225.音信不通殺人事件
9月25日。午前11時。嶋谷家。
宅配食便の老舗熱海の配達員の青山千佳子は、不審に思った。
前日に配達した筈の弁当が残っている。
宅配食ボックスのキーは、配達員と利用者が持っている。
========== フィクションです ===========
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
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9月25日。午前11時。嶋谷家。
宅配食便の老舗熱海の配達員の青山千佳子は、不審に思った。
前日に配達した筈の弁当が残っている。
宅配食ボックスのキーは、配達員と利用者が持っている。
配達員は、新しい弁当を入れた冷蔵ケースと既に配達したケースを入れ替え、新しいケースに施錠する。
利用者は、合鍵で開け、食事をする。
昔は、弁当もレンタルで、利用者が洗って返していたが、流行り病以降衛生面を考慮して使い捨てポリケースだ。
子細に観察し直した青山は、いつも自分が施錠する場所と違う場所に、先に配達したケースが施錠しているのを確認している。
玄関をそっと開くと玄関が施錠されていない。
奥の寝室に行くと、嶋谷賢人は眠っているように見えた。
だが、おかしい。臭う。
エアコンがついていない。扇風機もついていない。
どちらのリモコンも布団から手の届く範囲にある。
青山は深呼吸して、会社に連絡、会社から110番通報をして貰った。
青山は、異変が起きたときは弁当を食べなかったときだからよろしく頼む、と言われていた。
午後2時。捜査一課。蘭子のデスク。
「課長。相談が・・・。」
紅林係長の興奮を見て取った蘭子は、第一応接室に紅林を連れて行った。
中では、餅屋係長と捜査員2人が話し合っていた。
「失礼。他を使おうか。」
「いえ。もう終わりましたから。」餅屋係長は、紅林に頷き、3人とも出て行った。
第一応接室。
ここは、簡単な打ち合せに使用される。
「どうした。」
「港区和泉署管内の、【衰弱死】事件なんですが・・・。」
「誰の知り合い?故人の知り合い?故人の知り合いの知り合い?」
「所轄署の水上巡査が後輩です。」
「ふむ。それで?」
紅林は、高齢者の衰弱死亡事件にしてはおかしい、と言い出した。
「どこがおかしい?」
「配達員が、施錠した場所と違う場所に施錠されていた、と水上に言ったんです。だが、胃の内容物から毒が検出されなかったので、死亡したから食べられなかった、と片づけられてしまった。」
「死んで得する者は誰だ?独居だったな。親族か?」
「そうなります。」
「水上は何故、お前に相談した?先輩だから?」
「いえ。それだけでなく、宅配食便絡みの事件を扱ったことがあるので、もしや、と。」
「外国人配達員の事件だな。分かった。別件で、こっちに回させる。結果が変わらないことも覚悟しているな。」
「はい。」
紅林係長は、病気で亡くなった船井警部補の後釜に蘭子が推奨した。
蘭子は、実力主義だ。
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午後4時。捜査一課横の大会議室。『高齢者衰弱死亡事件』本部。
管理官が説明した。
「ガイシャは、一応、ガイシャとする。対象の高齢者は、嶋谷千禾夫。独居だ。一昨年、同居していた母親を亡くし、完全な独居生活に戻った。本人は『これから、終活だ』などど言っていたらしい。周知の通り、9月19日から9月23日までは、久々の、秋の大型連休シルバーウィークだ。嶋谷氏が定期的に利用している宅配食便会社も、その間連休だ。スーパーでそれなりに貯えてあった食料も、買い出しに行けなくなった。井関さん。」
「死亡推定日時は、9月22日午前7時以降数時間。胃の内容物は、食パン、レタスサラダ、ヨーグルト、温泉たまご、ベビーチーズ、マンゴー。これは、台所に空き缶があった。食料が枯渇していた訳ではない。落雷などによる停電もなかった。エアコン・扇風機のリモコンも布団の近くにあった。エアコンも扇風機も故障していない。冷蔵庫の一時停電状態も見当たらない。遺体に外傷はない。ただ、俺が気になったのは、入眠剤の服用跡だ。」
「入眠剤と言えば、あの・・・。」
「そう。さじ加減で眠ることが出来るヤクだ。所轄では、仏さん、嶋谷さんの近くにある多種の薬に入眠剤があるから、それを服用して眠ったのだろう、と判断した。親族は、日頃、音信不通だったから、嶋谷さんが普段何を服用していたか、どんな生活をしていたか、どんな既往症があったかなどということは、調べていない。」
