第66話 記されし未来──神記層第零階
眩い光に包まれていた視界が徐々に落ち着くと、俺は不思議な空間に立っていた。
床は鏡のように透き通り、天井には無数の羽ペンが回転している。中央には巨大な本──いや、“記録の書板”とでも言うべき巨大な装置が宙に浮かんでいた。
「おおっ……なんかこう、神の書斎って感じ……」
背後から、軽やかな足音が近づいてきた。
「おまたせー、一朗くん!」
葵だった。クラヴィスとユグもすぐ後ろから続いて現れた。
「うわっ! お前らも来たのか!? どうやって!?」
「えへへ、なんか壁に“ご一緒にいかがですか?”ってポップアップ出たから、つい」
「完全にファストフード感覚!!」
クラヴィスは周囲を見回していた。
「この場所……神記層、しかも第零階。通常の記録空間では到達できぬ領域。スキルそのものの起源に触れる……」
「難しいこと言ってるけど、要はここ、スキルの源泉ってことだよな?」
「うむ。ここに来たことで、お前の“記録スキル”が、また何かしらの変化を起こす可能性がある」
「マジか……また勝手に増えたりしないよな? この前なんか、俺の手帳が“未来のつぶやき”とか自動投稿始めてたし」
「それはバグだと思う」
ユグが書板の下をくるくる回りながら、手を振った。
「やっほ〜、“記録の根っこ”さん〜。お話聞こえてますか〜?」
すると、書板の中心から小さな光球がぽんっと現れ、ふよふよと俺たちの前に降りてきた。
「キミが……記録者、高野一朗か」
声は中性的で、どこか機械的だが、優しげでもある。
「わ、しゃべった!? 書板に精霊住んでたの!? AIか!?」
「吾は“記録管理意識体プロトタイプ0号”。略して“ロク”と呼ばれている」
「番号の割に“ロク”!? いや、“ゼロ”じゃないの!?」
「前任の“ゼロ”は情報過多で昇天したので繰り上げとなった」
「やだよそんな引き継ぎ……!」
ロクはくるりと回転しながら、俺の胸元──手帳の位置をじっと見つめた。
「確認完了。記録スキルの拡張条件を満たした。新たな機能を解放する──」
ピコンッという音とともに、俺の手帳が光を放った。
「うおっ!? 熱っ、いや冷たい!? ぬるい!? どっちだよ!!」
手帳の表紙が開き、そこには新たな項目が追加されていた。
【記録スキル:多層因果記述】
……また、なんかめんどくさそうな名前が出てきたぞ!?
「それって、どんなスキルなんだ……?」
「新たな記録機能“多層因果記述”は、同時に複数の可能性を記録・比較・統合する能力だ」
「え、俺、選択肢全部記録してから選ぶことになるってこと!? 人生、余計に迷いそうなんだけど!?」
「その通り。だが、お前には必要な力。来たる“因果崩壊”に備えるためにも」
「因果崩壊!? なんかまたラスボスっぽい単語きたな!?」
そのとき、書板の奥からゴゴゴと不気味な音が響いた。
空間が震え、奥に封印されていた巨大な扉が開きかけていた。
「やばい、あれ……!」
ロクが震えながら叫ぶ。
「記録の中に、存在してはいけない“書かれざる災厄”が侵入している……!」
「なにそれ怖い!! 俺が記録したんじゃないの!? てか今さら何が出てくんの!?」
扉の向こうから、禍々しい黒い霧が滲み出てきた。
「高野一朗──記録者よ。次なる階層に進む準備を整えよ。これはまだ……プロローグに過ぎない」




