260.逸した常軌
あるエリア。噴水の中に、口輪を着けた男が佇んでいた。
いや、噴水の前の置物に寄りかかっていたのだ。
男の子が叫んだ。
「犬の真似かな?」
母親は異変に気づき、110番通報をした。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午前10時。あるモール。
日曜とは言え、連休ではないので、まだ混にあう様子はない。
何メートルか置きに、休憩エリアがある。
あるエリア。噴水の中に、口輪を着けた男が佇んでいた。
いや、噴水の前の置物に寄りかかっていたのだ。
男の子が叫んだ。
「犬の真似かな?」
母親は異変に気づき、110番通報をした。
交番や警備員を探すより、手っ取り早い。
30分もすると、機捜と鑑識が到着した。
「発見者の葉加瀬さんですか?」
「はい。あの人・・・。」
「お知り合いですか?」
「いえ。タレントの小田光一さんじゃないか、と思ったんですけど、まさか、ねえ。」
口輪を外した、秋野が言った。
「いや、小田さんですね。喉のところ、真ん中にホクロがあるし。」
「有名人?」
「お笑いタレントさんです。」
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『モール噴水死体遺棄事件』本部。
管理官が説明を始めた。
「発見者は、モールに買物に来ていた葉加瀬幹子さんと孝史くん。はかせは、はくしの方でなく、葉っぱに加えるに、さんずいのせ。で、ガイシャだが、秋野くん、詳しいの?」
「はい。ガイシャは、小山田プロ所属のお笑いタレント小田光一さん。漫才をする時は畑中勉さんと小田畑中というコンビ名ですが、最近、毒説タレントとして売り出して、選挙特番なんかで、候補者の悪口言っています。本人と局は受けていると思っているようですが、SNSでは炎上したばかりの『困ったちゃん』です。」
「『困ったちゃん』?」
「SNSでは、『困ったちゃん』や『構ってちゃん』という揶揄表現がよく使われます。」
そこに、玉田が入ってきた。
「おう、玉田。何か分かったか。」
玉田は、元鑑識で、井関さんんの弟子だ。
警察犬訓練士、ドッグトレーナーを経て、今は会社の偉いさんだ。
「おやっさん。『アヒル口マズル』です。犬の噛みつき防止、しつけ用です。日本製ですが、通販で1000円くらいで入手出来ます。その小田って奴、相方も手を焼く、悪口専門家です。誰も止められないので有名です。」
「それで、口輪、か。」
「シリコンだし、紐は幾らでも工夫出来ます。SMプレイみたいに手足を拘束でもしないと、自分で外せます。」
「拘束バンドの跡はあったよ。死んだら、悪口も言えないけどなあ。」
「じゃ。」玉田は、井関さんと蘭子、そして俺に一礼して出て行った。
新山が不服そうな顔をしたが、井関さんが睨んで、大人しくなった。
「詰まり、何かの理由でホシはガイシャを拉致、殺害の上、モールに運んだか。」
「辻さん達は、モール経営者に防犯カメラの映像を提出して貰い、巡回の警備員に話を聞いてください。プロダクションの方は、皇係長のチームと餅屋係長のチームに行って貰います。村松も行け。大曲達は、小田家だ。奥さんの満子さんが待っている。遺体確認は、プロダクションの専務が来て済ませ、溝内課長と面談している。」
午後2時半。クルマの中。
「憎まれっ子世にはばかる、ですかね。」
「それほどの大物じゃない、何か裏がある。」
運転を休めず、大曲先輩は言った。
「単純に、テレビで悪口言ったことが原因なら、発見場所はテレビ局でいいだろ?」
「それもそうですね。」
なるほど。何かの秘密を知ってしまって、関係者に消されたか。
午後3時半。小田家。
「個人事務所、クローズしなくちゃいけないわ。何てことしてくれたのよ。」
してくれた、のは、ホシだが。
小田は、個人事務所を持っていて、小山田プロ所属の下請けという形で働いていた。
「タブレットだけど、小田の部屋にあるわ。葉書ホルダーとアルバム、ね。アルバムはいいけど、葉書ホルダー、要るかな?ま、いいや。」
欠伸をしながら、満子夫人は用意してくれた。
アルバムを繰りながら、「小田は、大学時代の畑中とコンビで売り出したんだけど、暫く、私が居候して・・・結局、公私ともに面倒みることになった。危なっかしくてね。とうとう、三途の川、渡っちゃった。」と言った。
会社の集合写真から、仲が良い芸人をピックアップして貰った。
小田の部屋に戻ると、先輩はピースサインを出した。
その手には、1枚のSDが挟まっていた。
「多分、これが原因だな。」
―「捜査一課ですけど、261」につづくー
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
新山ひかる・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
溝内健児・・・生活安全課課長。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
----- ゲスト –---
玉田華代。元警視庁鑑識課の巡査。今は、ドッグトレーナーの会社の社員。




