【連絡中の音】シェルファ
「トラブったか?」
受け取りとスピーカーモードのボタンを連続で押し、私は声を張り上げる。こちらの気配を探るような間の後、返ってきた言葉は弾けるように耳へ届いた。
「上々ですよ。SLAY生産場所、タンク、武器、全て爆破され使用不可能になりました!あれは可燃性で、火を近づけることで爆破させられるそうです。」
そりゃあ良かった、と返そうとした私より速く、リモンドは言葉を重ねた。
「また、コッツティ王国の狩り隊の協力を得て、各地域の狩り隊へ戦線離脱の助言を伝えることができました。それにより現在、本部とロップ国以外の全ての東部地方の国で、狩り隊は機能停止しています。一部隊員は狩り隊として残る様子ですが、SLAY反応武器はその危険性から手離した模様です。人数は細かくは把握できてませんが、最大でも50人には満たないと思われます。」
「50!?」
声が上ずった。50人程度なら、3人も居れば対抗出来る。
リモンドの興奮も理解できた。コッツティでは予想を大きく上回る結果であったらしい。だが詳しい話は後だ。
「悪いがこっちは立て込んでてな。兎に角…全員無事で帰って来い。」
「承知しています、女医様。ご武運を。」
甘さを含んだバストロンボーンを鼻で笑ってあしらうと、通話が切れた。
正面を向く。
「おい、今の聞こえたか?お宅、大ピンチじゃねえの?あんたも寝返った方が早いんじゃないか。」
治療室の入り口には、狩り隊の1人が立って防弾盾越しにこちらを覗っていた。
「卑怯者め!そんな汚い手には乗らない!たとえ1人になろうと、私達狩り隊は戦い続ける!」
「けっ。」
折角こちらが臨戦中と勘づいたリモンドが(あいつなんで分かるんだ?)、大々的に戦果を叫んでくれたのに、上手く使えなかった。まあ、コッツティで大成功できたのならそれだけで重畳。リモンドは嘘で一時しのぎするほど考えの浅い男ではないし、成果は事実だろう。
「やれやれ。おチビに随分助けられることになりそうだな。」
八重自作のピストルを構えつつ、相手へ呼びかける。何度か撃たれた隙に撃ち返すが上手くいかない。
「チッ。」
1時間前、頬睦利町へ一般市民避難命令が出た。
そして狩り合いが始まった。
「<魔女の使者>なら<魔女の使者>らしく、銃じゃなく魔術を使えよ。銃は人間の物だ!」
「じゃあ私もお前も銃は使えないな!」
飛び出た頭へ、近くにおいていた文鎮を投げつける。がくん、と相手の体は向こう側へ倒れた。ああ、こっちのが早いな。
「やれやれ、文鎮は無事だろうな…。」
軽めの罵倒で呼び掛けても反応が無いのを確認し、私は倒れた相手に近付く。数分前にドアが吹っ飛んだせいで、枠だけのそこから外へ2歩だけ出る。あったあった文鎮。無傷だ。流石。
「手を挙げろ。」
「…!」
ちゃ…と聞き慣れた音と共に声。私は盛大に溜め息を吐きながら、曲げていた腰を戻しゆっくり手を挙げた。文鎮は足元。
目玉だけ回して声の元を見やる。銃口がまず目に入る。その次に、憎悪と闘志に燃える双眸。その後ろに、ちびっ子に崩された積み木のお城めいた<葬り町>。
「…私が狩り隊を嫌いなように、狩り隊も私を嫌いって訳だな。」
この町は今回の戦いで、どれくらい傷つくだろう。復興に、どれほどかかるだろう。
「お前と私の思いが同じ訳無い!!お前等は、お前等は私の…。」
「ほおーら、同じさ。同じ穴の狢だな。」
もしくは同じ巣の蟻。もしくは同じ星の下の人間。
「仕方が無いさ。…仕方が無いが、どうにも、笑えんな。」
文鎮を蹴り上げる。ハッとした狩り隊は引き金に力を入れる。
が、銃声よりも文鎮よりも、それの方が速かった。
彼、と言うべきか。
「待たせた。」
昔ながらの両刃直剣型の剣を振って血を払うその男へ、私は視線と溜め息と声を同時に投げた。
「助かった、レーリッシュ。」
赤茶色の短髪。赤茶の虹彩に囲まれた黒い瞳。ジロリと私を見、彼は剣を腰に収める。私は鼻を鳴らして、
「ふん。似合わんな。」
「安心しろ。お前に当たらねえように剣にしただけだ。銃も持ってきてる。」
「銃だって似合わねぇよ、お前は。人間の癖に。」
はあ?と顔を顰めるレーリッシュ。私は唇の端を歪めて部屋の中へ戻った。
「入れ。酒と紅茶、どっちにする?」
「こんなときに酒を飲むのはお前だけだよ。」
ペットボトルを投げ渡す。彼は片手で受け取って、卓上に銃を置いた。私はそれを眺めながら呟く。
「…悪いな、似合わねぇモン持たせてしまって。」
「そういう意味…。…別に。古巣に帰っただけだ。それで守れるなら安い。それに、俺なんかに似合うモンなんて武器くらいしか無いだろ。」
フライ返し、包丁、鍋、カトラリー、ティーカップ、花、木、赤、白、朝、空、微笑、人。
「ハハっ。馬鹿の相手はこれだから嫌になる。」
「はあ?たくっ年下としての礼儀がなってねえな。飛鳥あたりに叩き直してもらえ。」
「たかが3歳差だろ?ていうか、飛鳥か。いいな。お前が飛鳥に叩き直してもらえ。」
「馬鹿言ってんな。」
それがいい。きっとあいつなら、私よりもっと沢山知っているだろう。こいつに似合う、もっといい物を。
「戦闘能力は無い癖に居場所は大々的に知られてる、なんて最悪な状況だろうから来てみたら、案の定死にかけやがって。まあだから、」
彼はペットボトルの中身を一気に呷り、口を手の甲で拭った。
「そんな馬鹿を守ってやるよ、女神殿?」
私は文鎮をくるりと回す。
「馬鹿はお互い様だな、退役軍人さん?」




