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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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79話 出発の前に

「それでは、旅の準備を整えて入り口にてお待ちしております」


 アイザさんが一礼してギルド長室を出ていく。


「アイザさんも一緒に行くのか?」

「いや。あれは言葉の通り、準備だけして出口で待っていてくれるのだ」


 準備だけして……お見送りか?


「それでは、そろそろ出発するとするか」


 グレイスが立ち上がり、「そうじゃのぅ」とニコがそれに続く。


「アジトの近くにテントを張って、夜中に奇襲をかけるのだ。今から行けば、アジト傍の森に拠点を作って仮眠が取れる」


 なるほど。準備ってのは、その準備か。テントとかの。


 敵のアジトに忍び込むなら夜中の方が都合がいいか。


 明るいうちに近くまで行き、偵察なんかもしつつ準備を整える。

 うん。理に適っている。


「これまでの行き当たりばったりがちょっと恥ずかしくなってきました……」

「奇遇だな、エルセ。俺もだ」


 クエストゲット! よし行こう! なんとかクリア! わーいわーい。


 ……ちょっと、反省しようかな。


「そう落ち込むほどでもないわ」


 肩を落とす俺にスティナが声をかけてくる。


「私たちも、それなりに準備をしたじゃない」


 と、貝殻のイヤリングを指で弾く。


「少しずつでいいのよ。この二人はトップクラスなのだから、この二人を見て焦る必要はないわ」

「スティナ……」


 こいつなりに励まそうとしてくれているようだ。

 スティナの口調は淡白で、場合によっては冷たく聞こえがちだが、とても分かりやすく心に浸透してくる。こいつは、他人を思いやる心をきちんと持っている。


「だから、私は揚げドーナッツを買い食いしたからといって、全然、一切、まったく反省などしないわよ」

「そこはちょっと反省してもらおうかな!?」


 他人を思いやる心の数十倍大きな、自分を思いやる心が高確率で邪魔をしてくるのが玉に瑕だな。


「あ、そうだ。グレイス」

「なんだ?」

「なんだぉ?」


 二人来ちゃったよ。

 まぁ、都合がいい。


「揚げドーナッツを買ってきたんだ。よかったら二人で食ってくれ」


 二つ余っていた揚げドーナッツをグレイスとマゥルに差し出す。

 ちょうどいい数になったものだ。


「わ~い、輪っかだぉ、可愛いぉ」


 揚げドーナッツを覗き込んでマゥルが嬉しそうに頭を揺らす。


「……リング、か」


 そして、揚げドーナッツを手に取ったグレイスが、おもむろにそれを左手の薬指へと嵌めた。


「似合う……か? コーシよ」

「うん。すげぇバカっぽいって意味ではお似合いだな」


 ぶっかぶかじゃねぇか。

 そして指、べったべただ。


「これが、給料三か月分の……ぽっ」

「俺、どこまで薄給なの?」


 その揚げドーナッツ、一つ120Mbなんだけど。


「いいからさっさと食え」


 指の揚げドーナッツを奪い取り、強引にグレイスの口へと押し込む。

 アレが残っていると、どんな既成事実が立てられるか分かったもんじゃないからな。


 口いっぱいに詰まった揚げドーナッツをもぐもぐと咀嚼して一気に嚥下するグレイス。

 頬が赤く染まっているのは、さすがに少し苦しかったからか。


「……は、初『あ~ん』だ……」

「ワイルドだな、お前の中の『あ~ん』!?」


 あれもカウントに入るのか!?


「重大な作戦前に、コーシさんがイチャついてます!」

「どの角度から見たらそう見えるの、エルセ!?」


 アホは放っておいて、俺も準備をしておこう。

 ……って、ことごとくアホしかいないんだけどな、俺の周りには。


「さて……ステータスの確認でもしてみるかな」


 最初に見たっきり、一切確認していなかったステータス画面を開いてみる。

 まぁ、よく分かんない言葉が書かれているだけなんで、あんまり見なくてもいいだろうと思っていたのだが……



『 名前 :セオ・コーシ

  職業:魔法使い

  レベル:まだ低い

  HP:心許ない

  MP:論外

  力:頼りない

  体力:もっと鍛えろよ

  知能:なんだかなぁ……

  素早さ:鈍足

  幸運:そこそこ     』



 ん?

