表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/86

第11話「王都農業省でお偉いさんと面談。でも書類仕事がトラウマで震える件」

 王都農業省──それは、俺にとって“魔王城”だった。


「ようこそ、農業省へ。革命の旗手殿」

 そう言って頭を下げたのは、いかにも官僚然とした長身メガネの男。名前はたしか──


「農政第二課長代理、ドレン・マルクスです」


 代理て。課長ですらないんかい。


「ご足労ありがとうございます。我が王都も、あなた様の《高収率型回転式段畑》には度肝を抜かれました」

「いや、ただの段ボールと水槽と……」


──そう。俺が田舎でやってた野菜ハウスの仕組みが、魔力なしでも水耕栽培できるってことで爆バズりしたのだ。


「では本日は、導入に向けた規格統一と、申請書類の整備について……」

「……ん?」

「こちらが今回ご準備いただきたい基礎農産登録帳票(第一式)と、関連マジカルアイテム管理法の適応例、あとは営農支援補助対象品目一覧と、」


──書類の山。まるで、あの忌まわしき総務課時代のデジャヴ。


「な、なんだこれ……ひ、一式でこんなに……?」


「いえ、これは“前準備”にすぎません。本番は、認可登録後の『王都収穫補助申請書A〜K』と『魔導補正影響評価報告書(仮)』の提出がございます」


 頭が、ガンガンしてきた。


 目の前が、霞む。

 心臓がバクバク鳴る。汗が背中を伝う。


──これはまさか……


「軽度の……職場性書類トラウマ症候群(PTSD)……!?」


「失礼ですが……何か体調が……?」


「いや、大丈夫です。ちょっと過去に、似たようなことが……」


 ブラック企業の総務部で、毎年Excelで手入力させられた給与報告書。

 営業からの“なんで残業代こんなにつけたの?”責め。

 そして、期末直前に来る──


「書式、変わったんで、もう一回書き直してもらえます?」


 あの地獄……!


「すみません、ドレンさん……もう、これは……!」


「……? なにか?」


「俺、こういうのアレルギーなんです!!」


 思わず立ち上がって叫んでいた。篠崎さんが慌てて俺の肩を押さえる。


「落ち着いてください! この世界には書式ミスで詰められる上司はいません!」


「それでも書類は存在するんだろ!?」


「ですが、貴族の方は基本“雰囲気”で通してますから!」


 雰囲気!?


 ドレン氏がすっと立ち上がると、手元の書類束を机の下にすべて隠した。


「では……こうしましょう。貴殿の《記録》スキルにて、今回の農業構造改革の概要を口頭で“口述記録”していただけませんか?」


……なるほど、それならいける。


「つまり、しゃべるだけでいいんだな?」


「はい。“我々が書類化”します」


 神か。いや、官僚か。


「その代わり、今後の農政関係案件においては、我が農業省の協力を得ていただきたい。できれば専属顧問として、名義だけでも……」


「いいっすよ!」


 俺は即答した。

 名義貸すくらいで書類書かなくて済むなら安いもんだ。


 ドレン氏は軽く頭を下げ、サイン入りの協定書(2ページ)を差し出した。

 たった2ページ……! それがどれだけ奇跡か、俺はよく知っている。


「これにて、王都農業省との“革命連携”が正式に発足となります」


「ありがとう……マジで感謝しかない……!」


 書類地獄から救ってくれた救世主──その名はドレン・マルクス(代理)。


 そして、俺の農業スキル《記録》は、なんと「口述記録スキル」に分岐進化し──


【新派生スキル《文章化変換》を取得しました】


「すげぇ……喋るだけで、文章になる……!」


 俺はこの時、気付いていなかった。


 この“喋るだけ自動記録”スキルが、後に『王都政務官僚の敵』として名を轟かせることになるとは──


「ところで、おっさん殿」


「“殿”はやめてくれ、ドレン」


「では、“閣下”で」


「それはもっとやめてくれ……」


 笑いながら、篠崎さんがそっと紅茶を置いてくれた。


──今日も、異世界は地味に生きやすい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