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218.届かなかった郵便

「赤井、厄介だ。これ、首輪じゃない。首輪を加工している。」

 

 ========== フィクションです ===========

 =================================

 ※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。

 だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。

 懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。

 実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。

 従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。

 大会議室は、特殊捜査チーム専用である。

 事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。

 俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。

 課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。

 この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。


 ※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。

 ※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。


 ===========================

 午前8時。ある市道。

 ある高齢者が、犬を連れて散歩中、遺体を発見した。犬は盛んに吠えた。

 高齢者は愛犬を宥めながら、110番通報した。

 遺体に犬の首輪が巻き付いていると思い、通報する際に付け加えて報告した。


 30分程して、機捜と鑑識が到着した。

「赤井、厄介だ。これ、首輪じゃない。首輪を加工している。」

「通報者の山城さん、ですよね。」

「ウチの通くんが散歩で近づいて来た時に吠え始めたんです。100メートル先のお地蔵さんにお参りしてから、帰る途中でした。お地蔵さんは、折り返し地点なんです。」

「じゃ、往路では、この遺体と出くわさなかったってことですか?」

「はい。」



 =================

 ====================

 午後1時。捜査一課横の大会議室。『首輪絞殺死体遺棄殺人事件』本部。

 管理官が説明した。

「ガイシャは、ペットフードとブリーダー事業を展開し、赤字倒産したペットランドT社長渋井重吉。発見者の高齢者山城敬吾さんによると、僅かな隙に遺棄されたようだ。赤井警部補が粘って聞き出したのが、電気工事関係らしき軽トラだ。付近を通ったのは、それ1台

 。車種が分かったから調べたら盗難車両だった。ホシは、山城さんがお地蔵さんにお参りしている隙に、現場に遺棄して逃走したらしい。しかし、井関さん、下半身に無数の傷、とは?」

 そこに、以前の事件で関係した、元鑑識の玉田さんと、サイバー犯罪課に所属するようになった酒井優香が入ってきた。

「おやっさん。お久しぶりです。」

「おお、すまんな、玉田。で、どうだ?」

「現物、見せて貰いました。加工していますね。日本製ではないけど、日本製でも外国製でも、加工しないと、この形にならない。普通は、首輪は文字通り、輪を嵌めて締めてリング状にします。でも、これは、締めてもリングにならない。留め金の端と端に紐状、といううかリードを繋ぐようになっている。先端を繋ぐロープが伸びている。」

「そこで、仮説としてアニメーションを作りました。新婚さん、再生して。」と酒井は秋野にDVDを渡した。

 智子が睨んでいる。皆は、知らん顔でアニメを観た。

「このリードみたいなロープで繋ぎ、その先端を軽トラの後部に繋ぐ。何らかのキッカケで、そのロープの先端が外れる。遺体は置き去り。」

 酒井の雄弁に皆関心していたが、「なんで、そこまでして・・・。」と、蒔さんが言った。

「それ、調べるのが俺達の仕事だろ?ベテラン。」と、辻さんが蒔さんの肩を叩いた。

「もやいむすびか、その類いかも、な。自動的な装置を作らなくても、軽トラを一時停止して外せばいい。」と、井関さんが呟いた。

 今度は、神道課長が入って来た。

「倒産したペットランドT社だが、ここも会社乗っ取りに逢ってる。嵌められたんだ。でも、普通は分からない。」

「じゃ、神道。前回の食肉加工会社のパターンか。」と、蘭子は尋ねた。

「恐らくは。どうする?」

「辻さん達は、倒産したペットランドT社を同業他社を回って調べてください。皇係長のチームと餅屋係長のチームを応援に出します。大曲達は、渋井家だ。村松も行け。あ。酒井、四十九日は?」

「昨日、終わった。『そんなに仕事が大事か』って言うから、遺言書叩きつけた。黙ってやんの。」


 皆は、聞かなかったことにして、出発した。


 午後2時半。クルマの中。

「相当、ですね。酒井。」

「ああ、遺言書の偽造くらいやりかねない。その前にメールかな?」

「「メール???」」

「素人は、メールのタイムスタンプなんか見ない。酒井の件は、どっちにしろ籍抜くって言ってたし。」

「いつ聞いたんですか、先輩。」

「昨日。付き合ってるから。」

 俺と村松は固まった。


 午後3時。渋井家。

 渋井園子は、クビを吊ろうとしていた。

 幾ら、夫が絞殺されたからって、と思いながら、3人がかりで止めた。

 説得は、村松に任せて、先輩は書斎へ、俺は蔵書棚他を当たった。

 頭上から、何か落ちて来た。

 今年の分の年賀状ホルダーだ。

 付箋が貼ってある葉書が2枚。

 1枚は、「元専務」らしい。もう1枚は、同級生か?


