員河野正義は、声をかけるのを止めた。
体の下から血液が流れ出ていたからだ。
河野は、すぐに警備隊長の山谷に連絡した。
「了解。警察には、こちらから通報する。当番の相棒に連絡して、現場保存に当たれ。私も向かう。」
30分後。機捜と鑑識が到着した。
「その制服はもしかして?」と、赤井が言うと、「その通り。ガイシャは、党の創設者矢澤一郎さんです。野次馬・マスコミが殺到すると思って、他の現場からも応援に来させました。」と山谷は言った。
「助かります。発見者は河野さん?」
「はい。近くに人はおらず、不審車も見かけておりません。と言っても、ここはクルマはバイクくらいしか入って来られません。党の皆さんは、近くのパーキングビルを利用されております。」
「赤井さん。パーキングビルにも不審車の確認をさせましょうか。」と言う山谷に、「助かります。」と、赤井は頭を下げた。
山谷は元警察官で、警備会社の幹部だ。
「赤井。モデルガンだ。至近距離で撃っている。消炎反応を見たいが、党は承知せんだろうな。こんな紙、持ってるし。」
井関が差し出したビニール袋に入った紙には、『天誅』と書いてあった。
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『違憲異種党本部死体遺棄事件』本部。
新垣課長が同席している。
管理官が説明を始めた。
「ガイシャは、党の創設者矢澤一郎さん。発見者は、山谷氏の警備会社の河野警備員。階段にうつ伏せに倒れており、急病かと思ったが、流血があった。凶器は、改造モデルガンですね、井関さん。」
「ああ。至近距離で撃たれているから、ホシはガイシャの顔見知りだ。」
「モデルガンなら、反社は直接関係ないかも。でも、一応、当たってみます。」と、新垣課長は言い、さっさと出て行った。
「『天誅』などと時代がかった文言の紙がガイシャのズボンのポケットから発見されたが、今の所は、マスコミには伏せておく。与党にホシがいる、と妄想を膨らませて捜査を混乱させるからな。もし、デマが飛び交ったら、ホシのリークだろう。」
「与党の仕業に見せかけたいのなら、与党じゃないってことですね。合体政党が解体して、名目上、3つに分裂した政党ですからね。そっちの方が堅いかな。他の野党は、こんなリスクのあることはやらないでしょう。」と、大曲先輩は言った。
「私も同感だ。元々この党は、『船頭』が多すぎる。頭踏んづけても伸び上がりたい人間は多い。出資者がいれば、『喜んでー』だろう。辻さん達のチームに加えて、皇係長、餅屋係長、関口係長、紅林係長のチームを投入する。形式的だが、他の政党からの評判も集めてください。大曲達は、今、遺体確認して溝内課長と面談している幹事長から住所を聞いているから、直接矢澤家に向かってくれ。村松もな。」
「「「了解。」」」
午後2時半。クルマの中。
「壊し屋も、終わったか。」と、大曲先輩が言った。
「壊し屋って、何です、先輩。」と、村松が尋ねた。
「政党を結党しては、上手く行かなくて解党。それを何度も繰り返してきた人だ。奇跡的に政権交代した時、何も活躍しなかった。後輩達は、棚ぼたに喜んだが、何も勉強してこなかった。その場限りのことばかりやって、国民の期待を裏切り続けた。ゴールだったんだ。政権取ることが。だから、その後のことは何も考えていなかった。大学に合格して、何も勉強・学問をしなくなったのと同じだ。公務員試験に合格して、世間一般の常識すら知らない完了様と同じだ。」
午後3時半。矢澤家。
郊外にある矢澤家は、閑静な高級住宅地にあった。
少し離れた場所に駐めて、俺達は鑑識に変装して段ボールを抱えて玄関から入った。
奥さんの江威子さんは、流石に心得ていて、俺達が入るや否や、玄関を閉め、門扉も自動で締めた。
「この度は、主人がご迷惑をおかけして・・・。」
「いやいや、奥さん。ご主人は被害者ですから。頭を上げて下さい。」
大曲先輩は、得意の冤罪説を説いた。
奥さんが落ち着いたところで、大曲先輩は書斎に、俺は、蔵書のある書庫に案内して貰った。
アルバムを繰りながら、奥さんは、話しながら、注意人物に付箋を貼って行った。
かつてのトップレディは、そつがなかった。
「最初は、移民党だったんですね。」
「ええ。この頃の方々は他界された方も多いです。」
そう言って、今度は葉書ホルダーから、葉書をチェックし、今、アルバムに付箋を貼った人物の葉書に付箋を貼って行った。
「最初は、矢澤の秘書でした。何でも整理は私の仕事でした。でも、小田さんと違憲異種党を立ち上げてから、頂いたパソコンで、ある程度自分で整理するようになりました。」
書斎に戻ると、大曲先輩は、酒井に電話していた。
空の段ボールは、空では無くなりつつある。
そして、秋野に電話をしていた。
『お迎え』である。
待ち構えている記者達には、どの箱に何が入っているか分からない。
午後4時半。クルマの中。
「どうだった?」
「とても優しい、お爺ちゃん。そんな印象で、悪口は無かったです。」
「今は、現役じゃないからな。そんなもんだろう。」と、先輩は言った。
午後5時半。捜査一課。第二応接室。
皇係長が、応援チームを代表して言った。
「違憲異種党関係以外のどの党にも、臨時国会前の宴会があり、アリバイがありました。」
「違憲異種党内は、漏れ伝わるように内紛で揉めていました。だが、創始者の矢澤氏には無関心でした。離党していたと思っていた者もいました。そして、狙われるなら、新党立ち上げた人物だろう、と言う者もいました。」と、辻さんが報告した。
「今、酒井達に確認させているところだ、ハッキングの跡がある。矢澤氏は機械に詳しくないだろうから、知らずに使っていたかも知れない。明日の結果を待とう。」
「捜査一課ですけど、267」につづくー
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
新山ひかる・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
新垣舞・・・捜査四課(仮)課長。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
溝内健児・・・生活安全課課長。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
紅林新太・・・捜査一課第四係長。警部補。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
関口寛也・・・捜査一課第三係係長。警部補。
山谷敬三・・・元警視庁警部補。今は警備会社警備隊長。




