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205/222

205.誰が憎いの?

どこの駐車スペースにも入っていない車なので、ドライバーに注意しようとしたら、ハンドルに突っ伏した男が額に血を流していた。

 

 ========== フィクションです ===========

 =================================

 ※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。

 だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。

 懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。

 実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。

 従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。

 大会議室は、特殊捜査チーム専用である。

 事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。

 俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。

 課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。

 この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。


 ※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。

 ※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。

 ===========

 午前7時。テレビA。駐車場。

 警備員が見回りに来て、死体を発見した。

 どこの駐車スペースにも入っていない車なので、ドライバーに注意しようとしたら、ハンドルに突っ伏した男が額に血を流していた。


 警備員の阿久根大吉は、すぐに本社に連絡。本社から警察に通報された。


 30分ほどして、機捜と鑑識が到着した。

 警備会社の他の警備員がビル内外の場内整理をしている。


「赤井。また、有名人だよ。」と、井関が言った。


 =================

 ====================

 午後1時。捜査一課横の大会議室。『テレビ局駐車場死体遺棄事件』本部。

 管理官が説明した。

 生活安全課の溝内課長が来ている。

「ガイシャは、テレビ局Aの名物コメンテーター大井留夫。警備員が見回りの際に駐車場で発見した。井関さん、ヤクですか。」

「ああ、致死量撃たれているな。新種ではないが、覚醒剤だ。一気に静脈注射されれば、イチコロだ。」

「大井の車から、新聞の切り抜きが発見された。テレビ局と同じ系列のA新聞だ。先日、番組内で、発砲した警察官を罵倒し、居合わせた、元警視庁の木更津警視監が窘めたので、即謝罪し、矛を収めた振りをした。辛口くらいならいいが、無責任な言動で何度も問題を起こしているコメンテーターだ。定年退職した後も引き続き、誰かの悪口を言っている。」

「その分、いつもネット民から叩かれていますよ。今回の件も、目撃者も多く、刃物男は外国人だった、と判明しています。『威嚇射撃』の音声も残って居ますが、巡査の注意・勧告を無視して、突進しています。『コイツは拳銃の撃ち方を知らないんだ』と言うホシの声もね。詰まり、それで正当防衛で撃つ場合があるという日本のルールを知らずに突進した。それが真実です。大井氏の当て推量は的外れもいいところです。週刊誌が騒げば、この音声を衆知すべきだ、と木更津さんからも助言を頂いております。」

「それで、ホシは、警察を罵倒したコメンテーターを粛清した、と見せかけたい訳ですね、溝内さん。」

 蘭子の言葉に溝内課長は大きく頷いた。

「隣国のトップは、現内閣総理が憎くて仕方が無い。どんなことでも利用するスタンスです。実際のホシがどんな人物であれ、日頃総理を叩いている大井氏を踏み台にして、与党がヒットマンを送ったと言う筋書きを書いているかも知れません。」

「分かりました。取り敢えず、辻さん達は、型どおりテレビ局へ。関口係長には、大井氏の交友関係を洗って貰っています。大曲達は、大井家に行け。父上がお待ちだ。」


 午後2時半。クルマの中。

「先輩。どうして、溝内さんが?」

「溝内さんは、現場にいたんだ。それに、発砲した三田村巡査は後輩だ。録音は、非番だった溝内さんが機転を利かせたんだ。」

「溝内さん、ステキですね。」

「気が多いな、村松は。」

「済みません。」

「じゃ、近所の聞き込み、頼むぞ。」


 午後3時。大井家。

 大井半次郎氏は、和服で、切腹しようとしていた。

 親子は真逆の性格のようだ。

 例によって、大曲先輩は根気よく落ち着かせた。

「まだ、捜査段階で、漏らすべきではないとは思いますが、ご子息は誰かの罠に嵌まった可能性があります。」

「え。」

「注意深く、細かく調べれば、何かが見えてくるかも知れません。」

 半次郎氏は、打って変わって、協力的になった。

 アルバムを見せて貰い、社員旅行での2ショットが気になった。

「お恥ずかしい話ですが、留夫は、オンナに縁が無く、社長とその・・・。」

「えーっと、親密な間柄だった?」

「はい。それも殺害動機になるでしょうか?」

「普通の場合なら、その・・・痴話喧嘩で・・・ですが、それをネタにホシ・・・あ、いや、犯人に呼び出された可能性はあります。」

「それで、殺害して、クルマに放置した、と。」

 蘭子は、新聞の切り抜きは、ホシが置いた、と判断していた。

 衣類をチェックすると、ペアルックらしきものが多かった。

 ネットでも、定年退職して、そのまま起用されていることや、何の事件を起こしてもお咎めないことを怪しむ声が多かった。

 アルバムと葉書ホルダーを預かり、書斎に戻ると、先輩はグーサインを出した。

 予備のSDを持っているところを見ると、重要データをコピーしたのだろう。


 午後4時。クルマの中。

「どうだった、村松。」

「色んな人が出入りしていた、と言う証言。それと、父親らしき人が迷惑かけます、と挨拶に回ってきた、という証言。まるで正反対の性格だと言ってました。あ、テレビ局の仕事は猛反対だったと言っていたとか。」