「遺体は、幸か不幸か葬儀場の順番待ちで、まだ2日間は、葬儀会館で安置されている。大曲・眩目は、秋野ご夫妻に協力して貰って、嶋谷家を徹底して調べろ。井関さん、ご遺体の再確認をお願いします。辻さん達は、親族を調べてください。」
「「「了解。」」」
一応、捜査は、午後6時までという制限で皆は動いた。
午後5時。嶋谷家。
張り番の警察官に挨拶して、俺達が入ろうとすると、越前屋課長が、一人の男を連れて来た。
「彼はね。元空き巣常習犯。『経験』を生かして、今は『防犯アドバイザー』。」
「どうも。温水でーす。
温水氏は、さっさと玄関の引き戸と宅配食ボックスを調べた。
「課長。玄関はピッキングされてませんが、ボックスの錠前はピッキングされていますね。」と、温水は報告した。
俺は、すかさずメモをした。
「どんな小さなドライバーでも、こじれば傷がつくんです。」
「やはり、配達員が言った通り、1度開けて、何か細工して締めてますね。門扉は開けっぱなしだから、いつでも誰でも入れる。」
「最近、場所を覚えて弁当を盗む輩がいるそうですよ。」と、温水は言った。
屋内に入って、秋野と智子は先ずピルケース棚の薬を確認した。
「大曲さん、入眠剤を使ってませんね。」
俺は思い立ち、ゴミを調べた。
嶋谷さんは、分別ゴミを捨てやすいように、予め、専用ゴミ箱を用意してあったようだ。
見付けた。
「先輩!!」
大曲先輩は、言った。
「決まりだな。」
「先輩!」と、村松が入って来た。
「50メートル先に、『鳥谷』ってオウチがあります。」
「ダメ押しの1点。だ。」
大曲先輩は、蘭子にかいつまんで報告した。
「明日、警備課と三課に張り込んで貰おう。」スピーカーを通さなくても、蘭子の嬉しい声が聞こえた。
翌日。午前10時半。鳥谷家。
忍び込んだ男に手錠がかかった。
「住居侵入罪以外は、後でゆっくり、ね。」と、越前屋課長は笑った。
午後1時。捜査一課横の大会議室。『高齢者衰弱死亡事件』本部。
「ホシは、宅配食便を利用していた嶋谷家と鳥谷家を間違えて住居侵入、件の睡眠薬入りドリンク剤を宅配食ボックスに混入した、亜細亜平和会と仲のいい、『へい、ヘイ平和』の社員越智雄二。後は二課で追い詰める。開光くんは?」
「嶋谷さんの、お悔やみに行ってます。」と、俺は答えておいた。
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午後1時。葬儀会館万民舎。嶋谷家控え室。
「だから、お兄ちゃんが悪いのよ。私が連絡しているから着信履歴見ようとしないから。」
「着信履歴、残らないですよ。年代や機種によって可能な場合もあるでしょうが。」
大曲は、さらっと言った。
「PCの日記にありました。『たまに、アリバイ作りに家に電話することもあるだろうが、当家では、イエ電に着信履歴の電話番号は残らない。このことは何度か法事の時に言ったのに。どの道、宗教に一生懸命で、私に構う時間が1秒でも惜しいのだろう。だから、留守番電話に名前すら残さない。着信履歴に頼るのは『義務を果たした』というポージング。好き嫌いがあっては義務は果たせない。スマホも、電話帳登録しないで着信折り返ししていたかも知れない。一人で抱え込むなと言いながら、法事の手伝いもしなければ、庭の草引きもしない。私は野垂れ死ぬだけだ。哀れんでくれるのは他人だけだろう。』そう書いてありました。」
「事件は解決しました。結果的に、犯人は人違いで毒を盛った。恐らく漢字を読めなかったのでしょう。でも、嶋谷さんは、自殺する気も無かった。頻繁に貴方方が連絡を取っていれば、孤独死にならなかったかも知れない。強いて言えば、彼を死に追いやったのは、貴方方です。年齢がたった2つしか違わないのに、同じ血は流れていなかったようだ。『未必の故意』だ。今回でなくとも、自分の知らない内に死ぬことを望んでいた筈だ。」
開光蘭子は、『快刀乱麻』で応えた。
そして。蘭子は大曲と、『ご遺体』に手を合わせた。
午後1時半。葬儀会館万民舎。駐車場。
クルマに乗り込もうとする蘭子が振り返る。
「どうした、蘭子。」
「いや、今日も暑いな、と思っただけだ。」
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午後7時。眩目家。
「真吉。もう『死ぬ』って言うな。」
「ええ、言って無いけど。」
「私が『攻める』度に言うじゃないか。」
意味が違うけど・・・。
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
紅林新太・・・捜査一課第四係長。警部補。
越前屋幸太・・・捜査三課課長。警部。
名も無き殺し屋・・・?
作品で「シルバーウイーク(マスコミ用語)」を利用しているため。投稿時点では未来日付になっております。ご了解ください。




