109.歯車
「今回のガイシャは、名倉純一。発見者は、母親の淑子。近所の主婦と旅行に出掛けていた留守の出来事だ。隣家は異大型連休の為、出掛けている。
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
午後1時。捜査一課横の大会議室。『夜叉面殺人事件』本部。
管理官は、説明を始めた。
「今回のガイシャは、名倉純一。発見者は、母親の淑子。近所の主婦と旅行に出掛けていた留守の出来事だ。隣家は大型連休の為、出掛けている。父親は、去年他界した。ガイシャは、ひしゃげた夜叉の面を被っていたが、内側から完全密封されており、呼吸困難で亡くなったと思われる。手脚に結束バンドの跡等は無かった。」
「どんな怨みがあるのか知らないが、ホシは文字通り鬼、だ。」と、井関さんは呟いた。
「母親の話だと、ガイシャはフリーのゲームクリエイターだそうだ。大曲くん、判るかね?」
「ゲームクリエイターとは、家庭用ゲーム機、スマホ、PC向けゲームの企画・開発・制作に携わる職種の総称です。プロデューサー、ディレクター、プランナー、プログラマー、デザイナー、サウンドクリエイターなどがチームを組みます。ガイシャが、どのパートを受け持っていたかどうかで話は違ってくるとは思いますが、プログラマーでゲームクリエイターを名乗る人もいるようですし。」
「大型連休でも、家で仕事していたんですね。」と俺がつい言ってしまったが、「まあ、フリーなら普通在宅勤務だが、正社員でも、会社はクローズして、持ち帰りって場合もある。要は年中忙しい。年中忙しいってのは、我々もそうだが。」
「大曲。それは嫌味か?皮肉か?ウェットの効いたジョークか?」
「勘弁してください。」
「辻さん達は、会社を当たってください。昨日は祝日で休日だったが、今日は連休の間。全員出社ではないが、出勤している者もいるそうです。村松、同行しろ。大曲は、徹底的にPCを捜索しろ。」
午後2時。クルマの中。
「良かったですね、先輩。減点無くて。」
「やっとゼロになったのにまた減点じゃたまらんよ。」
午後2時半。名倉家。
例によって、先輩は、遺体が解剖に回っていることと共に、丁寧にお悔やみを言った。
「いえね、奥さん。世の中には、こちらがまともなのに、逆恨みする奴がいるんですよ。詳しいことはお教え出来ませんが、先日の事件も『逆恨み』でした。きっと、坊ちゃんも何か勘違いがあって、逆恨みされたんですよ。我々がきっと犯人捕まえます。」
「ありがとうございます、警部さん。」
「あ・・・巡査部長、です。ははは。」
俺は、母親の案内で、名倉の蔵書や住所録を調べた。
女性の場合、衣装部屋があったりするが、クローゼットやタンスに最低限の衣服があるだけだったので、住所録やアルバムを見て回った。
「この人、一番写真が多いようですが、お母さん、仲の良いお友達でしょうか?」
「ええ。この人と、この隣の人。中学の同級で、よくテレビゲームをしに来ていました。お互い社会人になったからか、最近は見ませんが。」
俺は、ガイシャの遺品であるスマホから、当該人物を見付けた。
それで、電話したが、繋がらない。
階下に降りて、大曲先輩に報告した。
「その人物って、松下って言わないか?松下健吾。殺される前にトラブってる。」
そこに、辻さんから俺のスマホに電話があった。
俺は、スピーカーをオンにして、先輩に手渡した。
「大曲くん、会社の倉庫で火事があった。古民家を倉庫にしていたんだが、消防が駆けつけた時、死体を見付けた。そして、我々は、会社に残った遺書を発見した。」
「辻さん、その人物って、松下健吾って名前ですか?」
「どうして・・・。」
電話の向こうの辻さんは絶句した。
午後5時。捜査一課横の大会議室。『夜叉面殺人事件』本部。
「夜叉の面は、母親が思い出してくれた。ガイシャが子供の頃、どかかで拾って来たものだ。ホシは、穴が塞がっていることを知らなかったのだろう。ガイシャとホシは、いつも同じチームだった。2人とも夢中になると、激昂しやすいタイプだった。母親は知らなかったが、写真の3番目の人物冬馬治夫は、いつも2人の仲裁役だった。大曲くんが見付けた日記には、こんな時に冬馬がいてくれたら、と書いていた。溯ること10年前、冬馬は病気で急死している。歯車が合わなくなった。事件当夜、2人は喧嘩した。面のことを知らない松下は、ガイシャの顔に押しつけた。ガイシャはぜんそくの持病があった。あっと言う間の出来事だった。会社に逃げた松下は、自殺を決意、遺書を残して、倉庫に向かった。倉庫は資料庫で、システムに関するものはない。放火をし、炎の中で死んだ。親友の後を追って。お通夜は3日後だ。行ける者は行ってくれ。これから記者会見をする。自然死した友人の後を追って亡くなった。2人は親友だった、と発表する。母親にも事前に言ってある。」
涙ながらに、管理官は言い終え、出て行った。
村松がハンカチを持って、後を追い掛けた。
午後8時。眩目家。
「多分、本当の面の持ち主は、欠陥品だと知って、踏みつけて捨てたんだろう。ガイシャの名倉には、変わった面だから、と思えたのだろう。まさか、こんなことになるとは思わずに。松下は、単なる嫌がらせの積りだったのだろう。天国で再会出来るといいな。」
「冬馬が、仲裁してくれるよね、天国で揉めても。」
「お前、いいこと言うな。どれ、腹ごなしするか。」
しまった。
―完―




