219.夢は夜ひらく
運転台を覗くと、誰も乗っていない。
50メートル先の交番に行き、駐在に駐車違反車両がある、と報告した。
確かに、こんな所に放置したままだと、客も銀行員も邪魔だ。
駐在は、本署に連絡し、レッカー移動を依頼した。
========== フィクションです ===========
=================================
※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
===========================
午前6時。ある国道沿い。地方銀行の支店の前。
ジョギングをしていた中年男性が、銀行のATM出入り口付近に駐まっている軽バンを見付けた。実は、男性は、その銀行の支店の部長だった。
運転台を覗くと、誰も乗っていない。
50メートル先の交番に行き、駐在に駐車違反車両がある、と報告した。
確かに、こんな所に放置したままだと、客も銀行員も邪魔だ。
駐在は、本署に連絡し、レッカー移動を依頼した。
レッカー車は、主に民間・民間のロードサービス業者や自動車整備工場、JAF(日本自動車連盟)などの民間組織、および警察の委託を受けた民間事業者に所属している。
警視庁にも特科車両隊があり、十隊の機動隊があるが、主に警備に関する作業に携わっている。単純な移動は、民間委託である。
JAFのレッカー車が到着した。
JAFの隊員がバンが冷凍車であることに気づき、解錠した。
中から出て来たのは、冷凍された死体だった。
隊員は、改めて警察に通報することになった。
機捜と鑑識が到着した。
「熱中症にはならないな。」と井関は軽口が言ったが、赤井が後方を指さした。
見ると、智子が睨んでいる。
「冗談はさておき、一旦、移動しなくちゃな、警視庁に。」と、JAF隊員に挨拶し、改めて移動を依頼した。
現場では、鑑識作業は困難だからである。
鑑識がJAFのレッカー車と去った後、「智ちゃん、お袋さんに似て来たな。」と、呟いた。
「主任、ご存じなんですか?」と言う部下に、「うん、鬼って言われてたな。誰にも・・・。」と、赤井は『見ざる聞かざる言わざる』のポーズをとった。
「俺達も引き揚げよう。不審車両の方は捜査一課にお任せだ。」
=================
====================
午後1時。捜査一課横の大会議室。『冷凍車死体遺棄殺人事件』本部。
管理官が説明した。
「ガイシャは、元官僚の田町慧二。先日、千葉県で水害があったが、あの地域の堤防計画を昔の政権で行った『政府推進事業スリム化プロジェクト』で却下された堤防計画で、現状を『過少申告』した官僚だと言われている。田町は、減光議員と仲良くなりたかったらしい、と噂され、退職した。その田町に怨みを抱くとしたら、千葉県民だが、簡単には絞り込めない。反対運動は、どこでも起きる。千葉県に限ったことではないからな。だが、時間が経ち、問題が表面化したのは最近だ。そして、退職していた田町は死んだ。」
「溺れ死にさせる代わりに冷凍ですか。やっぱり拷問ですね。」と、大曲先輩は言った。
「警視監が問い合わせたところ、プロジェクトに関しては当時の飲酒党より、今の与党移民党の方が詳しいだろう、と開き直られた。そこで、当時は野党だった移民党に打診した。移民党の平泉議員は、当時の飲酒党の『政府推進事業スリム化プロジェクト』に胡散臭さを感じて、独自に調べていたらしい。政権を取り戻してから封印していたらしいが、捜査に役立つなら、と協力を快諾してくれた。」
「それでは、辻さん達と皇係長のチームは、平泉さんに接見して資料を公開して貰ってください。飲酒党には、餅屋係長のチームに減光議員の評判を尋ねて貰う。大曲達は、田町宅だ。」
「「「了解!!」」」
午後2時半。クルマの中。
「俺、あのオバサン、苦手だなあ。」
「私は、嫌いです。」と、村松は、きっぱりと言った。
「何しろ、心だけはグラビアアイドルの時のままだからなあ。面影、微塵もないのに。」
午後3時。田町家。
到着すると、2人の男が言い争っていて掴み合いの喧嘩をしている。
俺達は、無理矢理離れさせた。
2人はガイシャの兄、慧一と、弟慧三だった。
「まあまあまあ。原因は何です?」
「相続はフリーズするって、言って来たんです。先日亡くなった、父の相続です。会計管理は、数字に強い慧二が担当していたんです。」と、慧一が言った。
「その慧二さんが亡くなったことで有耶無耶になった、ということですか。捜査に協力して下さい。犯人が分かれば、全てが明るみに出るかも知れない。生きていれば、どこかに保管してある筈でしょう?通帳やら何やら。」
「「はい。」」
「眩目。お二人に協力して貰って、家宅捜索。慧二さんのPCは?」
「書斎です。」と、今度は慧三が言った。
俺は、通帳だけは、発見した。トイレに隠し棚があったのだ。
こういう場合、印鑑は別の場所だ。
アルバムを2人に調べて貰って、ガイシャと繋がりが深い人物を特定出来た。
徳井、という、官僚としての同期だ。
書斎に行って、俺は大曲先輩に報告した。
「表面上、出て来たのは、徳井って人物だ。」
「先輩。表面上って?」
「特殊なファイルがある。また、サイバー犯罪課の出番だ。」
========================
同じ頃。午後3時。平泉家。
「大勢で押しかけて済みません。」と、皇係長は平泉元議員に謝罪した。
