105.ホシは何でも知っている
レジ主任が、カートやカゴの整理をしていると、見慣れた客が休憩コーナーで項垂れているのを発見して声をかけた。
「そんなとこで、うたた寝してたら風邪引きますよ。」
========== フィクションです ===========
=== 主な登場人物 ===
眩目真吉・・・警視庁捜査一課刑事。巡査。
大曲尚人・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
開光蘭子・・・警視庁捜査一課課長、警部補。
志摩敏夫・・・警視庁管理官。
井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。
秋野治夫・・・警視庁鑑識課課員。
井関智子・・・警視庁鑑識課課員。井関の娘。
村松みちる・・・警視庁捜査一課刑事。巡査部長。
辻瑛人・・・捜査一課辻班班長。
蒔俊郎・・・警視庁捜査一課課員。辻班。
赤井悦夫・・・機動捜査隊の警部補。
越前屋幸太・・・捜査三課課長。
神道助六・・・捜査二課課長。
新垣舞・・・捜査四課課長。警部補。
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※警視庁捜査一課。蘭子が課長になる前は、課長が全部一課を仕切っていた。当然だが。
だが、村松のいた所轄でパワハラ・イジメがあり、合同捜査に訪れた際に、当該の相手数人の股間を蹴った為、警視庁内で問題になった。
懲戒解雇になる替りに、一課の決裁を各係長が受持ち、蘭子は「お飾り」の「窓際族」になった・・・というのが、表向きの情報。
実は、志摩管理官が「自分の監督下」に置くという名目で、「特殊捜査チーム」を結成した。蘭子の判子は、各係の係長が持ち、替りに決済印を押す。蘭子は特殊捜査チームの長として指揮を執っている。
従って、ドラマ・映画のような「大事件の時だけの捜査本部」は置かない。
大会議室は、特殊捜査チーム専用である。
事件は頻繁に起こるので、大会議室が一日中空っぽなのは、希である。
俺は、「ちょっとしたこと」があって、課長の夫である。
課長の元カレである、大曲先輩とコンビを組んでいる。
午前10時。あるスーパー。
レジ主任が、カートやカゴの整理をしていると、見慣れた客が休憩コーナーで項垂れているのを発見して声をかけた。
「そんなとこで、うたた寝してたら風邪引きますよ。」
応答がないので揺すってみたら、倒れていた。
こときれていた。
悲鳴を聞きつけ、野菜売り場主任が駆けつけた。
彼は、カウンターサービスから、店長を呼び出した。
午前11時。機捜と鑑識がやってきた。
「どうだい、権さん。」
「ホシは、雨合羽をたくし上げて、背中から刺している。バタフライナイフだな。下に血だまりが出来ているが、背中は雨合羽の内側で血は見えない。皆、買物に夢中だ。近くに缶コーヒーがある。念の為、回収しよう。」
午後1時。捜査一課横の大会議室。『スーパー不審死事件』本部。
管理官は、説明を始めた。
「今回のガイシャは、スーパートワイライトの常連客。自宅のキーらしきものと自転車のキーは左ポケットにあったが、右ポケットには何もない。側には、雨合羽のズボン。履く前にホシに財布を抜き取られたのかも知れない。井関さん、DNAは?」
「それは、すぐには判らない、だが、ガイシャの指紋があったから、ガイシャが飲んだものに違い無い。」
そこに、村松が息せき切って入ってきた。
「ガイシャの住所、判りました。スーパーでは、買物金額の累計から、ポイント券が発行され、何枚か貯まると景品と交換出来るそうで、ポイントカードが無いから身元不明だったけど、交換する人は少なくて、交換ごとに記録しているそうなので、そこから割り出して貰いました。該当する人物は、品川区〇〇の、田代栄吉さん、72歳。これがデータです。」
そう言って、村松は、まっすぐ大曲先輩にプリントアウトした紙を渡した。
「ホシは、ガイシャが買物の後、自転車のカゴに購入した商品を詰めたレジ袋を乗せ、缶コーヒーを飲んでいた所をホシに襲われた、ということだが、目撃者はいない。特売の日だし、外は雨が降り出していたから、誰も気に留めなかった。だが、出入り口付近に、自販機コーナーがあるから、近寄った人物を見かけた客がいないとは限らない。」
「じゃあ、辻さん達は、スーパーと、買物客に聞き込みをって・・・皆帰っているだろうから、客は期待出来ない。だが、スーパーの敷地内に、ドラッグストアのチェーン店がある。モンタージュ持って聞いてください。他の客とトラブルあったかどうかも。」
「了解しました。」
「大曲達は、その住所だ。ご近所にも挨拶してこい。」
「了解。」
午後2時。クルマの中。
「可哀想に、田代さん、特売の商品、無駄になりますね。」
「いや、生もの以外は店で引き取るそうだ。レジ主任にもレジ係にも評判がいい。年初の開店の時は、必ず、年初の挨拶をするそうだ。『今年もよろしくお願いします』って。そんな客は滅多にいないそうだ。」
「好々爺ってやつですね。」
「そういうこと。買物いつも一人だし、独居じゃないかって話だ。」
午後2時半。田代家。
綺麗な場所もあればそうでない場所もある。
独居で、何もかも綺麗な状態は難しいだろう。
よくあるパターンだが、2階は物置状態。仕方無いだろう。足腰弱くなれば、あまり出入りしないだろう。アルバムと年賀状ホルダーと住所録を見付けて、階下に降りた。
「最近、高齢者のSNS利用者やwebサイト利用者は多い。暇つぶしに小説やエッセイ書いていたみたいだ。こいつ、怪しいな。メッセージアプリで、前からの知り合い口調で、罵っている。ひょっとしたら・・・おい、住所で、林家悦史っているか?」
俺は、急いで探した。
あった。
「先輩、あります。」
「その相手に、任意で来て貰おう。課長に頼め。それと、あ、こっちはいいや。」
俺が電話している間、先輩も電話していた。
最後に、「良い子だ。」と、言ったってことは村松か。
村松は、何でも屋だ。特に蘭子や大曲先輩の言うことはよく聞く。
「今、村松にガイシャが通院しているクリニックに行かせた。医療機関ってナア、意外とトラブル多いんだ。イライラしながら待ってるから。」
午後5時半。捜査一課横の大会議室。『スーパー不審死事件』本部。
取り調べ室から、蘭子、大曲先輩、管理官が出て来た。
管理官が説明した。
「ホシは、ガイシャの同級生だった。通院しているクリニックの受付係や看護師によると、ホシの林家は、昔、借金を断られたことをかなり根に持っていたらしい。言い募っている。ガイシャの家に出入りする人物を見かけたという近所の人にメールで確認して貰ったところ、林家だった。また、スーパーに確認しに行った村松も、林家といるガイシャを見かけていたという買い物客がいた。」
「本当は見せるべきではない通帳を見せてやったよ。ガイシャは、自分の生活で手一杯で、林家に貸す金なんか無かった。勝手な思い込みだったんだ。それでも、同級生か、友達かって怒鳴ってやったよ。管理官、ガイシャの親族は?」
「宮城県だ、こっちに向かっている。」
午後7時。眩目家。
「借金って言えば、大曲先輩の『点数』、あと何点?」
「とっくに『払い終っている』よ。チクるなよな。」
「はい、勿論です、奥様。」
蘭子は、俺の手を胸の谷間へ入れ、「はい、勿論です。スケベな奥様、だろ?」と言った。
「はい、勿論です。スケベな奥様。」
今日も、夕飯は、後回しに違い無い。
―完―