「親の心子知らず、か。オヤジさんの杞憂は現実になった訳だ。」と、大曲先輩は呟いた。


 その時、先輩のスマホが鳴動した。

 村松がスピーカーをオンにした。

「第三の男、登場だ。」

「第三の男?映画のタイトルみたいだな。」

「映画じゃなく、現実だ。ガイシャが社長と昵懇なのは、公の事実だが、社長に恋するオッサンがもう一人いた。関口係長が、寿退社する、テレビ局の女性社員から聞き出した。名前は、不動吾一。最近、テレビ局専務から副社長に格上げされた男だ。」


 午後5時。捜査一課。第二応接室。

 神道課長、新垣課長が来ている。

「反社とは繋がりがないようで、あった。以前、美作組と他の組との抗争を追うドキュメンタリーがあった。そのプロデューサーをしていたのが、不動だ。不動は、その時、ヤクのバイニンとの繋がりが出来た。静脈注射したのは、回りを早くするためで、『袋』はあまり要らないだろう、と、『その筋』では、言っている。」と、新垣課長は言った。

「詰まり、男VS男VS男の三角関係か。呆れるな。」と、蘭子は言った。


 翌日。午前10時。

 蘭子のデスクの電話が鳴った。

 村松がとって、引き継ぐ。

「分かった。」

 電話を切ると、蘭子は村松に言った。

「準備をしろ」、と。


 午後3時。捜査一課横の大会議室。『テレビ局駐車場死体遺棄事件』本部。

 取り調べ室から、溝内課長、新垣課長、神道課長、関口係長、大曲先輩、蘭子、管理官は出て来た。

 溝内課長、新垣課長、神道課長、関口係長は、すぐに出て行った。

 管理官は説明した。

「ホシは、テレビ局副社長の不動吾一。不動は、ガイシャの大井と社長に嫉妬していた。不動はたたき上げだが、大井は、社長に気に入られてから、愛人になった。定年退職した人間に、あれほど好待遇の筈はない。一社員じゃなかったからだ。今回、『警察官発砲』で失言したのを機に、属託社員契約を解除する、と言い出した大井は暴力で抵抗した。だが、不動の腕力の方が勝っていた。殺害現場は、不動のマンションだった。かつて、バイニンから入手したヤクを、昏倒している大井に不動は静脈注射した。そして、テレビ局へ運び、逃げた。『警察官発砲』失言の切り抜きは、わざと置いて行き、大井に失脚して欲しい人物を演出した。一度崩れると、後は早かった。政治とは無関係の三角関係のもつれだった。アルバムに映っていたよ、怨めしそうな、不動が。記者会見に臨む。後は、頼む。」

 管理官は、出て行った。

「大曲。大井のお父様には、お前が連絡するか。」と、蘭子が先輩に尋ねた。

 先輩は、ただ頷いた。


 午後7時。眩目家。

 お好み焼きを焼きながら、蘭子は歌を歌っていた。

「男とオンナ、男とオトコ・・・。」

「何、それ。」

「やっぱり、セッ〇スは・・・だな。」


 嫌な予感がした。

 注射器を持って、お好み焼きにかけている。

「心配するな。ただの水だ。」


 俺の口に、お好み焼きを入れようとして、ふうふうして欠片を入れた蘭子。

「どうだ。」

「上手い。」

「隠し味は、血液だ。」


 え???


 ―完―


 ※今回の登場人物(順不同)

 === 主な登場人物 ===

 眩目くらめ真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。

 大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。

 開光かいこう蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。

 志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。

 井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。

 秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。

 秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。

 村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。


 辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。

 蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。


 神道助六・・・捜査二課課長。警部補。

 新垣舞・・・捜査四課(仮)課長。


 赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。

 溝内健児・・・生活安全課課長。警部。

 関口寛也・・・捜査一課第三係係長。警部補。

 木更津浩二・・・警視庁元警視監。

 三田村総司・・・丸の内署。巡査。


 ※題材になるような事件はありません。フィクションです。

 クライングフリーマン






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