表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/86

第3章 第36話 機械仕掛けの世界──“コーデックス”へようこそ

 光のゲートをくぐった瞬間、俺は軽く目をつぶっていた。転生だの転移だの、人生で何度も経験することじゃないし、体に負荷がかからないわけがない。


 だが、目を開けた途端に飛び込んできた景色は──


「うお、なにこの世界……蒸気と歯車のテーマパーク?」


 空には鉄の飛行船が浮かび、建物の屋根には巨大なファンが回っている。空気は煙と機械油の匂いが混ざって、どこか懐かしい工場地帯の空気を思い出させた。


「一朗さん、ここ……ファンタジーってより、スチームパンク?」


 篠崎さんが目を丸くしている。俺と同じく、こっちの世界の異質さに驚いてる様子だ。


 その横で、いつものようにフワフワ浮かんでいるユグが、謎のドヤ顔でうなずいた。


「ここが“記録拒否都市コーデックス”。かつて記録の神の手から逃れ、独自の記録管理体制を築いた、異界の中の異界です!」


「うん、つまりまた面倒くさい場所ってことだな?」


「はい!」


 即答かよ。


 都市の入口には鉄のゲートと、妙にやる気のなさそうな受付係の機械人形が待ち受けていた。背中に『記録不可』の札がついてるのが逆に物騒だ。


「ようこそ、コーデックスへ。スキル認証を行います」


 俺たちは機械の眼にスキャンされ──


「確認されました。“記録スキル:高野一朗”……不正検出。入国制限対象です」


「はぁ!? なんでだよ、俺のスキル無敵って噂されてたぞ!?(田舎で)」


「記録スキルは当都市の記録システムと競合します。不正改変の恐れがあるため、制限されます」


「いやいや、それ俺が不正するんじゃなくて、むしろ改善方向だから!」


 篠崎さんが慌てて口を挟む。


「一朗さんは悪いことなんてしません! むしろ記録を守ってきた人です!」


「はい、恋愛による発言の信憑性は30%に減少します」


「うっさいわAI!」


 とにかく、都市に入るには一旦“仮滞在者”として登録するしかないらしい。


「よし、じゃあ仮で入って、こっそり全記録の裏をとって、正規市民をぶん殴って帰ろう」


「物騒な計画が漏れてます、高野さん」


 街に足を踏み入れると、異世界ファンタジーとは思えないほどの技術的ディテールがあふれていた。街の中央には巨大な記録塔がそびえ、蒸気で動く記録端末が道端に並んでいる。


「ここ……すごいわね。見た目は近未来っていうか、懐かしいレトロフューチャーって感じ?」


 その時、俺のノートが震えた。《記録スキル》が勝手に反応している。


『この都市は、記録を管理されることに拒絶反応を示します』


 ……え、記録スキルが“拒否”されるって、つまり──


「この都市、俺の天敵ってことか?」


 ユグが申し訳なさそうに手を挙げる。


「すみません、それ、ちゃんと説明するの忘れてました☆」


「お前、USBじゃなくてウイルスかよ」


 そうして俺たちは、都市の奥──“中央記録庁”を目指して歩き出す。


 その道中、なぜか篠崎さんは俺の袖をつまんで歩いていた。


「一朗さん……この街、なんかすごく寂しくないですか?」


「……感情をデータで処理する世界だもんな。人の顔にも、心にも記録がない」


 俺のスキルが効かない。 それでも──俺はこの街で、また“記録”を始める。


 心の中に、忘れられた物語がある限り。


──そしてこの都市で、俺と篠崎さんの“恋の記録”もまた、新たなページを刻んでいくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