254.郵便配達は3度チャイムを鳴らす
事情を話すと、隣家の奥さん、陸奥家の奥さんが、様子を見に玄関に入った。
悲鳴を上げたが、気を取り直して、110番通報をした。
「人が倒れているんです。いいえ、前原さんじゃありません。
========== フィクションです ===========
=================================
※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
=======================
午前11時。前原家。
郵便配達の南出はチャイムを3度鳴らしたが、応答がない。
不在連絡票を書いて投函しようとしたが、よく見たら、玄関引き戸が半分開いていた。
南出は、局配達員で、委託配達員ではない。
だが、門扉より中には入ってはいけないことになっている。住居侵入罪になるからだ。
南出は、大声で呼んだが返答が無い。塀を平行移動して、玄関の様子を伺った。
人の足が見える。
110番か119番をしようと思ったが、思い切って、隣家を訪ねた。
事情を話すと、隣家の奥さん、陸奥家の奥さんが、様子を見に玄関に入った。
悲鳴を上げたが、気を取り直して、110番通報をした。
「人が倒れているんです。いいえ、前原さんじゃありません。前原さんは、独居老人の男性です。倒れているのは、女性です。
30分後、機捜と鑑識が到着した。南出は、局に持ち帰ろうとしたが、陸奥家の奥さんが預かった。
事情をざっと聞いた赤井警部補は、身分証を確認、連絡先を聞いて南出を帰した。
発見者は、陸奥幸子になるからだ。
「ここのお宅は、裏口とか勝手口はありますか?」
「いえ。」
「じゃ、ガイシャが開けたことになるな。前原さんの連絡先は、ご存じですか?」
「はい。」独居である前原は、万一の為、、陸奥幸子に電話番号を教えていた。
電話がつながり、幸子は呆然とした。
「刑事さん。どうしましょう?」
=================
====================
午後1時。捜査一課横の大会議室。『留守宅死体遺棄事件』本部。
管理官は説明した。
「現場は、港区の前原家。郵便配達員がチャイムを鳴らしても応答がなく、隣家の奥さんが開いていた玄関の前に立つと死体があった。そして、側に転がっている空の花瓶。花瓶にはヒビが入っていた。隣家の奥さんが110番通報をして、死体が住人でないので、住人の前原孝史氏に電話。滅多にない偶然で、踏切事故で前原氏は既に亡くなっていた。玄関で倒れていた女性は所持品がなく、一応広報から『身元不明人捜索』をマスコミに依頼した。井関さん、凶器は花瓶ですか。」
「さようです。後頭部を一撃、ホシは一目散に逃げた。死亡制定時刻は5時間から6時間前。早朝ですね。不審者の目撃情報があればいいが。」
「陸奥さんが控えていた、前原さんのお姉さんが所沢市に在住で、交通事故のあった西東京市の病院にいる。お姉さんの了解を取ったので、直接現場で調べて欲しい。」
「よし。辻さん達は、早朝の目撃者捜しをしてください。1キロ以内にコンビニがあれば、立ち寄っているかも知れない、ホシも、ガイシャも。大曲達は、前原家のガイシャと前原氏の接点を探せ。ひょっとしたら、事故が無ければ、落ち合っていたかも知れない。」
「「「了解。」」」
午後2時半。クルマの中。
「ドラマみたいだな。こんな偶然って。」
「ああ。事実は小説より奇なり、いつものことさ。村松。陸奥さんと仲良くなってこい。」
「了解。」
午後3時半。前原家。
張り番の警察官に挨拶して、俺達は中に入った。
「眩目。取り敢えず、アルバムな。ガイシャは、前原さんと知り合いかも知れないから。」
「了解。」
書庫らしい小部屋に、洋服ダンスと別に、女物の服が吊ってあった。
まさか?