 リビングで夫人を説得している村松に合図してから、先輩と合流した。

「仮想通貨と株、だ。眩目。よくある手口だ。神道課長の勘が当たったな。それから、メールに、呼び出された形跡があった。『嵌められた奴を知りたくないか?』行くよな?」

「はい。」

「ホシは、倒産した会社の従業員や家族なんかじゃない。そう思わせて呼び出した。」


 午後4時半。第二応接室。

「詰まり、ホシは、ガイシャが持っている何かが欲しかった、あるいは手に入れた、だな。」と、蘭子は唸った。

「多分、情報、ですね。開光課長。」と、皇係長が言った。

「当該会社が倒産することは、既に業界に知れていました。詰まり、内部にスパイがいた。事前に知った他の業者は、インサイダー取引を始めた。」

「そして、ガイシャは、自分の知らない情報を『どこかと結託して計画倒産させた』と思われた。大曲。葉書の人物は?」と、蘭子は大曲先輩に尋ねた。

「元専務出雲圭介、もう一人は、同級生原田友枝。」と、大曲先輩は応えた。

「課長。出雲は、今は『新ぺとぺと』、という同業他社の常務です。」と、餅屋係長が報告した。

「出雲の評判は良くないようです。」と、今度は辻さんが報告した。

「よくない、とは?」と、蘭子が尋ねると、転職してきて早速派閥を作った野心家だそうです。入社歴からすると先輩に当たる社員も、昔からの部下のように扱い、隣国との繋がりを隠そうともしなかった、と。お客のクレームにスケープゴートにされたので退職した社員もいるとか。」

「辻さん、その社員のデータは?」

「捜査資料だと言って、過去3年間の退職者のデータを出させました。」

 流石は、辻さんだ。

「怪しいな、その元社員。」と大曲先輩が言い、皆は頷いた。


 翌日。午前7時。眩目家。

 玄関の投入口に新聞を取りに行った蘭子が「待てよ・・・。」と、呟いた。

 深夜まで『攻められた』俺は、朝食の準備をしながら、どうしたんだろう、と思った。


 午前10時。捜査一課。蘭子のデスク。

 館内電話が鳴り、蘭子は受話器を取った。

「ありましたか。」蘭子はスピーカーをオンにした。

「すぐ確認に行って来ます。東京中央郵便局へ。」と、深山課長の声が聞こえた。


 午後1時。捜査一課。第二応接室。

「これが、問題のブツだ。」そう言って、蘭子は目の前のモノを皆に見せた。

「国際郵便には、2種類あります。普通の国際郵便とEMSと呼ばれる、追跡サービスと損害賠償が付いていて、数日で送れる郵便です。普通の国際郵便だと数ヶ月かかる場合があるそうです。これは、普通の国際郵便で、しかも、会社が倒産した為に『宛先人不明』で戻って来ていました。」と、深山課長が報告した。

「差し出し人は、ガイシャの同級生原田友枝。恐らく今深山課長が言った違いが分からず、普通の国際郵便で送ったのだろう。」と蘭子が言い、「メールに、原田から『郵便届いた?』という短い文章の受信があったのは、これだったのか。」と、大曲先輩は言った。

「詰まり、開光くん。この郵便のことを事前に知らなかったガイシャに詰問したホシが惨殺した、と言う訳か。この資料は?」と、管理官が尋ねた。

「スイスのネスウ社の新製品情報です。ホシは、これが欲しかったんです。」

「大曲くんが持って来たガイシャのPCは、ハッキングの跡がありました。」と、倉田課長が報告した。

「倒産させた上に、まだ利用しようとするなんて。」と、俺は憤慨した。

「ああ、許せんな。同感だ。」蘭子は俺の肩に手を置き、言った。


 午後3時。半グレである、あじあグローバル商事。

 捜査二課の刑事による、家宅捜索が行われた。


 午後5時半。捜査一課横の大会議室。『首輪絞殺死体遺棄殺人事件』本部。

 取り調べ室から、倉田課長、深山課長、神道課長、皇係長、餅屋係長、関口係長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。

 倉田課長、深山課長、神道課長、皇係長、餅屋係長、関口係長は、すぐに出て行った。

 管理官が説明した。

「ホシは、あじあグローバル商事の諸井俊喜、菅幸太、あじあグローバル商事と繋がっていた、元ペットランドT社の、新ぺとぺと社常務秋元敬吉。ガイシャのPCにハッキングしていた秋元は、ガイシャを呼び出し、スイスのネスウ社の新製品情報を聞き出したが失敗、諸井と菅を使って凶行に及んだ。秋元は惚けていたが、諸井と菅がゲロしたことを知り、殺人教唆を認めた。ガイシャの同級生原田友枝は、『こんな商売があるよ』と教えたかったに過ぎない。情報データと言っても、機密データではなく、販促のパンフレットの類いだった。原田氏は、スイスに永住している。欲望は妄想を生む、って誰かが言っていたな。ああ、スケープゴートにされて退職した者はアリバイがあった。」

「夫人には、俺から報告・・・村松から報告しておきます。」と、大曲先輩が言い、目を潤ませて村松は頷いた。


 午後7時半。眩目家。

「待て、のままじゃ可哀想だ。『よし!』」


「わんわん。」


 なんできうなるかなあ。


 ―完―


 ※今回の登場人物(順不同)

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。

 秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。


 神道助六・・・捜査二課課長。警部補。


 赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。

 倉田喜一・・・サイバー犯罪対策課課長。

 酒井優香・・・サイバー犯罪対策課課員。


 皇信也すめらぎしんや・・・捜査一課第二係係長。警部。

 餅屋重樹・・・捜査一課第一係係長。警部。

 関口寛也・・・捜査一課第三係係長。警部補。

 深山俊哉・・・警視庁広報課課長。警部補。



 ----- ゲスト –---

 玉田華代。元警視庁鑑識課の巡査。今は、ドッグトレーナーの会社の社員。


 ※「殺害方法」が可能かどうかは分かりません。

 フィクションですので、お含みきおきください。

 クライングフリーマン




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