243.忠誠
かつて団地と呼ばれた建物の3階のベランダの手すりから、青黒い物体が垂れ下がっている。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午前7時。市道の路地から入った、古い市営住宅。
犬の散歩をしていた高齢者が、見たのは異様な光景だった。
愛犬のロッキーちゃんが盛んに吠えるので、その方角を見ると、かつて団地と呼ばれた建物の3階のベランダの手すりから、青黒い物体が垂れ下がっている。青黒く見えたそれは、ジャージ姿の人間だった。
彼は犬を宥めて、110番通報をした。
30分ほどして、機捜と鑑識が到着した。
「あれか。おい。レッカー手配だ。」
赤井警部補は、ショベルカーも考えたが、時間的に調達しにくいと考え、レッカーで遺体を引きずりだすことにした。団地に無断で入り、内側から引き揚げる方法も考えたが、それは後に鑑識作業する時でいいと考えたので、井関に了解を取った。
「明らかに死体ではあるがな。」
継いで、離れて見ていた発見者に確認した。
「発見者の菅井さん、ですね。ここはよく通るんですか?不審者や不審な車は見ませんでした?」
「ここは、袋小路になっているんですよ、奥に進むと。こっちの方角もこっちの方角も。古い団地でしょ。今は無人です。近く、取り壊しするって聞いてますから、直接入ってもいいのに。ロッキーちゃんが吠えたのは、その血だまりでしょうね。あの死体も恐かったかな?」
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『団地死体遺棄事件』本部。
管理官は説明した。
「ガイシャは、先日合体政党が解体され、新しい政党で再出発しようとしていた小笠原純也。毎朝ジョギングすることは知られているが、自宅とはかなり離れている。ホシに土地勘があり、遺棄したのかも知れないが、首にリードの切れ端が着いた首輪があった。侵入経路は分からないが、団地のベランダの手すりから、両脇にロープを縛り付けた上で、ぶら下げていた。井関さん。死因は?」
「絞殺。ロープだろう。首のリードはわざと切ってある。本当はリードで死体をぶら下げたかったかも知れないが、死体とはいえ人間の体重を支えられない。このことは、元鑑識の玉田にも確認した。『犬の恨み』でもあるのかな?」
「辻さん達は、小笠原の新事務所で、怨恨がありそうな相手を探してください。大曲達は、小笠原の家に行ってくれ。大阪から遺族が到着する予定だ。」
「「「了解。」」」
午後2時半。クルマの中。
「私、あの男、嫌い。」村松がぽつりと言った。
「合体政党で何億も借金して、政党交付金で穴埋めして、一人だけ身代わり置いて政党の名前残して、自分はまた新しい政党交付金目当てで政党作るなんて。」
「1人でも残れるシステムがおかしいよな。まあ、選挙で得票出来るとは思えないが。」と、大曲先輩は言い、俺も「被疑者、多そうですね。汚き1票入れさせられた有権者は特に。」と言った。
「そこだな。詰まり、政党運営云々じゃないところにホシがいる。村松。ご近所と仲良くなって来い。」
「はぁい。」
午後3時半。小笠原家。
俺達が、表で待っていると、スーツケースを持った、和服美人がやってきた。
「小笠原萌子さん、ですね?」
俺達は、警察手帳を出し、官制名刺を萌子さんに渡した。
「取り敢えず、中へ。」と、解錠した奥さんは、中に招いてくれた。
俺達は、張り番の警察官に頷き、中に入った。
エアコンや灯りを点けて回る萌子さん。
前の事件では、家族も絡んでいたが・・・。
「ここが、主人の書斎です。PCのパスワードは、エム・オー・イー・ケイ・オーです。覚えやすいでしょ。」
確かに覚えやすいが・・・。
俺は、例によって、アルバムと葉書ホルダーを見せて貰おうとしたが、「年賀状は、大阪事務所なんです。」と言われてしまった。
アルバムを見せて貰い、政党の仲間や学校の同級生の写真から、仲の良い3人をチョイスして貰った。
いざと言う時は、大阪府警に確認して貰うか。
大曲先輩のいる部屋に入ると、大曲先輩は言った。
「奥さん。懇意にしておられるのは、千秋圭介、宮園幸太、百田悦治さんですか?」
「はい。4人一緒に、誰かに呼び出されている。殺害の前の日に。」
先輩は、辻さんに電話をしたら、蒔さんが出た。
「この3人の行方を確認してください。」
午後5時。捜査一課。第二応接室。
「大阪府警に協力要請して、小笠原の大阪事務所の葉書ホルダーから、住所を見付けて貰った。千秋氏は、大阪事務所での秘書で、ずっと上京していないことが確認された。そして、宮園氏は、利根川で遺体で発見された。首輪を着けていた。」
蘭子の説明の後に、辻さんが報告した。
「百田氏は、小笠原と共に、隣国の『交流会』に出席しています。」
「課長。小笠原萌子氏ですが、結婚前の籍は、隣国籍です。」と、皇係長が言った。
「課長。合体政党の、元の政党の『保養所』が、熱海にありました。それで、別件で出張中の紅林係長に行って貰いました。」と餅屋係長が言った。
「千秋だが、半グレのよさぐれ会と関係していることが分かった。」と、神道課長が言った。
午後7時。眩目家。
紅林係長から、蘭子のスマホに電話が入った。
「見つかったよ、百田が。」
翌日。午後1時。捜査一課横の大会議室。『団地死体遺棄事件』本部。
取り調べ室から、神道課長、溝内課長、皇係長、餅屋係長、紅林係長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
溝内課長、皇係長、餅屋係長、紅林係長はすぐに出て行った。
管理官が説明した。
「ホシは、千秋圭介、小笠原萌子、よさぐれ会幹部の桟敷仁志、草笛明。萌子は体裁は日本人だが、隣国人でスパイだった。それに気づいた小笠原と宮園は消された。千秋は、極秘情報を掴んでいるような素振りをした為、熱海に幽閉されていたが、ハッタリだった。知らないモノは話せない。開光くんは、萌子氏を疑っていたようだが、何故かね?」
「小笠原の新事務所から、遺族である萌子に連絡させたが、折り返しの電話で、バイトで雇ったばかりの事務員の名前を『神くん』と呼んだんです。私が新事務所に連絡した時、彼は『榊』と名乗りました。ファックスで送ったと言っていましたから、隣国人が読めない文字に気づかなかったんです。隣国人が読めない文字、即ち、和製文字の第一位は『凪』、第二位が『榊』です。」
「とにかく、小笠原は、総理を揺さぶる計画にことごとく失敗した。本国から抹殺命令を受けた萌子は、半グレのよさぐれ会に命じて、『忠誠を守れなかった犬』として処刑した。夫婦にはなったが、心は本国の民だった。では、記者会見に臨む。後は頼む。
午後7時。眩目家。
俺は、何故か首輪を着けられていた。
「私の犬として、忠誠を誓うか?」
「ワン。」
「よしよし。」と、蘭子は私の頭を撫で、首輪を外し、ズボンのベルトも外した。
俺って、マゾだったのかな?
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
神道助六・・・捜査二課課長。警部補。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
溝内健児・・・生活安全課課長。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
関口寛也・・・捜査一課第三係係長。警部補。
紅林新太・・・捜査一課第四係長。警部補。
※日本人しか読めない文字は意外と少なくないようです。
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