第3章 第36話 機械仕掛けの世界──“コーデックス”へようこそ
光のゲートをくぐった瞬間、俺は軽く目をつぶっていた。転生だの転移だの、人生で何度も経験することじゃないし、体に負荷がかからないわけがない。
だが、目を開けた途端に飛び込んできた景色は──
「うお、なにこの世界……蒸気と歯車のテーマパーク?」
空には鉄の飛行船が浮かび、建物の屋根には巨大なファンが回っている。空気は煙と機械油の匂いが混ざって、どこか懐かしい工場地帯の空気を思い出させた。
「一朗さん、ここ……ファンタジーってより、スチームパンク?」
篠崎さんが目を丸くしている。俺と同じく、こっちの世界の異質さに驚いてる様子だ。
その横で、いつものようにフワフワ浮かんでいるユグが、謎のドヤ顔でうなずいた。
「ここが“記録拒否都市コーデックス”。かつて記録の神の手から逃れ、独自の記録管理体制を築いた、異界の中の異界です!」
「うん、つまりまた面倒くさい場所ってことだな?」
「はい!」
即答かよ。
都市の入口には鉄のゲートと、妙にやる気のなさそうな受付係の機械人形が待ち受けていた。背中に『記録不可』の札がついてるのが逆に物騒だ。
「ようこそ、コーデックスへ。スキル認証を行います」
俺たちは機械の眼にスキャンされ──
「確認されました。“記録スキル:高野一朗”……不正検出。入国制限対象です」
「はぁ!? なんでだよ、俺のスキル無敵って噂されてたぞ!?(田舎で)」
「記録スキルは当都市の記録システムと競合します。不正改変の恐れがあるため、制限されます」
「いやいや、それ俺が不正するんじゃなくて、むしろ改善方向だから!」
篠崎さんが慌てて口を挟む。
「一朗さんは悪いことなんてしません! むしろ記録を守ってきた人です!」
「はい、恋愛による発言の信憑性は30%に減少します」
「うっさいわAI!」
とにかく、都市に入るには一旦“仮滞在者”として登録するしかないらしい。
「よし、じゃあ仮で入って、こっそり全記録の裏をとって、正規市民をぶん殴って帰ろう」
「物騒な計画が漏れてます、高野さん」
街に足を踏み入れると、異世界ファンタジーとは思えないほどの技術的ディテールがあふれていた。街の中央には巨大な記録塔がそびえ、蒸気で動く記録端末が道端に並んでいる。
「ここ……すごいわね。見た目は近未来っていうか、懐かしいレトロフューチャーって感じ?」
その時、俺のノートが震えた。《記録スキル》が勝手に反応している。
『この都市は、記録を管理されることに拒絶反応を示します』
……え、記録スキルが“拒否”されるって、つまり──
「この都市、俺の天敵ってことか?」
ユグが申し訳なさそうに手を挙げる。
「すみません、それ、ちゃんと説明するの忘れてました☆」
「お前、USBじゃなくてウイルスかよ」
そうして俺たちは、都市の奥──“中央記録庁”を目指して歩き出す。
その道中、なぜか篠崎さんは俺の袖をつまんで歩いていた。
「一朗さん……この街、なんかすごく寂しくないですか?」
「……感情をデータで処理する世界だもんな。人の顔にも、心にも記録がない」
俺のスキルが効かない。 それでも──俺はこの街で、また“記録”を始める。
心の中に、忘れられた物語がある限り。
──そしてこの都市で、俺と篠崎さんの“恋の記録”もまた、新たなページを刻んでいくのだった。




