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第72話「王様の隠しごと、ログりました」

 王都の朝は、いつもより一段と静かだった。


 いや、静かというより“やたら整いすぎていた”。


 石畳の床はピカピカ、城門の衛兵はやたらと姿勢が良く、王宮メイドたちは一言も喋らず、まるで音の記録すら恐れているような雰囲気だった。


「……なあ葵。これ、完全に何か隠してる空気じゃないか?」


「うん。ログが震えてる」


「どこのログ!? 空気!? それとも王城の床!?」


 王都記録庁(仮)の長官(仮)として、それなりに忙しくしていた俺──高野一朗──は、本日、王家直々の依頼で“王政時代の記録の棚卸し”に挑むこととなった。


 案内役は、我らが軍務担当クラヴィス。


「王家より特例通達が下された。地下記録庫への立ち入り、認可されたぞ」


「うお……ついに王の秘密が……!」


「勝手にテンション上げるな。あくまで整理整頓だ。好奇心ではない」


 言いながらクラヴィスは懐から出した巨大な鍵束をじゃらじゃらさせ、王城地下深くにある重厚な扉を開いた。


 ギィィイイィ……ドゴン!


 魔導式の防音結界が解除され、やたらスチームパンクな香りの漂う空間があらわになる。


「……なんか蒸気の匂いしない?」


「おそらく、記録装置の加熱式保存棚。百年前の旧式らしい」


 俺たちは重たい空気の中、無数の魔導記録タブレット、羊皮紙の山、そしてなぜか布団でくるまれた謎の壺をかいくぐって、目的の記録棚にたどり着いた。


「うおっ!? なにこの……異様にピンク色の箱」


「そこです、長官(仮)。王族の私的記録コーナーです」


「異様にかわいいデザインじゃねえか……」


 恐る恐る手に取ったその箱。開けてみると、中には意外と几帳面な筆跡でつづられた手帳が詰め込まれていた。


「えっと……第一〇八代国王・ガルマ=レオス=エクスカリバー三世の個人記録……」


 ぱらり。


 『今日も午後からサボった。書類面倒。ワインうまい』


 ぺらぺら。


 『王妃に内緒でお菓子を食べた。うっかりチョコつけてバレた』


 ぺらぺらぺら。


 『王子がいたずらしたので、ログで証拠を残してやった。へっへっへ』


「なにこのゆるすぎる王様……!」


「なんというか……逆に人間味があって憎めない記録ですね」


 葵が苦笑しながら、ロッドで軽くスキャンする。すると、彼の記録スキルがどれだけ私的利用されていたかがデータ化された。


「うわ、国政に関わるログよりも“今日のご飯”ログの方が10倍ある……」


「国を動かす記録魔導士が泣くわ」


 しかし、俺たちはふと思い至った。


「逆に、この“ログされてたからこそ”、今、こうやって歴史として読めてるんだよな」


「まさに、記録の力……か」


 その後、俺たちは他の歴代王の記録も確認した。が、どれもこれもユルすぎた。


『第九九代国王、魔法コントロール失敗。王城裏庭をバーベキュー場にしてしまった』


『第百一代国王、猫に王冠を盗られて二日間追いかけ回す』


『第百六代国王、文通スキルを私信に使いすぎて郵便局に怒られる』


「……これ、もはや歴史的資料っていうか、国民的バラエティじゃない?」


「展示しましょう」


「はい即決!?」


 かくして、王都広場の特設会場にて『王様のゆるゆる記録展』が開催される運びとなった。


 予想以上に民衆の反応は良好だった。


「なんか昔の王様、かわいい〜」


「うちの旦那よりしっかりしてない!」


「王族が完璧じゃないって知って、逆に安心したわ」


 一方で、現国王陛下は展示を巡りながら無言になり、展示の最終コーナーで俺にボソッと訊いた。


「……わしのも……あるのか?」


 俺は、とっさに視線を外しながらごまかした。


「陛下の記録は……“特級機密”として厳重に保管してます」


「そうか……見たくなったら呼べ」


「えっ。見るんですか」


 こうして、“記録の力”はついに王家の素顔を民衆に届け、ゆるくも温かい“王政の記憶”として再評価されることとなった。


 この一件以降、記録庁(仮)はさらに市民に支持され、次の段階──“正式発足”へと動き出すのである。

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