 少し変化があるぞ。


 レベルが『低い』から『まだ低い』に変更されている。

 それに知能が、『話にならない』から『なんだかなぁ……』に変わっている。


 レベルが上がったからステータスが変化したのか……ん、知能が変化したってことは…………レベルアップで下がるってことはないだろうし…………


 俺は、カバンに入れっぱなしだった『サンクチュアリ・ベール』の魔導書を取り出した。

 知能が上がっていれば、こいつが開けるようになっているかもしれない。


「まぁ、とりあえず試してみるか」くらいの軽い気持ちで、俺は魔導書を開く。

 と、突然。魔導書から眩い光が漏れ出し、世界を真っ白に埋め尽くす。


「にゃっ!? な、なんですか!?」

「コーしゃま!?」


 魔導書が開いた……


 溢れ出した光は、俺たちの目を数秒間眩ませた後、俺の体へと吸い込まれていった。


「あの、コーシさん……今のって?」

「……『サンクチュアリ・ベール』だ」

「開けたのじゃ? 凄いのじゃ! レベルアップで知能が上がったんじゃの! さすがコーしゃまじゃ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶニコ。


 俺はと言えば、心の準備が出来てなかったせいもあり、心臓がバクバクいっている。

 いやほら、まさか開くとは思わなかったっつうかさ。


「まったく。驚くじゃない」


 俺以上に、周りの人間は驚いたようで、スティナは腰に手を当ててご立腹ポーズだ。


「魔導書を開ける時とお風呂を覗く時は一声かけるようにしてほしいものね」

「風呂を覗く時はかけねぇよ! ……じゃなくて、覗かねぇよ!」


「今から覗きま~す」「は~い。ほどほどにねぇ~」みたいな会話が成立するのか!? 大丈夫かそのコミュニティ!?


「それじゃあ、あの、コーシさん。『サンクチュアリ・ベール』を使えるようになったんですか?」

「みたいだな」

「あぁっ、残念です! 今手元にお気に入りの新刊がありません!」

「お前のその、『とりあえず使ってみよう』みたいな精神、なんとかなんないのか?」


 俺の魔法を便利グッズ感覚で見るのやめてくれるかな?


「あの、とりあえず! 割と気に入っているこのTシャツにかけてみてもらえますか!?」


 と、ジャイアンカラーのTシャツを引っ張って俺の前に立つ。

 えぇ……それ、必要ある?


「破れたら困るじゃないですか」

「破らないように着ろよ」

「とりあえず使ってみましょうよ」


 にこにこと、嬉しそうな顔で詰め寄ってくる。

 とりあえず、見てみたいんだろうな、新しい魔法。

 でもなぁ……たぶん見てもそう面白いことにはならないと思うぞ。


「それなら、ワシもコーしゃまとお揃いのこのお守りをお願いしたいのじゃ」

「私は貝殻のイヤリングをお願いするわ」

「ならワタシは、今身に着けている勝負下着を頼むぞ!」

「え? あっと……あ、揚げドーナッツをお願いするぉ!」

「マゥル、無理して合わせなくていいから、お前んとこの姉貴を部屋の外に放り出してくれないか?」


 なんだかんだ、新しい物好きな連中に囲まれて、試し打ち感覚で『サンクチュアリ・ベール』を使ってみる。


 範囲指定のようなものがあるかと思ったのだが、よく分からないので、とりあえず、それぞれの品物に向かって手のひらを掲げ、魔法を発動させる。


「『サンクチュアリ・ベール』×3」


 すると、俺の手のひらから放たれたキラキラ輝く光の粒子がエルセたち三人を包み込んだ。……人ごと包み込んじゃったよ。これでいいのか?


「なんだか、魔法が狙いを外れて駄々漏れでしたね」

「コーシは粗相が過ぎるものね」

「そのうち慣れてくるのじゃ」


 三者三様、言いたいことを言っている。が、とりあえずスティナ、あとでチョップな。


 とはいえ、特に練習して窮めたいともうような魔法でもないし、このままでもいいような気がする。

 そして、案の定――


「実際使ってみると、地味ですね」

「面白みがないわね」

「まぁ、そういう魔法じゃし、しょうがないのぅ」


 と、こんな感想をもらったわけだ。

 だから言っただろうが。



 新たに習得した魔法がすげぇ地味だったりもしたが、レベルアップを実感出来たのは収穫だった。

 盗賊団『闇の組織』のアジトに潜り込む前に、いい弾みがついたと思っておこう。






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