「いやいや。事件ですからね。私も引退してから大分経つ。でも、問われて思い出しました。これが資料です。当時、国交相だった大北さんも亡くなっている。当時、プロジェクトの中心だった減光議員は、『過少申告』だと知りながら、堤防計画を潰したのは、親那珂派だった大北さんに頼まれたからだと思います。資料にある通り、堤防を高くしないと、大水害が起きる。予見出来た筈なのに潰されたのは、那珂国からの指令だと思います。簡単に言ってしまうと、『嫉妬心』ですよ。あの民族特有のね。マスコミに箝口令が敷かれている訳でないのに、那珂国南部の『洪水』については、一部SNSでしか伝わってこない。忖度でね。」
「平泉さん、嫉妬心って、日本の技術に関してですか?」
「その通りです。当時、水害予測地域だったリストの、一番上に載っているでしょう?」
「詰まり、ここをモデル地域とすれば、他も右にならえするから、潰した訳ですか。」
「その結果が今回表面化した訳です。自分がいた党だから庇う積りはありません。彼らの『無駄を無くす』は、『無駄を助長する』結果になった。政治家と官僚、癒着会社の圧力に簡単に道を譲るようなプロジェクトは、単なるパフォーマンスでした。外に出たから言えることですけどね。『官僚社会』と言われるのは、本当のことです。誰が大臣として上に来ても牛耳っているのは自分達だという自負で。公表されている収入より遙かに多いですよ、彼らの収入は。諸費税減税に強く反発しているのは財務官僚だけじゃない。『官僚』という、ピラミッドの頂点階級ですよ。逆らったり暴こうとすると、あらゆる手段で妨害、潰しにかかる。」
「恐いですね。」
「はい。田町が退職したのは減光議員とのラブロマンスじゃない。那珂国との情報漏洩を隠す為です。そして、田町は、父親の事業を継いだ。父親ががんになったから。で、『箱物失敗経営』をした。分かりますよね?」
「確か、ホテルとか、『子供にお仕事紹介』事業の放漫経営が話題になりましたよね?」
「それです。田町は、素人考えで経営を始めた。父親が経営を始めた頃はバブル真っ盛り。何やっても儲かる時代でした。でも、バブル終焉を迎えたところに、父親は、がんになった。湯水のように、癌治療に当てたが、とうとう去年亡くなった。負債は大きいと思いますよ、生命保険はかけていただろうが。」
=========================
午後4時。捜査一課。第二応接室。
皇係長と、辻さんは、平泉元議員の話を報告した。
「ありがとうございます。興信所を使う必要が無くなりましたね。元官僚ってのに、引っかかっていたんです。」と、蘭子は言った。
「減光議員の評判は、世評通り。この案件には関わっていませんね。アリバイもありましたし。」と、餅屋係長が報告した。
「遺族になった、兄、慧一と、弟慧三ですが、どちらも借金があります。」と、関口係長が報告した。
継いで、倉田課長が報告した。
「大曲くん、よくパスワード、分かったね。ケイ、いち、ケイ、さん。」
「山勘です。」と、大曲先輩は、にっこりと応えた。
「通常メールには、同期の徳井に呼び出された形跡しかありませんでしたが、極秘ファイルには、徳井に強請った形跡のメールがありました。堤防に関する大臣の私信や情報漏洩した情報のバックアップとか。一種、『保険』だったんでしょう。ハッキングの跡はありましたが、極秘ファイルは盗まれなかった。時限装置プログラムが組み込まれていたらしいです。複数のファイルが解凍されないと、辿り着けないように。」
「詰まり、返り討ちにあったか。神道。実行犯の見当はついたか。」と、蘭子は神道課長に確認した。
「徳井に繋がっているのは千葉平和連合、という、自称公益法人。今、贈収賄という別件で引っ張っている。」
「役者が揃ったな。」
午後7時。捜査一課横の大会議室。『冷凍車死体遺棄殺人事件』本部。
取り調べ室から、倉田課長、酒井優香、神道課長、皇係長。餅屋係長、関口係長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
倉田課長、酒井優香、神道課長、皇係長。餅屋係長、関口係長は、すぐに出て行った。
管理官が説明に立った。
「ホシは、ガイシャの同期の徳井。徳井と懇意の千葉平和連合の名越平太、村中敬一。閉店後のスーパーに潜り込み、冷凍室で凍らせたそうだ。警報装置を切って。徳井は、田町に強請られ、殺害計画を立てた。殺されるのを覚悟で田町は向かった。口を割らないから自宅を探そうとしたが、兄弟が家に来ているので中止した。クルマの出入りは、近所の奥さん達が目撃していた、と村松の報告にあった。田町は、兄弟も『相続の話』で呼び出し、『保険』にしていた。これから、警視監と記者会見に臨む。解散。」
「兄弟には、俺から報告しておきます。」と、大曲先輩が言った。
午後8時。眩目家。
遅い夕食と入浴を終え、蘭子は言った。
「たまには、睡眠の方で『寝る』か。明日まで、お預けな。」
思わず、「ワン!」と言ってしまった、俺。
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
神道助六・・・捜査二課課長。警部補。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
倉田喜一・・・サイバー犯罪対策課課長。
酒井優香・・・サイバー犯罪対策課課員。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。
関口寛也・・・捜査一課第三係係長。警部補。
※レッカー車や冷凍車については、ある程度のGoogle検索にすぎません。
誤りをご指摘頂いた場合は、修正致します。
クライングフリーマン




