193.うでたまご殺人事件
「納涼盆踊り大会」とは言っても、昔のように通称「音頭取り」と呼ばれる歌手が招聘される訳ではない。
実質上、「路上カラオケ大会」である。
========== フィクションです ===========
=================================
※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。本来の階級は警部だったが、降格になった。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
この物語は、蘭子の特殊捜査チームの活躍のお話である。
※「暴力団対策課」は、敢えて「旧捜査四課」として扱っています。
※警視庁で痴漢被害の相談・対応を主に行っているのは、各警察署の生活安全課です。
===========
午前8時。ある町。
夕方からの「納涼盆踊り大会」の為の準備に青年団はてんやわんやだった。
「納涼盆踊り大会」とは言っても、昔のように通称「音頭取り」と呼ばれる歌手が招聘される訳ではない。
実質上、「路上カラオケ大会」である。
一人の青年が、青いビニールシートを見付けた。
借りている駐車場の、『露店販売』のスペースだが、仕込みはお昼前からと聞いていた。
そっとめくり上げ、事態の異変に気づいた彼は、団員達を呼んだ。
青年団の団長は、深呼吸をして、110番通報をした。
30分後。機捜と鑑識が到着した。
「えーと、通報してくれたのは?」
「俺です。青年団団長の御厨です。この真下が見付けたんです。露店の設営は、お昼前の予定でした。」
「このシートは、夕べはなかったの?」
「このスペースは、元々、そこのスーパーの第3駐車場で、毎年借りているんです。」
「じゃ、。昨夜は、駐車場だったってこと?」
「はい。閉店が午後9時なので、それまでにあったのなら、誰か気づくと思います。」
「了解。誰か、スーパーに尋ねに行ってくれ。」
「刑事さん達が担当するんですか?」
「いや、機捜、って言って、現場の『状態確認』専門だ。実際の捜査は別の刑事が担当する。」
「殺人事件だから、捜査一課、ですよね?」と、真下青年が確認した。
「そういうことだ、真下くん。御厨くん、昨日、閉店後に不審な車両、詰まり、この近くに路駐したクルマを見かけた者がいないか、確認してくらないか。」と、赤井警部補が言うと、「了解しました。」と、二人は敬礼らしきことをした。
赤井は苦笑して、敬礼を返した。
「流行り、なのかな、クラウン。」と、井関が言った。
================
====================
午後1時。捜査一課横の大会議室。『駐車場死体遺棄事件』本部。
管理官が説明した。
「ガイシャは、身元不明だったが、生活安全課から失踪届が出ていた。一昨日だ。ガイシャは、石油等卸業者東明KKの社長東彰。一昨日殺害された東は、昨日の夜、スーパー平和まんまる第3駐車場に遺棄された。今朝、地元青年団が盆踊り大会、と言ってもカラオケ大会なんだが、その会場設営に同駐車場を訪れ、ガイシャを発見した。特異な点は、コスプレをしており・・・秋野、特撮番組か?」
「えー、息子の息子が贔屓にしている『高齢ヒーロー・若ゲッター』の悪役らしい。で、その悪役は、いつも、うでたまご、つまり、ゆで卵を頬張っているそうだ。それで、コスプレ衣装だけでなく、口の中にゆで卵が詰まっていた。ガムテープで口を塞いでいたから、異臭に気づいた人は少ないかも知れないな。凶器は見当たらなかった。まあ、あそこは殺害現場じゃないだろう。」と、井関さんが応えた。
「辻さん達は、東明KKの元請けの会社、大澤興業に行ってください。大曲達は、ガイシャの東宅だ。」と、蘭子は言った。
午後2時半。クルマの中。
「デジャブかな?前に・・・。」
「ありましたよ、先輩。あいつら、ガメツイですねえ。政府がナフサ騒ぎの時、ため込まないでくれって言うのを無視して、ため込んで。」
「昔のトイレットペーパー騒ぎ以降、同じこと繰り返している。あれ、元々は、団地の主婦が、スーパーまで遠いから、『買いだめ』しただけだったのに、マスコミが捏造して、それに乗っかって、って構図。今と同じだろ。ナフサの前のコメ騒動も、在庫抱えすぎて困っているらしい、がめつく儲けようとしたヤカラが。」
「天罰覿面、ですね。」
「お。今日は冴えてるねえ、眩目くーん。」
午後3時半。東家。
郊外だから、少し時間がかかったが、夫人は平然としていた。
「ざまあみろ。世論調査しなくても、民意は分かってる。」
いつも通り、大曲先輩はPCを担当し、俺は二階の書庫を確認した。
意外と勉強家だったようだ。
「はい。アルバム。信じてくれなくてもいいけどサ。主人は嫌がったの、在庫隠し。昔、トイレットペーパー騒ぎあって、何年くらい前だったかにもあったでしょ。あの時、倉庫の一部貸したのよ。で、業者の一人が、首つり自殺。」
「それで、嫌になってたんですね、東さんは。すると。今回は?」
「大澤興業の命令。仕方無かったのよ。」
「奥さん・・・俺は信じますよ。」
「ありがとう。」
夫人は、大きなハンカチを出して、目に当てた。
階下に降りると、先輩は誰かに電話していた。
「はい。お願いします。」
「眩目。ゆで卵の出所が分かった。あのスーパーが万引きに遭っている。防犯カメラは多いそうだ。」
午後5時半。捜査一課横の大会議室。『駐車場死体遺棄事件』本部。
取り調べ室から、皇係長、大曲先輩、蘭子、管理官が出て来た。
管理官が説明した。
「ホシは、大澤興業専務大澤大吉、鴻上道夫。ガイシャは、ひょんなことから、大澤が仮想通貨に手を出していることに気づいた。過去の事件で反省していた東は、その秘密を守る代わりに、ナフサ騒ぎの時に隠していたことを政府に報告すると言ったが、勘ぐった大澤は消すしかないと考えた。皇係長が鴻上を口説き落として、大澤は自白するしかなくなった。やり過ぎたんだよ、大澤は。コスプレさせたのは、体型が似ているから、だとさ。」
午後7時。眩目家。
「喪服、確認しとけよ、明日、お通夜だ。」
「はい。ガメツイ奴の気性は一生治らないよね。」
「それは、お前を『手籠め』にした私への感謝の気持ちか?」
どう、返せばいいんだろう?
―完―
※今回の登場人物(順不同)
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。警視正。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。警部補。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。巡査。
秋野[井関]智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。巡査。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。巡査部長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。巡査。
皇信也・・・捜査一課第二係係長。警部。
赤井悦夫・・・第三機動捜査隊の警部補。
※当然ですが、上記のような番組は存在しません。
クライングフリーマン




