第44話 戦火の兆し──三国会議と影のドラゴン使い
竜騎士としての初陣を終えた俺は、まだ筋肉痛の残る体を引きずって、王宮の会議室へと向かっていた。
ヴェリディア王国、そして北の雪国イシュバルト、東方砂漠の大国アマルダ──三国の重鎮が一堂に会する大規模な戦略会議が開かれるという。
篠崎さんと並んで王宮の廊下を歩きながら、俺は気が重かった。
「なんで俺まで参加するんだ……普通、会議って偉い人が出るもんじゃないのか?」
「だって一朗さん、初陣で敵の偵察竜を撃退したんですよ? いまや“最重要戦力”ですよ」
「いや俺、元・派遣社員だからね!? 会議室の椅子にすら腰掛けられない職種だったからね!?」
「じゃあ今日は王族のソファに座ってください」
「極端すぎだろ!」
そんな漫才のようなやりとりをしているうちに、重厚な扉が開かれた。
部屋の中には、三国の代表が揃っていた。
イシュバルト王国の“氷狼公”ヴァルト・ゼーレン。
アマルダ帝国の軍師、眼帯の美女“砂の蛇”ファリド=ルナ。
そしてヴェリディア側は、我らがセラ王女。
「ご足労、感謝します。一朗殿」
セラ王女が微笑む。……この人も、戦場ではまったく容赦ないのにな。
「さて、本題に入りましょう。ゼルガルド帝国の動きについてです」
ファリドが巻物を広げ、地図を示す。
「我々の空域に侵入してきた偵察竜──どうやら奴らには“影の竜使い”と呼ばれる新たな戦力が加わっている模様」
「影の……?」
俺が眉をひそめると、ヴァルトが口を開いた。
「ああ。通常の竜とは異なり、夜の闇の中でのみ姿を現す。
しかも《記録》にも干渉されない……。まるで、存在そのものが曖昧なんだ」
《記録》スキルでも?
それって、サルヴァと同じ“消去系”の能力か?
「奴らは、ただの軍事勢力ではない。我々の世界にとって、異質な存在だ」
ファリドの声が、少し震えていた。
「本日から、三国は“共同戦略本部”を設置し、情報と戦力の共有を進めます」
「つまり……俺も、しばらくここに滞在ってことか」
「はい! そして私も滞在しますから、何かあったらすぐ呼んでくださいね?」
篠崎さんが明るく笑う。
ただ、その笑顔の奥に、不安が隠れていることを俺は見逃さなかった。
──その夜。
会議後、俺は王都の竜厩舎に戻り、ガルダインの世話をしていた。
「ふう……ようやく静かになったな」
が、その静けさを破るように、何者かが影から現れる。
「高野一朗、だな」
黒いローブに包まれた、仮面の人物。
「貴様……何者だ?」
「“影の竜使い”……とでも名乗っておこう。だが我々は、ただの敵ではない。お前の記録に干渉できる者──《改竄者》だ」
「……何?」
次の瞬間、足元の影がガルダインに襲いかかった。
「ガルダインッ!!」
俺は咄嗟に《記録》スキルを起動。
影の動き、その形、魔力の流れ……すべてを“録画”する!
「無駄だ。我々は、記録されない」
確かに、画面は──ブレていた。まるで干渉ノイズのように。
「だが……録れなくても、“覚える”ことはできる」
俺はガルダインと共に跳躍。
影を蹴散らし、仮面の男に向かって叫ぶ。
「伝えろ! この世界には、記録されない脅威も、記録で打ち破る馬鹿もいるってな!!」
男は一瞬だけ目を見開き、そして笑った。
「面白い……次は“塔”で会おう。高野一朗」
そのまま影に紛れて消えていく。
──次の塔。
それが、奴らの本拠地なのか。
戦火はすぐそこにある。




