【前日の発覚】シェルファ
「…多重人格なんじゃないのか、それ。」
「違いますー!だっおれ記憶とかあるしー。」
結がSLAY生産場所の特定役に名乗り上げた日、彼は光羅謝とラオメ、それから何故か私にだけ説明することを了承した。そうして、彼は自身の中に6人が"居る"ことを告げたのだ。
「ま〜そうすると前に話したことも納得出来ない?」
「なんだっけ。」
「ちょいちょい〜。ほら、結と前に会ったことがあるって話だよ。」
ああ、と頷く。私達の会議に結が初めて参加したときの直前に、ラオメが言った話だ。
曰く、以前に<逃がし屋>を利用した夕という青年が義堂結なのではないか、と。
「正確には結じゃなくて、ゆいの中に居る人格の1人だったってことだなァ。」
「大体そんな感じですねー。」
「あーだからか。」
ゆいが目を瞬いてこちらを見る。何故かヘアピンは外されていた。そうすると妙に野性味が強まり、軽そうで暴力的で寂しがり屋な雰囲気があった。
「何がっす?」
「ラオメの呼び方だよ。あのときお前は、光羅謝については"彼"だったのに、ラオメのことは言い淀んだ末に"ツインテールの、あの人"で誤魔化したよな。不思議だったんだ。まるでラオメの性別を知っていて、彼と呼ぶか彼女と呼ぶか分からないみたいな。初対面でおかしいなと思ったら…。夕のときに知ったんだろ。」
ラオメ達の話を聞くに、夕として頬睦利町からジルへ行き、また結として戻って来たという流れだろう。
「あー。まあそーす。」
ゆいは頭を掻きながら、
「基本、対人系は結か女の子の方の結に任せてるんでー1人に何人かが会っちゃうと、こんな風にバレるようなヘマしやすいんですよ。正直、複製の<申し子>にも今までヘマしてないとは言い切れないんすよー。そこだけがこの計画のネック。」
「ネックってェ、ロマンス詐欺はもう始めちまってるんだろ。今から止める訳にもいかねェ。」
「ですねー。それに1人バレても他が居りゃーこっちのもんなんで。」
へらりと笑顔。成程、結くんとは随分違う。
「ヘマするなら最初この町になんで夕で来たんだ?」
「あー。実は夕じゃない奴でやらかしてー。ほら、あんとき国境付近の警備強まってたでしょ。なんでか覚えてます?」
「リモンドは…狩り隊の上層部の人間が治所に捕まりかけた、とか言ってたかァ?それで治所と狩り隊が衝突したとか…。」
「そーす。実はおれの中の1人が、その狩り隊の上層部と一緒に捕まりかけたんすよー。なんか、その狩り隊員に狩り隊に誘われて、だからブチ切れてたら治所が来て、喧嘩防止法?とかで2人とも捕まりかけて逃げたっつー。元々ジル国はそろそろ行かなきゃだったし_母さんの元夫と本物の方の結ちゃんがジル国に居るんす_だから一旦夕でジル国に行ったら、まあ逃げ切れるかなーと。
あーで、その上層部ってのが複製の<申し子>だったんですよー。だから公園でも顔が分かったんです。」
「お前っ、そんな前から複製の奴と面識あったのかよ!」
「すませー。」
謝る気の無さ気な返事に舌打ちし、私は酒を数口含む。そしてゆいが『フラ・アンブロシオ』と呑気に談笑しているのを眺めながら、口火を切った。
「結局、そんな別人格が要るってことは、多重人格でないにしても、過度なストレスが原因じゃあないのか。」
解離性障害の原因はまだよく判明してないらしいが、衝撃やストレスは昔から言及されているものだ。邪推でしかないだろうが、ゆいの場合、家族が問題なのではないか。
「いやだーかーら!別人格とか多重人格とかとは元が違うんですよ。」
「"元"?」
彼は笑顔で返した。室内灯の白っぱけた光で、濃紺の髪と少し太い眉がいつもより明るくなっていた。嘘臭いくらいに。
「6人は、おれが作ったんですから。」




