81話 テントで
無断で胸を揉んだ罰として、スティナはグレイスの背から降ろされていた。
ま、当然だけどな。
そして現在は、エルセの背に負ぶわれている。
「子泣きジジイか、お前は」
「それが何を指すのかは知らないけれど、ジジイとは失礼ね。美少女に訂正しなさい」
子泣き美少女。
なんだその、一部の人が熱望しそうな妖怪。
「それよりエルセ、大丈夫か?」
「はい。コスプレのおかげで腕力が上がったみたいです」
「……じゃなくて、さっきからずっと胸を揉まれてるけど?」
「へ? なぁ!? 何してるんですか、スティナさん!?」
「変な意味ではないわよ。ただ、揉みたいだけよ」
「変な意味ですよね!?」
しかし、さすが偽物……指摘されるまで気が付かないとは。
「女の子がそういうことしちゃいけないと思います!」
エルセが珍しく正論を吐く。
「そうね。こういうのは男の子の仕事だもんね」
「そうです。これは男の子専用の……って、違いますよ!?」
が、結局着地点はいつも通りのアホな結末だった。
「エルセ。そこら辺に捨ててきていいぞ」
「ふっ……今ここで私を捨てると…………引きこもるわよ、森にっ!」
「それ、引きこもりかなぁ?」
むしろアウトドアなんじゃね?
「この付近にテントを張るとしよう」
森の中の比較的広い空間にたどりつき、グレイスが荷物を降ろす。
これで俺もようやく、背中に背負った重たい荷物から解放される。
グレイスの背中にスティナがいたせいで、テントとかの荷物を俺が背負っていたのだ。
何も俺は都会っ子だからという理由だけでへばっていたわけではないのだ。
ホントつくづく、もふらに乗って来ればよかった。
「……肩がぱんぱんだ」
「コーしゃま。あとでマッサージをしてあげるのじゃ」
「あぁ、そりゃ助かる」
「任せてなのじゃ。マッサージは得意なのじゃ」
腕まくりをして、細い腕を曲げて見せるニコ。
そういう仕草は可愛らしい。
魔力の枯渇が緩やかになり、森歩きも苦ではなかったようだ。
基礎体力は俺よりもあるのかもしれないな。
「よし、こんなものだろう」
「はい。上出来だと思います」
気が付けば、グレイスとエルセが二人でテントを完成させていた。
グレイスが二人いると、物事がスムーズに運ぶな。
ギルド長になる前は、トップクラスの冒険者だったというグレイス。
その時に培った技術は今もなお健在のようだ。こいつがパーティにいるとさぞ心強いだろうな。
もっとも、グレイスとパーティを組めるのはグレイスのレベルに見合った連中で、そんな連中はグレイスと同じ芸当が出来るハイクラスな冒険者ばかりなのだろう。
……そういうヤツらが魔王を倒せばいいと思うんだが。
「そういえば、スティナはどこ行った?」
テントを張り終えたエルセの背には、スティナの姿がなかった。
もっとも、テントを張る前に降ろしたのだろうが。
「スティナさんなら、テントの中に入ってますよ」
「もう引きこもったのか、あいつ!?」
どんだけ外気に弱いんだよ。
とはいえ、俺も疲れた。横になりたい気分だ。
「テントは二つ。大きさから言って、三人と二人に別れて使ってもらう」
………………ん?
えっと、それは……つまり?
「俺、誰かと同じテントで寝るの?」
それも二人っきりで!?
いやいや、それはなんかマズイだろうから、俺が三人の方か?
ってぇ!? それなんてハーレム!?
両手に美少女とか、このメンバーといえどそれはさすがに無理だ!
これでも、そういうところはきちんと一線を引いて接してきていたのだ。
カチヤの家でも俺だけ居間に寝たり、ニコの家でも風呂の時間をずらしたり……
テントみたいな密閉された小さな空間で女の子と仮眠を取るだなんて…………眠れる気がしませんっ!
「では、コーシ。ワタシと一緒に仮眠を取るか」
「身の危険を感じる!」
とりあえず、グレイスと二人きりってのは勘弁願いたい。
二の腕タッチで結婚しろと迫られているのだ。同じテントで仮眠など取ったら、来世での婚約まで迫られそうだ。
「心配いらないのじゃ」
にこやかな顔でニコが言う。
まさか、「コーしゃまはワシと一緒に寝ればいいのじゃ」とか言い出すんじゃないだろうな……
「コーしゃまは一人でテントを使えばいいのじゃ」
「え、でも、そうしたら女子の方が狭くならないか?」
「大丈夫じゃ。交代で見張りをするから、同時に仮眠を取るのは四人までなのじゃ」
あ……そうか。
「コーしゃまが見張りの時は、誰か一人がコーしゃまのテントを使えば、三人用のテントに四人詰め込まなくても済むし、狭くはないのじゃ」
なんとも的を射た意見だ。
まったくごもっともだ。
……なんか、舞い上がってた自分が恥ずかしい。
そんなわけで、軽く食事をして、ニコに肩をマッサージしてもらった後、俺たちは各々のテントに分かれて仮眠を取った。
一人で眠るテントは……ほんのちょっとだけ、寂しかった。




