【セッティング・オール】蓮
「あそこです。」
少し先の扉を彼女_フェルーンさんは指差した。人の少ない、厨房からいちばん離れた場所だった。もしかすると。オレは部屋の方向を確認してから、彼女に向き直った。
「ありがとうございました、フェルーンさん。…憎んで構わない。でも、オレの感謝を受け取ってもらえたなら、オレはすごく、嬉しい。」
「憎んでなどいません。」
彼女はふと、窓の外へ視線を移した。
「貴方の記事で、王様の死去がみんなに知れ渡りました。やっと、やっとです…。それまでずっと、あんなに愛されていた王様が…みんなに泣いてもらえずに…。それを、貴方が変えた。私は感謝してるの。」
胸の前で手を組み、狩り隊に気付かれないように小声ながらも、はっきりとした声色で言った。
「行って下さい。そしてこの王宮の、この国の、活路を切り開いて下さい。」
「…ありがとう。最後にもう1個お願いしちゃってもいいですか?ここの人達に、この場所から離れるように伝えて下さい。」
「分かった。どうか無事で。」
「ありがとうございます。あなたも。」
踵を返し、さっきフェルーンさんが示した部屋へ向かう。それは、SLAY反応武器の作られている部屋である。武器の備蓄も側にあるそうだ。
好都合。まとめてやってやる。
足音が響く。心臓まで、がつん、がつん、と響いてうざったい。やめてほしいな〜、心臓バクバクしてるみたいでヤなんだけど。
「あれ、まだ交代時間じゃないよな?」
SLAY生産場所の見張り役だろう。狩り隊らしい格好のひとりが、こちらをチラと見やった。
「え?あー、時計見間違えたかもしれません。いいですよ、今代わりましょう。」
がつん、がつん、がつん。気にせず部屋に進み入る。
「えー。俺ここの当番好きなんだよね。ひとりだし、好き勝手できんじゃん?好きなだけ漫画読める。」
実際、彼の側に漫画が重なっていた。胸の奥に微かながら、生温く重いものが生まれる。
「こんな重要な場所で、よくサボれますね。」
銀色のタンクが部屋の中央に端座していた。大人3人が両手を広げたほどの巨大さ。まだ新しい装備だからだろう、銀色は妙なくらいにぴかぴかしていた。オレの姿を歪ませながら反射している。
「誰も来ねーよ、こんなとこ。」
「そうですねぇ…。」
タンクをじっくり見詰めながら、その周りを一周する。武器にSLAYを移すためだろう、蛇口のような部分がある。が、オレが望むような、ガバっと開くタイプの開閉口が無い。
「…おい、お前何してんだ?」
彼はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「…。」
「おい。」
彼は疑惑の顔をしつつも武器を手に取らなかった。
何故か?オレはそれほどまでに、<使者>らしく見えないのか。
それで凹んでどうする。利用するくらいの心持ちでいろ。
ポケットに入れていた目玉くらいの大きさの小石を投げる。それは油断していた彼の脛に上手く体当りした。一瞬顔を歪め、椅子の上の武器の方を振り返る。そこにオレは走り込んで半ば激突するように首に摑みかかった。
「っ!お前、何が目的だ…。」
「話すと長くなるよ。オレの指示に従って下さい。」
首筋に抜き身のナイフを突きつける。大概、ナイフと録音機とマッチは何処へでも持参する。
「…くそ。ま、俺も命ほど惜しい責務だとは思ってねえし、いいよ。従う。何?」
「ありがとうございます。では、まず、このタンクの開け方知りません?やっぱり何処も開く場所ないのかな。」
「開く場所なんかねぇよ。緊急時はノコギリで開けんだよ。」
指差されたノコギリは簡易な手動の物だった。電動ではない。オレはちょっと笑んだ。
「銃で撃つなとか言われたことある?」
「あるある。なんで知ってんの。」
ナイフと逆の手でノコギリを摑む。昔学校で使ったやつと似た物だった。これならオレでもいけるだろう。
「じゃあ2個目。オレが合図したら、狩り隊全員に、今から言うことを叫んで下さい。」
「なんて言うの?」
オレは力を込めて囁いた。




