233.嫌疑は県議?
「お義母さま、変ねえ。」
「変だわ。」そう言って、姑は入って行く。
「お義母さま、叱られますわよ。」そう言いながら、嫁も入って行った。
「妙な櫓だわ。紅白幕無いし、柱も梁も・・・なんで緑?」
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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午後1時。平地になった、元パチンコ屋。
昨夜から降り続いた雨は上がった。
その敷地は、低いロープが張り巡らされているだけだった。
ある義理の親子が、その前を通りがかった。
盆踊りの櫓だ。
確か、今年はゲリラ豪雨の為、中止になった筈だが、ここは、いつもの会場ではない。
「お義母さま、変ねえ。」
「変だわ。」そう言って、姑は入って行く。
「お義母さま、叱られますわよ。」そう言いながら、嫁も入って行った。
「妙な櫓だわ。紅白幕無いし、柱も梁も・・・なんで緑?」
「お義母さま、マネキンだわ。盆踊りにマネキ・・・。」
嫁は発見した。
2体のマネキンと思しき物体の足下は、水たまりだけでなく、血だまりが混じっている。」
姑は、目眩がして倒れた。
嫁は、先ず110番通報をした。
嫁が自販機で買ったペットボトルで姑を介抱していると、機捜と鑑識が到着した。
「通報して頂いたのは、三枝桃子と申します。こちらは、夫の母の綾子です。義母は、一時的に気分が悪くなっただけです。」
「成程ナア。」と、櫓の周囲を見た井関が言った。
「動転されたんですね、お姑さんは。」
「ええっと、発見当時は?」
「ここ、盆踊りの会場じゃないんです。倒産したパチンコ屋さん跡で、平地にしたばかりなんです。おかしいな、と思って近寄ったら・・・。」
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午後1時。捜査一課横の大会議室。『パチンコ屋跡死体遺棄事件』本部。
管理官が説明した。
「ガイシャは、今の所、不明なので、広報課から情報提供を呼びかけている。現場は、元パチンコ屋で、発見者の三枝さん親子は、盆踊りの櫓のようなものに引かれて発見したそうだ。井関さん。」
「死因は、殴打による失血死。死後15時間は経っている。櫓は緑色にペイントされ、2体はワイヤーで櫓に固定されている。もしやと思い、アポローンの天野社長に確認したら、グリーンバックだ。合成したら、櫓とワイヤーは消える。2体は、有名な洋画『〇イタニック』のクライマックスシーンを演じているかのようなポーズをワイヤーによって固定されている。しかも体は、演劇の舞台における『支木』で固定されている。凝った演出だ。パット見は、人形だ。」
「『〇イタニック』と言えば、九州の与党系県議が、海外訪問中にお座敷でふざけている写真がSNSで拡散して、与党から厳重注意されて話題になっていますね。他の不祥事が続いて発覚したばかりなのに。」と、蒔さんが、報告した。
「じゃ、それを真似た訳か。それでなくとも、議員と名前のつく者が公費で『物見遊山』旅行することが批判されているのに。エッ〇ェル塔でポーズ取った写真を公表したり。」
珍しく、管理官は憤慨した。
午後3時。第二応接室。
溝内課長が報告した。
「広報課に、問い合わせ確認があり、身元が判明しました。失踪届が出ています。2人は、大田区在住の十勝留美子氏、港区在住の市丸義正氏。2人ともサラリーマンですが、別別の会社です。失踪当時も、別別の場所にいました。共通点と言えば、九州の与党系県議と同姓同名であることだけです。関係者が遺体確認に向かっています。」
「間違い殺人、ですか。」と、俺はとんまな質問をした。
「間違いなら、県議と接点がなければいけないよね、眩目くん。」
しまった。夜、お仕置きされる。
「間違いでなく、理由はともかく故意だとしたら、その接点を見付けないとな。」と、新垣課長が言い、『館内電話』が鳴った。
「見付けたか。でかした。アイス、奢ってやる。」
電話の相手は、酒井優香だった。
酒井は、かつては事件のガイシャの妻だったが、今やすっかり蘭子のお仲間だ。
15分ほどで。酒井はやってきた。
「意外や意外。同姓同名、同じ漢字の県議のアバターさんは、1人ずつしかいなかった。」
「その1人ずつがガイシャですか。」と、溝内課長は呆れた。
「こうは考えられないか?ホシは、何らかの事情で東京から九州まで行けなかった。そこで、身代わりを立てることにした。身代わりは、誰でも良かった。合致する者がいなければ、他の手段、複数いれば、一番目。」そう言ったのは、神道課長だった。
「迷惑甚だしいな。その仮説だと。何の怨みも身に覚えないのに、殺されるなんて。」
新垣課長は、拳を握った。
「先輩。課長。取り調べ、私にやらせてください。」と、村松が言った。
「まだ、捕まって・・・。」と、俺が言いかけると、大曲先輩が俺を制し、「分かった。予約な。予約入れとこう。」そう言って、館内電話横のメモ帳にメモをした。
蘭子の口角が上がった。
「辻さん、ガイシャの会社は明日でいいです。先に、ガイシャの家に行きましょう。辻さん達は、十勝留美子氏のお宅、大曲達は、市丸義正氏のお宅。状況によるが、今日は直帰。」
「「「了解。」」」
午後4時半。市丸家。
応対したのは、市丸はじめ氏、父親だった。
「お世話になります。お辛いでしょうから、実際の確認は明日以降でもいいですよ、と言われました。写真は、失踪届を出した時に出してありますが。」
「先日、家内の十三回忌を済ませたばかりなのに。誰かの恨みを買っていたんですかねえ。書斎と言うより、勉強部屋の延長ですが・・・。」
はじめ氏が案内してくれたのは、きちんと整理された部屋で、アルバムも葉書ホルダーも、そこにあった。
「刑事さんが来られるから片づけたんじゃありません。あの子の性格なんです。」
「確か、営業職でしたね。」
「ええ。」
蒔さんから、俺のスマホに電話があった。
俺は、スピーカーをオンにした。
「眩目くん。順番が逆かも知れない。」
「逆?」
「酒井さんが応援に来てくれたんだけど。ハッキングの跡はないが、九州に旅行経験があったよ。」
大曲先輩の、キーボードを叩く音が止まった。
俺と、はじめ氏は、画面を見た。
『留美子さんの浴衣姿が忘れられない。目の前でミサンガを取ってくれって言われた。苗字が市丸に変わるんだから、もう要らない、なんて。』
「この後、恋人同士のメールに変わります。ハッキングの跡はありません。詰まり・・・。」
「先輩。」
「詰まり、この家の市丸義正氏と、九州で出会った恋人の留美子さんに恨みを持つ人間がいたんです。アバターじゃない。おっちょこちょいの県議は『絶好の隠れ蓑』だったんです。」
はじめ氏は、その場にへたり込んでしまった。
ミサンガは、『プロミスリング、プロミスバンドとも言う願掛けのアクセサリー』で、自分で切ってはいけない、というタブーがあると聞いたことがある。
2人は婚約中だった。九州旅行が縁で。
―「捜査一課ですけど、234」につづくー
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
神道助六・・・捜査二課課長。警部補。
新垣舞・・・捜査四課(仮)課長。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
酒井優香・・・サイバー犯罪対策課課員。
溝内健児・・・生活安全課課長。
※題材になる事件は、実際の事件はありますが、フィクションとして、大きくアレンジしています。
クライングフリーマン




