83話 闇の中の戦闘
各々がしっかりと仮眠を取り、太陽が姿を消した時刻に再度集結した。
空は黒一色に染まり、月すらも雲に隠れてしまっている。
「潜入するにはもってこいの闇夜だな」
グレイスが嬉しそうに言う。
至近距離にいても顔が見えないくらいに辺りは真っ暗だ。だが、声のニュアンスでほくそ笑んでいる様が容易に想像出来る。
「敵に気付かれるから、松明などは使うでないぞ」
グレイスの言葉に、その場にいる全員が頷く気配がした。
顔が見えなくても、空気で感じることが出来るもんなんだな。
「ここはわたしに任せてください」
そう言うと、エルセが一歩進み出る。
ちょうど、円陣を組んでいる俺たちの真ん中に立つ。
任せるって、何をする気なんだ?
――と思った瞬間、眩い光が辺りを照らした。
「らぐなろフォンがあれば足元も明るくなりますよ」
「消せ、バカ!」
大慌てでらぐなろフォンを奪い取り電源をオフにする。ロック画面でも微かに光ってるんだよ、これ!
「な、なにするんですか!? 暗いと危ないじゃないですか!」
「敵に見つかるだろうが!」
「松明じゃないのに!?」
「お前は、敵が熱センサーで俺たちを発見するとでも思ってるのか!?」
この闇の中で明かりを使えば一発で見つかるから松明を使うなと言っているのだ。
「うぅ……目が……ワタシの目がぁ……」
「いきなり明るくなったので眩んだのじゃ……」
「……あと五分……」
見ろ!
パーティーの要、グレイスとニコの目が眩んで身動き取れなくなったじゃねぇか!
そしてスティナ、起きろっ!
「おい! 今こっちで何か光らなかったか?」
「どこだ?」
「こっちだ!」
森の中から男二人の会話が聞こえてきた。
ここは盗賊団『闇の組織』のアジトのすぐ近く。
盗賊たちが付近を巡回していてもなんら不思議ではない。アジトまではまだ結構距離があるからと油断していた。
ここら辺まで見回っているとは……
「グレイス。まずいぞ、誰かこっちに来る」
「こ~しぃ……おめめくらくらして何も見えなぃ~、怖いぃ~、おてて繋いで~」
「甘えてる場合か!?」
ほんで、ギャップがちょっと可愛いな、くそっ!
仕方ないので、グレイスの手をギュッと握ってやる。
「ほゎぁぁ…………コーシの手、あったかいな」
やめて、きゅんってしちゃうから!
普段強気な女の子の弱い一面見せないで!
「コーしゃまぁ……どこにいるのじゃぁ……不安なのじゃぁ…………」
お前もか、ニコ!
しょうがないから、あいた左手でニコの手を取る。
「コーしゃま……ありがとなのじゃ」
控えめな甘えもいいよね!
……って、それどころじゃない。
「とにかく身を隠そう。ニコとグレイスがこの状態じゃ、戦闘は避けた方がいい」
「コーしゃまは、なぜ目が眩まんのじゃ?」
そりゃ、変な時間に目が覚めて「今何時だ……」ってケータイの画面見ることが多かったからな。
こっちの世界の人間は、明かりをつけるためにはロウソクなりランタンのそばまで行って、火をつける道具を持ってきて、火をつける……って、そんだけ行動してりゃ目も冴えるだろうし、寝ぼけ眼で眩しい光を見ることには慣れてないのだろう。
「スティナも大丈夫そうなのじゃ……」
「あいつは目を開けてなかったからだよ」
スティナはバッチリまぶたを閉じてたからな。
起きろっつの。
「おい! 誰かそこにいるのか!?」
その時、目の前の茂みのすぐ向こうから男の声が飛んできた。
まずい!
この距離じゃあ逃げることも出来ない。
つか、目が開けられないグレイスとニコは動くことすら出来ない……どうする!?
「なっ、なんだ、テメェら!? ギルドの人間かっ!?」
悩んでいる間に盗賊が茂みをかき分けて俺たちの前に姿を現した。
「見つけたのか!?」
「こっちだ!」
そうこうするうちに仲間の盗賊が駆けつける。
敵は二人……、くそっ! 戦うしかないか!
「ここは任せてください!」
エルセが言って、盗賊に向かって走り出す。
そうか! あいつらにらぐなろフォンの画面を見せれば、ニコたちみたいに目が眩んで動きを封じられる。
と、思ったのだが。
「がっ!」
「ぐほっ!」
そんな短い声が聞こえたかと思うと、辺りは急に静かになった。
……何が起こったんだ?
「コーシさん、やっつけましたよ」
どうやら、エルセが人間離れした速度と強さで盗賊たちを瞬殺したらしい。
……って、殺していないだろうけども。
「しばらく目を覚まさないと思いますよ。急所を的確に狙いましたから」
自信満々に胸を張るエルセ。その胸にはCカップの膨らみが。
こいつ……思い込みだけでどこまで強くなりやがるんだ。
お前、急所とか知らなかったろう、絶対。
もしかしたら、こいつは本当に魔王を倒してしまうかもしれないな……
そんなことを、闇夜の中で思ってしまった。




