【ゆい】ゆい
ママが好きなのはゆいじゃないんだなー。
ゆいは男の子だ。きいちゃんにきいた話をふまえて体を見てみると、男の子なのだ。きいちゃんの話があってればね。
でも、きいちゃんは、ゆいの服は女の子な服だってゆう。でー、ママにきいた。したら怒った。"ゆいちゃん"は女の子、だそうです。そうですか、コマリマしたねー。
そんで、ゆいはうなずいた。うんうん。ママは女の子がいいのね。で、ゆいは男の子。なーるほど。
ゆいが女の子になればいいんだね?
オッケイ。
ゆいは女の子を作った。ゆいとごっちゃにならないように、結という字をおぼえた。そう、結ちゃんとゆいくんで区別するんです。あったまいー。だれもほめてくれないので、じぶんでほめます。あったまいー。
だけど、たまにごっちゃになった。きいちゃんとオニゴッコしてるときとか。そんでヘアピンを覚えました。ヘアピン2こつけたら結ちゃんね。あったまいー。
●解体●
時々ゆめを見るようになった。ゆいがぱあーときりになって消えるゆめ。後には結ちゃんがのこって、ママは大よろこびー。きいちゃんたちも、ゆいがいなくなったのに気づきません。
おひさまのあるころですら、そのゆめは付きまとってきた。こわかった。ゆいは古いこうえんに行って、ひとりで泣くことがふえた。
そんなとき、ある男の子に会った。ふしぎな子でー、えがおがかわいい。ひみつをしっても友だちでいてくれる人を見つけるという、もくひょうがあるらしい。ゆいもまねっこすることにしました。おてがみをかける日が楽しみになりました。もしかけれなくても、あの男の子はきっと、ゆいを覚えていてくれるでしょう。
●解体●
ママはリコンしてたらしいです。わお。そんで結ちゃんひとりっ子じゃないらしいです。びっくり。しかもママはそのいちばん上の女の子を認識できないそうです。なんだって〜。
…だめだ、割とどーでもいー。
だっておれと結ちゃんとママの生活に何の関わりもなくなーい?一生別居でいいっしょ。
は、ダメだそうです。あーあ。
「こんなの、有り得ないよ。」
姉であるらしい女の子は、結ちゃんと会って早々に結ちゃんを憐れんだ。結ちゃんはとりあえずニッコリしていた。女の子のとなりで男の人がほほえんだ。
「よし。結、じゃヤダよね。ちゃんとした名前つけてあげるよ。」
え、おれ達は、ゆい、じゃダメなの?
「結は私だしね。」
おれ達はじゃー今まで誰だったの?
「そうだなあ。じゃあ結弦はどう?」
これは私達泣いてよくない?
「カッコイイ。ありがとう、お父さん、お姉ちゃん。」
えーん。えーん。えーん…。
「これからよろしくね、結弦。」
その夜おれ達は洗面所で向かい合った。分かりやすいようにヘアピンで前がみを上げてみた。ゆいは0こ、結くん(結弦と言うべき?)は1こ、結ちゃんは2こ。いー?これからおれ達はなかよくそれぞれの役割をやっていくんだよ。おれは結くんにそう伝えた。かれはとってもモノワカリが良いので、大きく頷いた。
●解体●
「え?」
私はふり返った。ママは厳しい顔つきで机をにらんでいた。
「やっぱりさ、女の子がバスケ教室って、良くないと思うの。」
「え、え、えー。え、でもママ、この前いいよって言ってくれたじゃん。」
「木田馬さんちに訊いたら、やっぱり男の子ばっかりらしいって言うし…。」
「きいちゃんは昔っから仲いいし、いいじゃない。他の男の子だってみんないい人らしいし、それに女の子だっているんだよ?」
「でも駄目!」
「なんでー?」
「だって、」
お母さんの目は曇りない青色をしていた。
「結ちゃんは女の子だもの。」
おれはその日の夜、洗面所の鏡の前に立って、アメピンを3つ、横がみに並べて刺してみた。
「期待する役割は、きみね。」
結ちゃんと結くんは期待しない生き物になれるように、きみがおれの期待する気持ちを全部使い切るんだよ。
3つアメピンの彼を、おれは望と名づけた。
●解体●
「結ってさあ、好きとか嫌いとかすぐ言うよね。」
「あー分かるわ。なんかビクッとするから止めてほしい。」
「ビクッとはしないだろ!ビビリ過ぎ、ウケる。」
俺はクラスメートの男子3人の言葉に、数秒考え込んでから笑顔で返した。
「うっそ、ごめ〜ん。気をつけマス。」
「いやいや、いいよ。こいつのことなんか気にしなくて。」
「いやなんかビックリはするって。」
その夜おれは鏡の前に立った。右半分に4つピンを並べる。いい?憎愛は君が使い切るんだよ。
彼はおれをうざったいと思っているけれど、仕方がないので浅く頷いた。彼には通という名前を与えた。
●解体●
「うい〜す。」
『やっと来たし。結、遅いぞー!』
その日はクラスメートと流行りのゲームをする約束だった。なんかごちゃごちゃしていて、おれはあんまり好きではないけど、みんなはハマるらしかった。
「えー!待って待って!あっちに大群いんじゃん!」
それでもそのゲームは戦闘が派手で、無双ゲームまではいかないけどバサバサ進める感じは好みだった。敵の大群に斬りかかるのなんてサイコーだ。負けることもあるし、偶にアイテムを失う危険があるけど、そっちはショージキどーでも良かった。
『はあ?あいつ等結構強いじゃん。止めとけって。』
『見つかる前に早く行こーぜ。アイテム盗られるぞ〜。』
「いいじゃーん。待ってくれたらドロップお裾分けするからさ。」
初期から使い込んでる大剣をチョイスする俺に、彼等は言った。
『お前って、ちょくちょく暴走するよな。』
ゲームが終わってからおれは鏡の前に立った。5つヘアピンを使って、オールバックを作っていく。
「おれ達の暴走する感情は、お前で全部だ。」
彼はニヤッと笑うだけだった。おれは彼を颯と名づけた。
●解体●
「ねえ結弦。いい加減お母さんにホントのこと言いなさい。」
姉はいつになく厳しい顔つきをしていた。
「あんなのに付き合ってあげる必要ないでしょ。結弦の大切な学生時代を全部あの人に捧げて、それでおしまいでいいの?」
「いや、おれも、けっこー、頑張って、今前よりマシになって、おれ、」
姉の瞳にはべったりと憐れみが張り付いていた。
「え…?そんな、そんなー酷くないよ。別に。ホントーに、上手く折り合いつくようにおれ頑張ってるんだよ?」
結弦、と彼女はよく分からない誰かを呼んだ。こんなことなら結くんと別に結弦を作るべきだったな、とおれは思った。
「あなた、おかしいよ。」
その夜おれは6個のピンを3個ずつ横髪に付けて、鏡を見詰めた。
「この体の承認欲求は、お前のためだけのものだよ。分かった?」
彼は認められたくて必死なので、馬鹿みたいにこくこく頷いた。しかしすぐ後で、頑張ったら頑張ったねって言ってほしい、と甘えてきた。
「頑張ったよ、頑張った。だから、静かにしてくれ…。おれ達にまで感情が来ないようにしてくれ…。」
前髪を摑んだ。持ち上げない。結くんは人と居るときだけに使った方が省エネだからだ。
…あったまいー。




