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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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80話 胸のサイズを揃えるだけで

 西の門を抜け、墓地を抜けて岩場の方へは行かずに迂回して行くと山の裾野に広がる深い森へと入っていった。

 この山に盗賊団『闇の組織』のアジトがあるらしい。


「すげぇ歩いたな……」

「遠いです……」


 都会っこである俺とエルセはもう既にバテバテだった。

 これくらい距離があるならバスでも走らせておいてくれればいいものを……


「ほれ、二人とも。もうちょっとじゃから、頑張るのじゃ」

「まったく、だらしがないな、最近のルーキーたちは」


 その小さい体のどこにそんなスタミナが眠っているのかと不思議に思わざるを得ないニコと、体力の塊であるっぽいグレイスが俺たちを振り返っている。

 ちなみに、こういう時に一番やかましく言いそうなスティナはといえば……


「おんぶの振動も……なかなかしんどいわね」


 もうとっくの昔にバテ果てて、現在はグレイスにおんぶしてもらっている。


「やっぱり、もふらを連れてくればよかったですね」

「あんな大きな魔獣に乗って移動したら、敵に感付かれてしまうのじゃ」

「なら、もふらに乗ったままアジトに突撃して一網打尽にしてしまえばいいんですよ!」


 歩かされて気でも立っているのか、エルセがきーきーと吠える。

 さも、「こんな遠くにアジトを構える盗賊団が悪い!」とでも言いたげだ。


「そんなにつらいなら、グレイスのコスプレでもしてみたらどうじゃ?」


 不意に、ニコがそんな提案を寄越してくる。


「ワシのコスプレで魔法が使えたんじゃ。グレイスのコスプレをすれば体力が増えるかもしれんのじゃ」

「そんなお手軽に能力を上げ下げ出来るのかよ?」

「エルセなら、可能かもしれんのじゃ」

「それは、エルセが人類の枠組みをはみ出すレベルで残念な娘だからか?」

「そ、そんなことは言っておらんのじゃ……あは、あはは」


 言ってはいないが、思ってはいるようだ。

 この世界のコスプレーヤーという職業は、思い込みによる能力ブーストが確認されている。というか、俺たちがこの目でした。

 ニコが言うには、胸に詰め物しただけで魔法がコピー出来るコスプレーヤーなど存在しないそうだ。

 エルセの単純さが、この世界の法則を捻じ曲げたのだ。


 ……あいつ、チート持ちだったんだな。


「グレイスさんのコスプレですか…………」


 と、グレイスをジッと見つめるエルセ。

 そして、おもむろに……


「スティナさん、グレイスさんのサイズ分かりますか?」

「ちょっと待ちなさい……えい」

「にゃぁぁああっ!?」


 突然。それはもう本当に突然、グレイスにおんぶされているスティナがその体勢を利用……いや悪用して、グレイスの胸を両手で鷲掴みにした。


「……Cってところかしら」

「な、なんで触っただけで分かるのだ!? というか、触るでない! こっちは嫁入り前だぞ!?」

「こっちもよっ!」

「む……むぅ、そ、そうか。ならば……おあいこだな」


 違うぞグレイス!

 全然おあいこじゃないから!

 お前、一方的な被害者だから!


「分かりました、Cですね。ではっ!」


 胸の前で両手の指を合わせ、輪を作る。

 そして、深呼吸をして……


「…………風の精霊よ、わたしに力を……っ!」


 輪になっていた指を離し、両腕をバッと広げる。

 その瞬間、一陣の風がエルセの体を包み込み――見る間に胸がぷくぅ~と膨らんでいった。ちょうど、Cカップくらいの大きさに。


「おぉっ!? 力が湧いてきました! 体力が有り余っている感じです!」

「なんだか複雑な気持ちだぞ、ワタシは!?」


 さっきまで死にそうな顔をしていたエルセが、見ただけで分かるくらいにエネルギッシュになっている。

 きっと、一振りの剣でも渡そうものなら、そこらの魔獣をばっさばっさと切り捨ててしまうことだろう。


「ふふ……それでワタシをコピーしたつもりか?」

「はい、たぶん出来てますよ」

「なら……」


 スッ……と、グレイスの目がすがめられる。


「これをかわしてみよっ!」


 まばたきをした瞬間、グレイスの姿がかき消えた。

 グレイスが立っていた場所の土が宙を舞っている。……高速移動か!?


 と、思った矢先、――パシィッ!――と、乾いた音が聞こえてきた。

 そちらへ視線を向けると、グレイスが繰り出した拳を、エルセが片手で受け止めていた。


「……まさか、本当に受け止めるとはな」

「だって、グレイスさん。スティナさんを背負ったままですし、それに、寸止めするつもりでしたよね? そりゃあ止められますよ」

「ふふん。そこまで見抜いていたとは……どうやら、ワタシの能力をコピーしたというのは本当のようだな」

「はい。コスプレーヤーですから」


 確かに凄い……凄いのだが……

 お前の『コスプレ』の解釈、大分間違ってるぞ。


 それはそうと。

 さっきの瞬間移動さながらの超高速移動がよほど怖かったのか……グレイスの背に負われたスティナが真っ青な顔をして硬直している。なんか、口から魂が抜け出てる様を幻視してしまいそうだ。

 死ぬなよ、スティナ。


「それにしても」


 ニコが俺の隣で呟く。

 その表情はどこか嬉しそうでもあり、少し真剣みを帯びている。


「胸のサイズを揃えただけで能力をコピー出来るとは…………凄いのじゃ」

「あぁ。凄いバカっぽいな」


 風の力で大きさを変える風のブラジャーが、こんな風に使えるとは……ある意味、エルセにぴったりのアイテムだったんだな。


「しかしアレだな……」


 ふと、グレイスが眉根を寄せる。


「そのコスプレ能力にはひとつ欠点があるな」

「えっ、欠点ですか?」


 さすがギルド長、というべきか……

 今、一目見ただけでエルセの能力に弱点を見出したらしい。

 エルセのコスプレの弱点……一体、なんだ?


「胸の大きさで相手をコピーするとなれば、胸のない男のコスプレは不可能……あ、大丈夫か」

「激しくやかましいですよっ!?」


 自分の理論をあっさりと引っ込めたグレイス。

 いや、まぁ……出来るのかもしれないけども……そこだけでコスプレするわけじゃないから。


「コスプレーヤーは口調とか言動も真似するのではないのか?」

「わたしはモノマネ師ではありませんので。あくまでコスプレーヤーです!」


 日本で見かけるコスプレーヤーも、別にモノマネをしているわけではないもんな。

 けど、名ゼリフとか、名シーンの再現くらいはやるものではないのだろうか?


「なりきり度を上げるためには、口調や言動を真似てみるのもひとつの手じゃよ」


 ニコが言う。

 エルセがニコのコスプレをした時もそんなことを言っていたっけな。


「それもそうですね……なりきり……なりきり…………」


 腕を組み、グレイスを見つめながら考え込むエルセ。

 そして、ぽんっと手を打った後、俺の方へと顔を向けた。


 そして、両手を腰の高さで広げて、満面の笑みで言う。


「お嫁さんにしてください、コーシさん」

「ぶふぅーっ!?」


 空気か唾液か、もしくは突然のことに驚いて俺の体内から分泌されたなにがしかの物体が、気管と喉の間のなんとも説明しづらい変なところに詰まり、俺は盛大にむせた。むせ倒した。


 なに言ってんだ、こいつ!?


「だ、だって、グレイスさんがよく言ってるじゃないですか?」


 グレイスのはギャグだからいいんだよ!

 つか……他のヤツらならともかく…………


 お前にそんなこと言われると……照れるだろうが。自重してくれ、マジで。



 その後、変な物が変なところに入ってしまった俺は、『闇の組織』のアジト付近に来ているにもかかわらず盛大にむせ続け、森の中でニコに背中をさすられ続けたのだった。

 あぁ、もう……隠密行動とか、ホント向かないメンバーだよな、俺らって。






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