【路端の計画】蓮
「でも革命が起きかけたせいで、狩り隊は大分警戒してるでしょうね…。王宮近くの狩り隊の服を剥ぐ計画は、流石に難しくなっちゃったんじゃない?」
飛鳥さんが尋ねると、りーくんは顎を撫でつつ
「ふむ…。蓮、この近くに狩り隊の駐在所のような場所は?」
「あの十字路を左に曲がって少し行くと、あるみたいだよ。行くの?」
「狩り隊の制服とナイフを拝借してきます。3人だと目立つでしょうから、ここで待っていて下さい。」
気をつけてねと言うのとほぼ同時に、髪を全て帽子に押し込んだ姿のりーくんは、十字路へ走っていった。
いつ狩り隊に会ってもおかしくないからと、彼はずっとショッキングピンクのウィッグで居たが、この国では逆に目立つため、帽子で誤魔化していた。
アヨマさんに描いてもらった王宮の見取り図を確認しつつ、狩り隊の居るだろう場所と牢として使われているだろう部屋の位置を考える。アヨマさんのときと変わっていなければ、狩り隊の多くは北西の一角に集まっている筈だ。
「戻りました。」
息すら切らさず颯爽と駆けてきたりーくんは、サイズ違いの3枚(狩り隊の着ていた物を剥いできたのだろうが、丁寧に畳まれていた。)を持ち上げた。
「よし、じゃあ北東の通用口から入ろう。」
着替えるとすぐオレ達は出発した。北東の通用口は見つかりにくかったが、予想通り小さくて人が居なかった。好都合だ。3人で堂々と侵入する。
「…あの、」
廊下をずんずん進み、暫くして、隣を通り過ぎる女性が居た。格好からして、王宮で働いていた人だろう。今でも彼等は閉じ込められているらしい。
「何か?」
りーくんと飛鳥さんへ、先に行くようにジェスチャーする。この女性が何を言いたいのか分からない以上、全員で対応するのは危険だ。急いでるし。
「もしものときは呼んで。」
りーくんが耳元で囁きかけるのに浅く頷き、不服気な彼を飛鳥さんに押し付ける。呼び止めてきた女性は、無視して進む2人を食い止める程の勇気はないのか、はたまたオレ1人で十分だと思ったのか、りーくん達の背中をちらと見ただけでオレに向き直った。
「貴方、狩り隊、の人じゃ、ないですよね。」
切れ切れの割には、はっきりした声だった。
ゆっくり息を吸う。どうする?口封じ。計画が済むまで気絶しててもらうか?無難にお金…いや、彼女のピアスも靴も高い物だし、そもそも軟禁されている身にとって通貨はどれほどの価値があるか。やっぱり申し訳ないけどスタンガンの出番か?
ポケットに手を突っ込んだそのとき、彼女は声を張り上げた。
「やっぱり狩り隊ではないですよね。だったら、アヨマを知っていますね?」
驚きは顔に出さない。淡白な表情で見返す。女性はちょっと不安を滲ませたが、それでもオレの目を見ると何か確信するものがあるのか、ぐっと身を乗り出した。
「アヨマです。あなたが市から連れ出した、あのアヨマです。」
「市?」
「しらばっくれないで。私知ってるんですよ。あなたが、狩り隊が見てる中で、絡むみたくしてあの子を連れてったの。」
「何を言って_あ。」
"身分の低い者や顕著に怖がる子供などが数人選ばれ、買い出しを命じれた"
"彼女の他にも買い出し係がいたのでしょう?"
さっと血の気が引いた。声が震える。
「ごめん、ごめんなさい…!」
分かっていた。自分がどれほどの罪を犯したか。最善を選んだら、罪を犯してしまっていた。今までも、そういうことが何度もあった。それを、どうすればいいんだろう。
「あなたを…オレは、あなたを、」
「待って!いいの。いいんです。下働きの中であの子は一番年下だったし、…物凄く怯えてた。無理もないよね。あの年で、故郷も家族もずっと遠くて、周りはよく知らない人ばっか。それで狩り隊に囲まれたら…そりゃ怖いよね。」
彼女は目線を外へ向けつつ、微かに苦笑した。
「正直、あの子が助かったんならほっとする。…あの時、私無視したの。貴方があの子を連れてってるとき。ヤバイ人に連れてかれてるなーって思いながら、巻き込まれたくなくて無視した。非道いでしょ。私に貴方を怒る権利なんてない。」
「そんなことありません。あなたにはオレを怒る権利が、恨む権利が、絶対にあります。生きたいと思うのは当たり前のことだし…生きたいと思う方が、いいです。怒って、恨んで下さい。」
視線がオレへ戻る。ふっと柔らかく頬が緩んでいた。
「頑固だね、貴方。あの人が言った通り。」
「"あの人"…?」
「革命軍の1人で、牢の鉄棒越しに話したの。その人は、私が見た人が貴方なら、アヨマは助かってるって言った。」
「革命軍の人が…?オレを?」
「そう。それで、もしこの王宮に来たら、情報を全部伝えてって。」
「…あなたはそれでいいの…?」
青の瞳に光を沢山湛えて、彼女ははっきりとした声を発した。
「私、いいと思ったことしかしないから。」
狩り隊の蹂躙する他国の王宮で、敵の姿に変装したオレと長く囚われている彼女は、罪の意識を抱えつつ。
それでも確かに頷きあった。




