【空中ブランコ】ラオメ
人体が持ち上がってその直後落下した。僕はそれを無情に眺めている。どこか変な感じがしている。知らない人の体に自分の魂が紛れ込んでしまったような。
こんな体もこんな人生もこんな境遇も僕のものじゃない、気がする。
「まっ、待て。」
狩り申請書に従って、廃墟に来ていた。ゆいも下の階でやってる。
「待つんだ。」
残った2、3人の内の1人が、手を広げた。
「どうして俺達をそう簡単に殺せる?お前の仲間は今、狩り隊の側に居るんだぞ。」
はっとして相手を見詰める。複製の<申し子>は羅謝の家族を"この東部地方で最も安全"と言ったけど、それは狩り隊が力を持っているときに限る。つまり当初の予定通りに狩り隊を潰してしまえば、羅謝が命を賭けて狩り隊に寝返った意味は無くなる。僕が潰すことになる、彼を。彼の希望を。
「だからって_じゃあ_どうすればいいの…。」
「いい方法がある。お前があいつと同じ場所に行ってあげるんだ。」
同じ場所。彼が今居る場所。
狩り隊。
「…僕が今寝返ったら、彼と会わせてくれるの?おんなじところで暮らさせてくれる?」
「勿論。」
「ああ、でもゆいはどうしよう。1人にしちゃ駄目だ…。」
「一緒に連れてくればいいさ。あいつだってその方が喜ぶだろう。」
「…そっか。場所が変わるだけで、また3人で、前の通り、いつも通り…。」
「そうだ。さあ、この話に乗るなら、まず魔術を解くんだ。それを受け入れの条件としよう。」
「魔術を…。」
"ヤベー隊員の割合が増えた印象"
分かってる。多分、罠だ。嘘だ。魔術を緩めた隙に殺す気だろう。分かっている。分かっているの。
でもこれ以上の最悪なんて無いし。
もしも本当に彼と会わせてくれるなら?
「…どうにでもなれっ!」
声が掠れた。魔術を緩める。その途端に狩り隊が駆け込んで来た。ああやっぱり、ハズレだ。僕の負け。こいつ等なんかじゃない、君に負けたんだよ、メーシャ?
「跳べェラオメ!!」
「…っ!?」
ちょっと間延びしたその口調に、思わず僕は従った。魔術を使って上へ浮かび上がる。
直後、凄い音が鳴って。
「あっ…。」
さっきまで僕達が立っていた床が崩れていた。いや、こんなに綺麗に抜け落ちるなんて、まるで、解体されたような。
「…なんで止めるの、ゆい。」
「いや、なんで止めないと思うんすか。」
ドア枠にぷらんとぶら下がった青年は、暗い声で尋ねた。さっきの口調が嘘のようだった。羅謝の声真似上手いね、と茶化してやれば良かったのかもしれないが、そんな余裕はなかった。僕にも、ゆいにも。
「罠だろ、どー考えても。」
「…だって、もしかしたら元に戻れるかもしれない…。」
「戻れたとしても、すよ。光羅謝は狩り隊に奴隷宣言したんですよ。そいつと同じならアンタも狩り隊の奴隷だ。多分、複製の<申し子>もだろうね。そんなんで、本当に幸せかよ?少なくとも、複製の<申し子>は糞みたいな顔してましたよ。」
視界がアリスブルーに染まる。髪が暴れてる。叫んでる。
「幸せだよ!今よりは…彼の居ない今よりはずっと…。」
「ざっけんな!あんたもーおれを、置いてくのか?」
違う、と訴えようとした瞬間、ぐらっと建物が揺れた。
「っ!ゆい!」
はっとしたゆいの腕を摑み、空いたままの窓枠から外へ逃げる。ほぼ同時に、けたたましい音と共に建物が瓦礫と化した。
「す、みません。こんなーつもりじゃ、なくて。」
解体の魔術が漏れたのだろう。いや、漏れたと言うには盛大すぎるか。
「…ごめんな、ゆい。」
摑んだ腕を引っ張って体を引き寄せる。僕と似たような体格ながら桁違いに筋肉質な感触だった。生きるために、必要だったのだろうか。もしくは単に、女の子のレッテルに抗おうとしたのか。
「帰ろっか。」
腕の中で、こくんと頷く気配がした。ゆいの気持ちを落ち着かせられるような、上手い言葉は出てこない。そういうのは彼が得意だったのに、とまだ拘る気の自分に、嫌悪を感じた。




