第50話 三国同盟と婚約者としての公務、え、これって新婚旅行ですか!?
──朝。
目覚めると、隣に篠崎がいた。
「……って、ええっ!?」
目を見開いて飛び起きる俺。宿屋のベッドに篠崎葵が寝息を立てている。
正確には、昨日“外交儀礼として二人部屋が用意された”という名目だったが、俺は床で寝たはずだった。
「……うぅん……いちろ……さん……」
寝言!?
いやいやいや! これは罠だ、絶対にどこかの国家の罠!
ドタバタしていると、扉の向こうからノック。
「おっはよーございます! 記録官ご夫妻、朝の公式訪問のお時間でーす☆」
……まさかの“ご夫妻”認定継続中だった。
朝食会場には、三国同盟の代表たちが並んでいた。
魔導大国、騎士国、そして空中都市。
「では本日は、三国同盟の祝賀行進および、新婚外交ミッション第一弾として“仲睦まじい散策”をお願いしまーす☆」
「どういう任務だよ!」
「“記録官夫妻”が街を歩くだけで、民は安心するのです」
俺たちはまさかの“ラブラブアピール・パレード”に駆り出されていた。
まるで新婚旅行かってくらいに、手を繋がされたり、アイスを二人で食べさせられたり──
「ちょっ、これ、やりすぎでは……!」
「一朗……さん」
「な、なに?」
「その……意外と、こういうの……嫌いじゃないかもです」
照れたように微笑む篠崎。
「……そういうこと言うなって、恥ずかしいから……」
だが、その後ろで。
「おやおや、これはこれは……役を楽しんでおられるようで」
いやな声が響いた。
現れたのは《影の塔》を統べる“第四国”の使者。
名をカーヴァス。
黒衣に身を包み、常に記録外の空白を歩む存在。
「さて、三国同盟に祝福を申し上げましょう。“次なる戦火”と共に、ね」
その言葉と共に、空がひび割れた。
空中から降り注ぐのは、黒き羽根──まるで記録そのものを燃やすような漆黒の雨。
「高野さん、これは……!」
ユグが現れ、慌てて結界を展開。
「影の塔が、記録を侵食し始めています! これは“改竄の兆し”です!」
その時、篠崎が俺の手をぎゅっと握った。
「一朗さん、これが新たな任務の始まりですね」
「……それなら、やるしかないな」
俺もすでに覚悟は決まっていた。
守るべきものは、隣にある。
笑顔も、記録も、未来も──全部、俺の手で書いていく。




