第49話 次なる記録、恋と国家と光の階段
塔の階層が切り替わる音は、まるで世界が一新される合図のようだった。
目の前に広がるのは、かつてないほど美しい“光の階段”。
透き通るような光の結晶が天へと続き、その先には、まだ見ぬ新たな世界が待っている。
「……行くしかないか」
俺は深呼吸し、一歩を踏み出す。
「待ってください、一朗さん」
篠崎が俺の手を取った。その表情は、少しだけ照れているようにも見えた。
「この先……また大変なことになりそうですけど、私……ちゃんと隣にいますから」
「お、おう……うん、ありがとう……篠崎……いや、葵」
俺がそう呼ぶと、彼女は一瞬きょとんとしたあと、頬を染めて目を逸らした。
「……ようやく、名前で呼んでくれましたね。もう、さん付け禁止ですから」
「そ、そうか……」
階段を登る二人の背後で、塔の書架が静かに閉じていった。
それはまるで“ひとつの物語”が終わり、新しい章が始まる合図だった。
階段を上りきると、そこにあったのは王都とはまた違う“別の国家”の光景。
空には飛行艇が飛び交い、魔導都市とも言うべき超構造体の街並みが広がっていた。
「ここは……国家。かつて、世界の記録を分割管理していた大国のひとつです」
そう語ったのは、塔の案内人ユグだった。
だがその姿は、以前と異なり、大人びた印象に変化していた。どうやら階層が変わったことで、彼女自身の“記録役割”も進化したらしい。
「記録スキル保持者・高野一朗さん、あなたにはこの国の“記録統括官”として、外交任務にあたっていただきます」
「……は?」
「婚約者も同伴で問題ありません」
「ちょっと待てや」
「問題ありません」
再び“婚約者”という扱いをされた俺は、何も言えずに黙るしかなかった。隣で篠崎──葵がそっとくすくす笑っている。
「なんか……板についてきましたね、私たち」
「何が?」
「夫婦っぽいってことですよ」
「やめろォォ!」
そんな軽口を交わしつつも、俺たちは“アルマレイス”の王城へと通されていく。
そこで待っていたのは、3人の国家代表。
一人目は、理論武装の魔術士にして、記録魔導の総責任者・エグザ。
二人目は、若き将軍にして風竜を操る騎士・ライラ。
そして三人目は──
「やぁ、また会ったな。一朗くん」
「……あんた、まさか」
王都を去ったはずの元課長、いや、いまや“異国の高官”となっていた男が微笑んでいた。
「どうしても君には頭が上がらんよ。だからこそ、味方になってもらいたい」
新たな国、新たな階層、新たな火種。
次なる記録は──恋と国家、そして“光の階段”の先に。




