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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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83話 トランシーバーで通信

 盗賊二人を瞬殺(殺してはいない)したエルセ。

 とりあえず脅威は去ったわけだが、ニコとグレイスの目がいまだ完全に回復していないんで、その場で少しの間待機することになった。


 グレイスは相変わらず俺の手を握っているが、ニコは俺に寄り添うように体を預けているだけで、手は離している。

 両手がふさがっていると何も出来ないから、正直助かった。


 闇夜の中で何があったのかを確かめようと、冒険者カードを見てみるが……暗くて見えない。

 こっちはディスプレイにバックライトは採用されていないらしい。


「エルセもコーしゃまも、ワシの想像を超えることをやすやすとやってしまうのぅ」


 まぶたを閉じたまま、ニコが楽しそうに言う。

 俺をエルセと同じ括りに入れないでくれ。


「むふ……むふふ…………ぅきゃ~!」


 ……と、さっきから、グレイスが俺の手をぐにぐにと握ったりもぞもぞしたりしているのだが……これ、どうすりゃいいんだろうな。


「こ、これが……夫婦?」

「違うぞー。手を繋いでるだけだから」

「『俺がお前の目になる』……」

「言ってないから、そんなカッコいいこと」


 目が開かない間、不安だから手を握ってるだけだから。


「コーシがいてくれるのなら……ワタシは一生このままでも……」

「盗賊団のアジトに潜入する任務忘れないで!? 困るんだ、さっさと回復してくれないと!」


 こんなとこでもたもたしてたくないんだよ……夜の森って、微妙に怖いしさ!

 ……だってほら。何も見えない闇の先に、何かが潜んでこっちをじぃ~っと見つめているかもしれないじゃないか……………………じっと……じぃ~っと………………


 ――と、その時、突然誰もいないはずの空間からくぐもった男の声が聞こえてきた。

 心臓が止まるかと思った。よく悲鳴を上げなかったと自分で自分を褒めてやりたい。


 闇の中から、謎の声が語りかけてくる。


『どうした? 何があった?』


 謎の男の声が聞こえています! それすなわちYOU!


『大丈夫か!?』


 大丈夫じゃないです! 成仏してください!


「コーシさん」

「ビビッてないけど!?」


 エルセに肩をぽんと触られて悲鳴を上げそうになった。

 が、エルセの手の温もりが俺の平常心を呼び戻してくれた。


「……アレって、トランシーバーですかね?」

「トランシーバー?」


 エルセが指差しているのは、伸びている盗賊団の腰回りだった。

 よく見ると、鈍く光を放つ四角い人工物が確認出来た。

 トランシーバーというか、携帯電話……ちょっと大きなスマホみたいな……?


 近付いてよく見てみると、スマホとまではいかないが、そこそこ手の込んだ通信機器のようだった。

 トランシーバーという表現が一番しっくりくる。

 ただ、本体にバックライト付きのディスプレイが付いているって点を除けば。


「早く応答しないと、援軍とか来ませんかね?」

「来そうだな……」


 それはマズい。

 が、それ以上に、エルセが凄く落ち着いていることにびっくりだ。

 こいつは闇を恐れたり、突然の電子音にビビったりはしないのか……これも、グレイスのコスプレをしている成果か?


 状況判断も冷静に出来ているし……コスプレ中はエルセのアホの娘は鳴りを潜めるのかもしれない。

 なら、戦闘中は常にコスプレをさせておけば、こいつに弱点はなくなるんじゃ……


「もしもし。こちら偵察部隊」


 なに出てんの、お前!?

『もしもし』じゃねぇし!?

 ダメだ。エルセのアホの娘はコスプレごときじゃ押さえきれないらしい。


 大慌てでエルセからトランシーバーを取り上げようとしたところ……


『無事なのか? ならよかった』


 信じてるー!?

 え、純粋なの、向こうで応答してる人!? 盗賊なのに!?


『なぜすぐに応答しないんだ?』


 俺はエルセに目配せをする。

「上手く誤魔化せ」と視線で伝える。

 トランシーバーの明かりに照らされる中、エルセは俺の目を見てこくりと頷く。


「ちょっとした反抗期です」


 バカか!?

 なんだよ「反抗期」って!?


 エルセは俺を見ると「どやぁ」と言う顔をして親指を立てた。

 全然上手く誤魔化せてねぇから!


『……ったく。お前も早く大人になれよな』


 誤魔化せてたぁ!?

 この声の主、エルセレベルのアホなのか!?


『それより、その付近に不審者がいるそうだな? 応援を向かわせるか?』


 トランシーバーでさっきの会話を聞いていたのか。

 マズいな……応援が来れば今度こそ対処出来ない。


「大丈夫です、ネコでした」


 ベタな誤魔化し方をチョイスしたな!?


『あぁ、いるよねぇ。その辺。エサやるなよ』


 もう君、この仕事辞めた方がいいんじゃないかな!?


『しかし、何かが光っていたんだよな? まさか、ネコの目が光ってたなんて冗談は言わないだろうな?』


 お、今回は先手を打ってきやがったか……


「蛍です」


 光、弱っ!?


「ネコに蛍がめっちゃ群がってました」


 何があったの、そのネコに!?


「超光ってました」

『そっか。珍しいこともあるもんだな』


 騙されないで、こんなアホな嘘に! 敵ながら、不安だよ、俺は!


『とにかく、見回りを続けてくれ。おかしなことがあったらすぐに連絡しろよ』


 ブツッ……と、通信は途絶えた。

 ……おかしいこと目白押しだったんだけど、報告してやろうか?


「上手く誤魔化せましたね!」

「なんでなんだろうね、ホント!?」


 俺はお前をちょっと見直しちゃったよ。


 それはともかく……


「トランシーバーなんかが存在するのか、この世界は?」


 電気すら通っていないのに。

 これも魔法で動いているものなのだろうが……


「敵は魔技師だとグレイスさんが言ってましたからね」


 そういえば、ウセロが使っていた異空間トンネルみたいなアイテムもあるみたいだし……その魔技師――ジョーカーってのは相当厄介な相手かもしれないな。


 しかし、なんか引っかかる……俺は何かを見落としているような…………


「そういえば、コーシさん」

「ん?」

「ニコさんとグレイスさんはどうしました?」


 指摘されて、自分の両手を見る。

 …………手、繋いでない。


「コーシに捨てられたぁ!」

「怖いのじゃ! 不安なのじゃ!」


 振り返ると、暗い森の中でグレイスとニコが抱き合ってぷるぷる震えていた。

 …………あの、なんか、ごめん。



「見捨てられた」と半泣きの二人を宥めつつ、二人の視力が回復するのを待った。

 へそを曲げた二人に、今回のクエスト終了後に甘い物をご馳走すると約束させられた。

 まぁ、そんなもんで機嫌が直るなら安いものだが…………お金、溜まらないなぁ。



 そして、ずっと大人しかったスティナは……やっぱり、森の木にもたれて眠っていた。

 いいな、お前は。自由でさ。






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