【再会の小さな部屋】リモンド
かちゃ、と手の中の鍵に振動が伝わる。王宮にしてはチープな鍵のようだ。もしかすると後付けかもしれない。
「…解錠したはいいですけど、その後、ここにいるだろう方々をどうすればいいんです?外に出す?」
ドアを開ける直前でふと疑問に思い、私は飛鳥さんを振り返った。板で蓋のしてある鉄格子付き窓を睨んでいた彼女は_ものづくりを生業とする彼女にとって、狩り隊による急拵えのそれは中々苛つく代物だったらしい_きょとんと振り返った。
「外に連れて行けるかしら?途中で狩り隊に会ったら乱戦になるわよ。」
「…確かに。じゃあここで待機して頂きますか。…だったら開ける意味ってあります?」
飛鳥さんと私はしばし見つめ合って考えていたが、結論を出すのに先んじて、部屋から不審がる声が聞こえ始めた。捕らえられている人達の声だ。開錠音はしたのに、狩り隊が入ってこないどころかドアさえ開かないのを変に思ったのだろう。
「チャンスじゃねぇか?ドアちょっと開けて、隙間から刺してやれば…。」
物騒な人達だ。私に劣らず。目顔で相談した後、仕方なく私はドアを引いた。
「こんにちは、狩り隊を壊滅させるために参った者です。」
開けた途端に視界に飛び込んできた人々へ、にっこり笑んで自己紹介してみせる。ぽかんとする相手を見回す。ざっと20人程度か。ほとんどが20代くらいの若者であった。人数の割に狭い部屋に押し込められている。
「お前、その服は狩り隊のだろ!狩り隊を殲滅って、ふざけんな!俺達を馬鹿にするのも大概にしろ!」
中でも体格の良い男性が叫んだ。摑みかかってきそうな勢いだった。
「んー。狩り隊と敵対している者であるのは本当なのですが。どうしたら信じていただけますかね。」
「リモンド、避けて。」
飛鳥さんが前へ出る。その手が頭部へ向かったのを見、私は慌てて彼女の腕を摑んだ。
「眼帯は、外すべきではありません。」
彼女が何をする気なのかはよく分かった。<使者>の文字を見せるのだ。確かに狩り隊の仲間でない証明としては、これ以上のものは無いだろう。だがあまりにリスキーであった。
「どうして?こんなに信用できる証拠、無いじゃない。」
「そうは言っても、どんな反応されるか分かったものではありませんよ。」
「お?何隠してんだよ。」
「ちょっと見せてみな。」
「止めて下さい!彼女に触らないで。」
何人もの腕がにゅっと伸びてきて、私はたまらず飛鳥さんを廊下へ押しやった。無論彼女は抵抗するが、二大強力魔術の持ち主とは言え、身体的には私より力が弱い。不平の叫びが絶えなかったが、一先ず部屋の外へ追い出した。
「んー…どうしましょうね。まず私の話を聞いて頂けますか。それを聞いても納得なさらないのなら、私を煮るなり焼くなりどうぞお好きに。」
「その必要はない。」
唐突に響いた声。
それは聞き覚えのある声だった。
「私が保証しよう。その男は狩り隊ではない。狩り隊を殲滅したい、というのも真実だ。」
革命派の全員が部屋の奥を振り返る。彼等の表情には一様に、信頼と尊敬の色があった。私はその視線の先を追う。
以前よりボサボサの白髪。天文筋と小指にまめのできた手。銃口のような小紫の双眸。
「アルシナさん…?」
「無沙汰だったな。」
微かに頬が揺れた。微笑のつもりらしい。私の後ろからぴょこりと飛鳥さんが顔を出した。
「お知り合い?」
「以前、取材をさせて頂いて…。…貴方が革命に加わっていらっしゃったとは。」
「何かが動くときというのは、何かが変わるときだ。今行動しないなど、チャンスを捻り潰すようなもんだろう?」
ギラリと閃く紫の光。呆れる思いもあったが、何処か羨ましいようにも思えた。若者に囲まれながらも老いを感じさせるどころか、寧ろ場の空気を牽引しかねない力強さを漂わせている彼は、軽やかに自由だった。囚われの身でありながら。
「にしても、あの男が来ていない訳が無いよな?」
「蓮なら、…今多分」
トランシーバーから、コツコツコツと音が聞こえた。
「盛大に暴れてますよ。」




