【種】リモンド
「可燃性…?」
髭面が戸惑いの声を上げた。衝撃で吹っ飛んだのか、敵意が薄れている。
「だって、考えて下さいよ。なんでSLAY生産場所と武器の貯蔵室が隣なんです?場所は南側。厨房から最も遠いところ。何よりさっきのあなたの発言からすると、狩り隊はSLAY反応武器を携帯していない。使用時以外は貯蔵室から出さない決まりなのでは?」
「それが何だって言うんだ!」
「あの武器を沢山作る意味が無い!武器を常備させて初めて意義があるんです。いつでも<使者>に対応できるっていうね。貯蔵室に押しやるには、それ相応の理由がある筈です。」
言葉を重ねれば重ねる程、蓮の感情は高ぶるようだった。
「例えば、もし可燃性ガスを詰め込んだ武器を常備させたら?煙草の火に、料理の火に、通常の銃の火花に、反応するかもしれない。そうなら貯蔵室に詰め込むのも納得出来ます。」
「納得出来たとしても、そんなのただの仮説だ!」
「じゃあ、どうして電動ノコギリじゃないんですか。」
髭面が目を瞬く。蓮は狩り隊を見回した。
「非常事態用のノコギリ。皆さんもよく知っている筈、手動です。どうしてですか?あんな丈夫なタンクに手動で穴を開けるなんて、随分大変だし時間がかかりましたよ。あんな作業を非常時に行うなんて冗談じゃありません。」
「あっそうだ、お前はタンクに穴開けやがったんだった!」
後ろの方から声が上がる。どうもみんな本気で忘れかけていたらしい。ちなみに穴開けどころか爆発させたのだが、私は黙っていた。
「うん、その話は後でね。」
穏やかに暴力的な進行。狩り隊も呆気にとられて、待ったをかけられなかった。
「要は電ノコを使えないんですよ。火花の出る恐れから。」
「それだって仮説だ!それに、そんな程度で爆発する気体があってたまるか!おい、いつまでこの話を続ける気だ!」
「でも、」
蓮は振り返る。飛鳥だった。
「実際に、爆発してるじゃない。ロープを伝う程度の、小さな火で、2部屋吹っ飛ばすくらいには。」
その声は痛ましかった。何故だろう。SLAY生産場所ごとタンクも武器も爆破する計画を聞いたとき、私はこれ以上なく胸のすく思いがした。その時は飛鳥だって、蓮の奔放さに驚きつつも可笑しそうに笑っていたのに。何故、今になってそんな顔をする?
「じゃあ、なんだ!じゃあ!」
髭面の男は叫んだ。理性の飛んだ目は悲痛な色を帯びている。どうして?
「じゃあ、我々はその危険性を一切聞かされずに、こんな、こんな、SLAYだらけの場所に、連れてこられてたとでも言うのか!?それらしい言葉を並べられて、苦い思いで仕事をこなして!」
狩り隊は皆一様に青い顔をしていた。
ああ、そうか。私も漸く分かった。
武器を常備しないこと。ノコギリは手動にすること。厨房から遠ざけること。
それらを決めた奴は、SLAYの危険性を知っていたのだ。知っていて、ここに居る誰1人にも伝えなかった。
彼等に被害がなかったのは、運が良かっただけだ。何かが少しでも違えば、吹き飛ぶのは無人のあの2部屋ではなく、人の血肉だったかもしれない。爆弾と一緒に仕事していたようなものだ。
「でも、それならどうして伝えなかったんです?」
蓮がこちらを見上げた。炎の燃えたぎる瞳は、誰かに怒っているらしい。
「真実は分からない。でも考えられることはひとつ…。SLAYの弱点を、漏らさないため。」
腑に落ちた。
知る人が多いほど漏れる危険は高まる。だったら、何も知らない奴等が爆破事故に巻き込まれる方がましと思ったのか。弱点を漏らすよりは、人員欠如の方がいい。代えがきくから。慣れてるから。狩り隊らしい考えじゃないか。
くそったれな考えだ。
「命を…なんだと思ってるんだ。」
狩り隊が俄にざわめき始めた。ふざけるな!なら今まで…。騙しやがって!裏切りやがって!罵倒は全て、自分達の命を無視し、牢獄に閉じ込めた戦犯へ向かっていた。彼等も閉じ込められていたのだ。王宮の形をした牢に。危険を孕んだ武器をそうとも知らず、守りながら…。
「潰そう。」
低い声だった。なのに、その声はよく響いた。
「潰しましょう、オレ達で。力を貸して下さい。借りを返すときは今です。このまま従属してなんになる。このまま勝手に命を消費されて、そんなの、許せますか。」
ごうごうと燃え盛る朱色の太陽が、辺りを照らし輝かせ焼け焦がしている。僕は唖然としながらも、胸の底に恍惚とした思いが揺蕩うのを感じていた。
この世で最も信じられる、美しい人。
狩り隊にもう敵意は無かった。全員が同じ方を向いていた。命の権利と矜持を、取り返す。
「放送が出来る機械はありますか。全国でなくて構わない。せめて都市部にだけでも放送を流したい。無かったら拡声器で人海戦術でいこうか。」
「隣に、防災無線のための放送室が。各地域の主要地域に流せる。…何をやる気だ。」
「防災無線!上々だね。
ああ、何をするかって訊きました?コッツティから"悪魔"を抹消させるんですよ。」
「狩り隊の誰かに喋ってもらいましょう。無いとは思いますが、万が一声で身元が割れたら面倒です。」
私の言葉に蓮は浅く頷く。大まかな流れはこっちで書いちゃおか、と紙とペンを出す蓮の横で、若い狩り隊の1人が私を覗った。
「さっきも思ったけど…お前ってそっちが本当なの?」
「馬鹿か黙れ失せろ。」
「めっ。よし、こんな感じかな。2人もチェックしてくれる?あと貴方…えっと…。」
髭面が気付いて歩み寄って来た。
「サルデームだ。私も確認するべきか?」
「隊員代表としてお願いします。放送は誰がしましょうか。」
「そう言えば、まだ適任者が居るんじゃない?狩り隊がやるより安心感をもたらすかも。」
飛鳥は蓮へ微笑みを投げかけた。蓮はきょとんとした。
数分後、現れたのはアルシナさんである。蓮は驚いていたが、アルシナさんはにやっと笑みを見せた。
「放送、ね。いいだろう。任せろ。」
どん、と蓮の肩に手を乗せ、彼は歩き出した。




