235.落ちたアイドル
エスカレーターでホテルエリアに向かう人々は、『まさか』の場面に遭遇した。
ホテルエリアからエレベーターから降りて来た、バスタオル1枚の女性が、エスカレーターの上をダイブしたのだ。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午前11時。沙汰ライトホテルPビル。
このホテルでは、リニューアルする際に、一階・二階を、『吹き抜け』のモールにし、四階以上をホテルエリアにしていた。
エスカレーターでホテルエリアに向かう人々は、『まさか』の場面に遭遇した。
ホテルエリアからエレベーターから降りて来た、バスタオル1枚の女性が、エスカレーターの上をダイブしたのだ。
先頭にいた、大学生飯島徹は、特撮の撮影かと思った。
エスカレーター下で、乗ろうとしていた女性、松野ひかるは、危うく、その物体、いや、人間に押し倒されるところだった。
床にたたきつけられた、その女性は、肉片や血が散った。
バスタオルは鮮血で染まった。
女性は、警備員を呼ぼうと思ったが、スマホでどこかに確認してから、110番通報した。
30分後。機捜と鑑識が到着した。
「即死だな。」
「110番通報してくれた松野さんは?・・・あなたね。え?手を挙げている貴方は?」
側にいた、赤井の部下が言った。
「目撃者だそうです。」
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「エレベーターから出て来て、まっすぐ上りエスカレーターの上を跳んだ。すると、生前の彼女を最後に見たことになりますね。」
「飯島徹です。大学受験の下見に、ホテルを予約して・・・見えなかったんじゃないですかね、刑事さん。下りエスカレーターは、すぐ隣です。でも、ここ、時間帯によって、上り下りが逆になるんです。」宙に浮いた状態にチラと見えたモノがあったが、徹は黙っていた。
「なるほど。下りエスカレーターを駆け下りる積りが、逆行していた。冷静な判断が働けば、隣に移って駆け下りた筈か。何故、急いでいたかな。」
その時、井関が赤井に耳打ちした。
「詳しい捜査は、専門の係に引き継ぎますので、恐れ入りますが、松野さん、飯島さん。連絡先等を・・・。」
赤井の指示で、赤井の部下がタブレットを差し出した。
「タブレットですか。今時ですねえ。」と、松野が感心した。
「ああ。誤字や紛失防止です。こう言っちゃなんだが、字が下手な人間が多くてねえ。後から見て、萩野だか荻野だかよく分からないとかあるんですよ。」
「成程。データを作る時にも見間違えて入力することもありますもんね。」と、飯島は納得した。
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『エスカレーターダイビング死亡事件』本部。
管理官が説明した。
「ガイシャは、妹尾知奈。愛称ともちんの、元ABK10のメンバーだ。千葉県我孫子の出身グループで一世を風靡した。井関さん、麻薬絡みですか?」
「LSDの新種だね。管理官の後ろでかくれんぼしている人は詳しいかな?」
「え?いつの間に。」
管理官の後ろから現れたのは、新垣課長だった。
「またもや、隣国マフィアの寝食。渡世の義理で生きてる親文衆はお冠。今、ヤクザネットワークで洗い出している。中途半端な組が組んで無かったら、闇サイトだな。」
「歯のカスから察するに、ガムに仕込んであったものを噛んだらしい。」
「辻さん達は、ABK10の事務所を当たって下さい。卒業生とは言え、何か情報があるでしょう。餅屋係長のチームに、ホテルに行って貰う。大曲達は、妹尾家だ。お母さんに生活安全課に来て貰っているから、一緒に自宅へ行け。顔が潰れてなくて何よりだ。」
午後1時。沙汰ライトホテルPビル。ある部屋。
「キャンセル?いいだろう。事故か事件か知らないが、目撃したんだな。約束通り、キャンセル料は取らない。ただ、着手料は返金出来ない。守秘義務も守って貰う。守秘義務違反は無いと信じている。じゃ、な。」
徹は、スマホで自宅に電話した。
「母さん?俺、やっぱり地元の大学にするよ。夕方の新幹線で帰るから。ごめんな。」
部屋の外。男は、にやりと笑って去って行った。
午後3時。妹尾家。
到着してすぐ、母親の知世さんは言った。
「泣いていいですか?」
「はい。村松。呼びに来てくれ。」
そう言った大曲先輩は、俺と一緒に外に出た。
しまった。マスコミだ。
先輩は、張り番の警察官に並び、上を見た。
俺も、それに習った。
「あのう・・・。」
先輩は、シカトした。
俺もシカトした。
15分後。先輩のスマホに鳴動があった。
俺達は、張り番の警察官に頷き、中に入った。
「取り乱して、ごめんなさい。」
「いいえ。動転するのは当然です。」
母親には、溝内課長から、事故だと伝え、裸だったことも伏せていた。
上り下りのエスカレーターの違いを知らず、転倒したことになっていた。
「事故でも、捜査一課なんですか?」
「捜査一課は、テリトリーが広いんです。ほら、誘拐の時も捜査一課が出向くでしょ。」
「逆探知とか。」
「そうそう。恐れ入りますが、お嬢様の私物を・・・。」
「あ、そうでしたわね。パソコンは持っていませんでしたが、タブレットなら持っていました。こちらが、私室です。」
俺は、クローゼットの部屋をざっと調べ、天井や壁を確認した。ヤクの隠し場所だ。尤も、親と同居なら、自宅に隠さないだろうが。それに、常用していたのではなく、『悪い虫』に打たれた可能性もある。
確認を終え、俺は、先輩に頷く。
知世さんは、アルバムを広げてくれた。
元ABK10の集合写真だ。中央に写っているのは、育ての親の、秋山孝史氏だ。
秋山氏は、喉頭癌で亡くなった。自然、グループは解散になった。
ともちんには、色んな噂が流れていた。風俗嬢になったとか、AVに出ているとか。
その関係で『殺された』のか?
