第12話「謎の“農業ギルド”が妨害してきた件。どう見ても元ブラック企業です」
「農業ギルド本部から“ご招待”が届いてますよ」
篠崎さんが困った顔で差し出したのは、羊皮紙にでっかく金のインクで書かれた招待状。
『至急、農業ギルド中央本部へ出頭されたし。貴殿の農法に関し、説明・釈明・土下座等を求む。』
農業ギルド第八部・対革命対策室より
──なんだこの昭和の訴訟通知みたいなテンションは。
そして「土下座」って何だよ。公式書類で土下座って言うなよ。
「行かないとマズい……?」
「一応、王都からの農業革命報告書をギルドが“無許可改変”って難癖つけてきたらしいです」
「はああ……また“前例主義”かよ……」
実は俺が使ってる農法、現地の伝統的な農法とは少し違う。
具体的には「魔力を使わないで収穫量を上げる」とか「水循環だけで自動灌漑」とか、魔法至上主義な連中には気に食わないらしい。
──つまり、利権が絡んでる。
「行くか。昭和の香り漂う農業ギルドとやらに」
◆ ◆ ◆
翌日。王都の外れ、農業ギルド中央本部。
「ここが……」
俺は思わず絶句した。
まんま“昭和の営業会議室”だったのだ。
長机が何列にも並び、茶色いカーペットはうっすらとホコリ臭い。
天井には魔導蛍光灯(演色性最悪)がブーンと唸り、奥ではヒゲ面のオッサンたちが「最近の若者は〜」とタバコ片手に雑談している。
「ここ異世界だよな……?」
「おっさん、私も目を疑いました」
俺たちの前に、農業ギルド第八部部長・ゾルダンが仁王立ちしていた。
「貴様が、あの“記録魔法農法”の開発者か」
あ、これヤバいパターンだ。
「ギルドの認可なしに、勝手に技術をばらまくとはいい度胸だなァ!!」
ドン!!と机を叩く音が響いた。
いや、昭和か。
ていうか現代日本でそれやったらパワハラで即死だぞ。
「ギルドの統制下にない農法が流行れば、わしらが困る。分かるかねぇ?」
「……いや、それはつまり“ギルドの仕事してない”って話では?」
「うるさい!! 成果をあげてない方が偉いのがギルドじゃ!!」
あー……完全に詰んでる組織だった。
横の壁には「今月の農耕数値ノルマ達成率」とか貼ってあるし、
「努力不足を魔族のせいにするな!」ってポスターもある。
うわ、こういうのブラック企業の会議室にあったわ。
「で? 今後の農業は全てギルド認可を通すってことでええんやな?」
ゾルダンがドヤ顔で詰め寄ってくる。
会議室は完全に彼の“テリトリー”なのだろう。異世界ですらこういう奴いるんだな。
「それとも……『記録スキル』でこの会話、王都中に配信されたいか?」
俺がぽつりとそう言った瞬間、空気が凍った。
「なっ……!? ば、馬鹿な!」
「俺の《記録》、今“リアルタイム変換”入ってんだよなぁ……音声も、映像も」
篠崎さんがにっこりと“録音水晶”を掲げてみせる。
「おまけに、今は“王都中央の政庁塔”にもリンク済みですので。再生はいつでも」
「おい、ちょっ、ま、待てッ……!」
ゾルダンの顔が青くなった。
「というわけで。今後は俺の農法を“ギルド認可”ってことで出しておいてください。あ、資料? あとで口述で送っときますんで」
「よ、よろしい……! ギルドも農業の発展を望んでおりますゆえ……!」
秒で掌返しやがった。
「あと“土下座”の件ですが」
「そ、それは……誤字です!!」
「公文書に“土下座”って書いた時点でお前ら終わってんだよ!!」
笑いを堪えながら、篠崎さんと俺はギルド本部を後にした。
──まさか、異世界で営業会議のトラウマを再体験するとは。
だが、これで王都農業における正式な“承認”は得られたわけで──
【称号《農業改革の旗手》を取得しました】
「やったぜ……!」
「次は農業庶民向けの教本制作ですって!」
「──また書類かよ!!!」