アルバムを繰っていく。
あった。
慰安旅行か。葉書ホルダーを探す。
あった。
先輩の所に行く。
「推定Gカップの女性の写真、あったか?」
「ありました。葉書の文面では、この写真の人は分からないなあ。」
「同一人物かどうか、分からないが、菊池千鶴子って人と親しいようだ。メールによると。それと、会社の書類が出て来た、引き出しから。太陽新開発って会社だ。蘭子に頼もう。
大曲先輩は、蘭子にスマホで電話した。
先輩は、スピーカーをオンにした。
「太陽新開発?空の太陽に、土地開発の開発か?今、広報から連絡が来た。会社から専務さんが確認に来るそうだ。」
誤報や捏造が多いが、テレビも役に立つ時もある。無論、広報課はSNSにも流す。
恐らく、失踪していたのだろう。
午後5時。捜査一課。第二応接室。
「前原家で転がっていたガイシャは、菊池千鶴子さん。太陽新開発の事務員・・・元事務員。出社しないので、心配していたそうだ。前原さんのお姉様の聡美さんは、ホテルに泊まった後、前原家に向かう。大曲。もう一度、前原家だ。」「了解。」
「課長。」
「何だ、村松。」
「陸奥さん。お隣に詳しすぎます。」
村松の第六感は、外れてはいなかった。
============
翌日。午前11時。捜査一課。第二応接室。
この部屋は、捜査一課の打ち合せ室でもあり、取り調べ室でもある。
隣の大会議室にも繋がっている。
辻さんが報告した。
「不審者や不審なクルマは確認出来ませんでしたが、ガイシャと前原さんがコンビニに買物に来るのを見た店員がいます。」
続いて、蒔さんが報告した。
「不審者や不審なクルマは確認出来ませんでしたが、陸奥さんと前原さんがスーパーに買物に来るのを見た店員がいます。」
更に、皇係長が報告した。
「ガイシャは、前原さんが定年退職した会社、太陽新開発の事務員なので、事務手続きに度々訪れていたようです。社員は、ただ仲が良いと思っていたようです。前原さんは、気さくないい人だったと言っていました。」
「退職金は?」
「既に出ています。」と、皇係長が答えた。
「変な預貯金の出入りは、ないみたいだよ。」と、神道課長が入って来て言った。
「呼んでないぞ。」「呼ぶ気だったろ?」
「呼ぶ気だった。」
「ほらほらー。他の案件で、半グレ絡みの特殊詐欺があったから、確認した。」
「なんで、口座知ってる?」「あれえ、聞いてない?前原さんのポッケにキャッシュカードあったよ。」
「詰まり、カネ、怨恨でないとすれば?」
「「「「「「「痴情。」」」」」」
午後1時半。前原家。
「あの子、お付き合いしていた人、いるのかしら?派手なワンピースねえ。」
前原聡美さんは、俺と先輩に言った。
午後3時半。捜査一課横の大会議室。『留守宅死体遺棄事件』本部。
取り調べ室から、溝内課長、深山課長、皇係長、神道課長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
「ホシは、前原家のお隣の陸奥幸子。前原さんは、隣家の幸子とも、ガイシャとも、大人の男女関係にあったようだ。事件当日。留守宅に来たガイシャが、『すっぽかし』になったガイシャとホシは鉢合わせした、口論の末、近くにあった花瓶で殺害したホシは、郵便配達が訪ねてきたので、発見者になることにした。同じ頃、前原さんは事故で亡くなっていた。前原聡美さんは、親族を呼んで丁重に弔うそうだ。前原家にあったワンピースは、ホシの物で、雨で濡れて帰って、そのまま置いてあったそうだ。」
午後6時半。眩目家。
「さあ、我々も、しっぽり濡れようか?」
「あ。置いて帰ったって・・・。」
「裸で帰ったに決まってるじゃないか。隣だし。お前、反対側の家、空き家だって言わなかったか?」
「あ・・・。」
言葉を発せ無くなった。唇が塞がったから。
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
新山ひかる・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
神道助六・・・捜査二課課長。警部補。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
溝内健児・・・生活安全課課長。
深山俊哉・・・警視庁広報課課長。警部補。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。