その時、俺のスマホが鳴動した。
蒔さんだ。
「ホテルマンによると、慌てて彼女はバスタオル1枚で、フロントの前を通り過ぎ、エレベーターに乗ったそうだ。精算はしていない。餅屋係長から連絡を受けたので、元事務所の社長に確認したら、肩代わりして精算するそうだ。落ち着いたら、『お別れの会』を開くそうだ。それと、ファンには隠していたが、カレシがいたらしい。事件に関わりがあるかも知れないので、事務所にデータを提出して貰った。」
知世さんがいるので、俺はスピーカーをオンにしなかった。
タブレットとアルバムと葉書ホルダーを預かり、俺達は、クルマに戻った。
先輩は、暫く、家の近くを張り込みするように村松に命じた。
午後4時半。クルマの中。
「カレシ?」
「大森プロの井出厚。鳴かず飛ばずの歌手です。」
蒔さんの言葉に、俺達は思い出した。
スキャンダルとして、マスコミが懸命になっていたことを。ともちんの事務所も井出の事務所も火消しに必死だった。
じゃ、単なる噂じゃ無かったんだ。
井出は、芸能界を干された。
ともちんは社長の死去でグループ解散になった。
事務所は存続しているが、所属していたのがABK10だけが所属タレントじゃ無かったからだ。
俺は蘭子に連絡した。
「分かった。今日はあまり時間がないが、アポぐらいは取れるだろう。皇係長のチームに聞き込みさせよう。」
翌日。午前10時。第二応接室。
先ず、皇係長が報告した。
「早いですが、向こうの都合で8時に井出の事務所に行って来ました。芸能界を辞めた直後は埼玉の実家にいましたが、後は分かりません。半グレの社員になったという噂もありますが、はっきりしません。」
続いて、神道課長が報告した。
「井出に似た半グレの社員は、まだ調査中だ。」
「ABK10の方ですが、元メンバーにグラビア撮影するみたいなことを言っていました。ホテルは、その撮影場所だったのかも知れません。」
餅屋係長が報告すると、蘭子は「それで、アポローンの天野社長に問い合わせてみた。単純にヌードやセミヌードなら、今は大袈裟なセットくまなくても、スマホでも充分撮影出来る。ボカシも入れられる。10分以内のリール動画なら簡単だ、と言われた。そこで、こう推測した。妹尾は井出とまだ付き合っていた。井出がカメラマンになりホテルで撮影していた最中、妹尾は幻覚剤の副作用で、言動がおかしくなり、ホテルから跳び出した。すると、幻覚剤はどこから入手したのか、井出はどこに行ったのか、という疑問が残る。」と、蘭子が言った。
「どこに行ったのかは分かりませんが、こんな写メが匿名で届きました。」溝内課長が皆に見せた写真は、立ち去ろうとする男の写真だった。
皇係長が言った。
「井出ですね。耳タブに特徴がある。タイムスタンプによると、飯島くん達が目撃した事故の直後だ。」
「よし、井出を指名手配だ。神道、引き続き、半グレ、当たってくれ。直接関わっていないのなら、素直にクビを差し出すだろう。」
「分かった。」
「大曲君が持ち帰ったタブレットからは、ハッキングの跡は見つからなかったよ。メールのやり取りでイニシャルAが出て来ますが、井出のことでしょう。グラビア云々は直接話したのかも知れない。」と、倉田課長も報告した。
午後2時半。『エスカレーターダイビング死亡事件』本部。
取り調べ室から、神道課長、皇係長、、餅屋係長、溝内課長、倉田課長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
神道課長、皇係長、、餅屋係長、溝内課長、倉田課長はすぐに出て行った。
管理官が説明した。
「ホシは、井出厚。半グレの有限会社如月が、ヤサを教えてくれたよ。LSDは、拾ったもので、井出が勝手に持ち出した。だから解雇した、と言っている。ホテルの駐車場の防犯カメラからも井出が去る様子が映っていた。組織ぐるみではないにしても、凄惨な事件・事故だった。井出は、予測出来なかった。気分を高揚したら、撮影に積極的になるだろうくらいに思っていた、と供述した。遺族には・・・。」
「私が報告します。」と、村松が言った。
「そうか。よろしく頼む。」
ナイーブな報告は、事務的でない方がいいだろう。
午後2時半。沙汰ライトホテルPビルの一室。
激しく、セッ〇スした後、松野は、殺し屋に言った。
「儲け損なった?」
「前金制だ。お前が発見者になるとはな。」
「警察にチクったの?」
「手が滑っただけだ。」
「こういう風に?」と、松野は殺し屋の〇間に手を伸ばした。
「後、何回だ?」
午後5時。夕方のニュースで、妹尾の死は大々的に報じられたが、LSDのことは伏せられ、元事務所が、ノイローゼ気味だったと伝えた。
午後7時。眩目家。
「効いたね、マスコミの『戒厳令』。どんな手を使ったの?」
「こんな手。」
俺は、ズボンを脱がされた。
夕飯、遅くなるな。
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
溝内健児・・・生活安全課課長。警部。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
倉田喜一・・・サイバー犯罪対策課課長。警部。
名も無き殺し屋・・・???
※題材になる事件はありますが、大きくアレンジしています。
クライングフリーマン




