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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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6話 敵との遭遇

 シムの街には、東西に大きな門が存在する。

 向かう先によって通る門を選ぶのだが、今回俺たちは東の門へとやって来た。


 街の東側には草原が広がり、その向こうは森になっている。

 薬草採取や、簡単な魔物の素材採取はこちらを使用する。いわば、レベルの低い冒険者向けの門なのだ。


「おっ。見ない顔だな。新人か?」


 百戦錬磨を体現するような厳つい門番が気さくに声をかけてくる。

 この門番に冒険者カードを提示すれば通行税がギルドに請求されるシステムになっているのだ。なので、この制度を悪用して密輸とかをすると酷い目に遭わされる。……悪いことはしない方がいい。


「コーシさん! わたし、凄いこと思いついちゃったんですけどっ!」

「密輸は重罪だぞ」

「な、なんで分かったんですか!? エスパーですか!?」


 お前が考えつくようなことは、すでに万人が考えついていて対策済みだ。


「特例クエストなら、門を出て南側へ向かうといいぞ。そこが、しびれスライムの住処だ」


 しびれスライムは、街のそばに住む非常に力の弱い魔物で人間の脅威にはなり得ない。ただ、体内で生成されたしびれ液を吹きかけて人間をしびれさせることがあるらしい。

 特例クエストの内容は、そのしびれ液を採取してくること。なんでも、薄めてお風呂に入れると滋養にいいとかで、街のお年寄りを中心に大人気なのだそうだ。

 ……魔物の体液風呂。入りたくねぇなぁ……


「さぁ、コーシさん! 敵を見つけ次第、魔法でバシバシやっつけちゃってくださいね!」


 先陣を切って草原を進むエルセがそんなことを言う。

 だが……


「俺、魔法覚えてないんだけど?」

「ふぁっ!?」


 いや、『ふぁっ!?』じゃなくて……

 魔法の使い方もなんにも教わってはいない。

 今の俺は、ただ杖を持っている一般人だ。


「……使えねぇ、この人…………」

「声に出てるぞ」


 そういうのは心に留めておいてくれ。


「魔法が使えない魔法使いなんて、鳥肉の入っていない親子丼みたいなもんじゃないですか」

「………………玉子丼じゃねぇか!? それはそれで美味いだろう!」


 喩え下手か!?


「しょうがないですねぇ……今回はわたしが魔物の相手をしますよ」

「コスプレーヤーに何が出来るんだよ?」

「ふふんっ! わたしはただのコスプレーヤーではないのです!」

「あぁ、知ってるよ。『とても残念な』コスプレーヤーだろ?」

「違います! 残念じゃないです! 可愛いです!」


 もう、その反論がなぁ……


「わたしは、天界の人間ですよ? 神の道具を使えるのです!」


 お前、それチートじゃねぇか。いいのか、そんなズルして。またマイナスポイント喰らったりしないだろうな?


 しかしながら、神の道具ってのには興味がある。もし使えるようなら活用しない手はない。

 グングニルとか、ダーインスレイヴとか、ティルヴィングとか、そういうのか?


「ジャジャン! スマホですっ!」

「営業の持つアイテムなんかそんなもんだろうよ、どうせ!」


 そうだったそうだった。こいつは天界の人間とは言っても天使などではなく派遣会社の営業なんだった。グングニルとか持ってるわけないよな。


「これは、ラグナロクが起きても使用可能な万能スマートフォン、通称『らぐなろフォン』なんですよ!?」

「『らくらくフォン』みたいになってんじゃねぇかよ。お年寄りも安心して使えそうだな」

「違いますよ! もっと凄いヤツなんです! ラグナロク――この世の最終決戦が起こると、電波とか悪くなるじゃないですか?」

「年末年始みたいに言うなよ」

「そんな時でも通話やメールが出来るんです!」

「そんなことしてる場合じゃなくなってると思うけどなっ!」

「キャッチコピーは、『最前線なう』!」

「呟いてないで戦えよ、最前線の戦士!?」


 ダメだ。天界の企業はどこも信用出来ない……


「あと、アプリが使えます」


 自慢げに語るエルセ。

 しかし、その背後に蠢く影が……しびれスライムだ!?


「エルセ、危ない!」

「大丈夫ですっ! らぐなろフォンのアプリで――っ!」


 エルセがらぐなろフォンをしびれスライムに向けて掲げる。瞬間、神の裁きのようなイカヅチが世界を明滅させる。

 爆音が轟き、辺り一面を焼き尽くす。


 ……あり得ねぇ。反則級の破壊力だ。こんなのありかよ……チート、ここに極まれりじゃねぇか。


「…………っくりしたぁ……」

「使ったお前がビビってどうすんだ!?」

「こ、このように! わたしには強力なアイテムがあるので、そんじょそこらの魔物なんか屁でもないのです!」


 確かに凄い。

 けど『屁でもない』とか、女の子が言わないでほしい。……うっせぇ。彼女いたことないから幻想を抱いていたいんだよ。


 焼けただれた地面。少々オーバーキル過ぎる感は否めないが……しかし、心強い。


 ふと見ると、轟雷を聞きつけてしびれスライムが集まってきていた。

 魔物の群れ。新人冒険者なら泣いて、ちょっとチビる光景だ……だが。


「エルセ! もう一発お見舞いしてやれ!」

「あ、……バッテリー切れです」

「はぁっ!?」

「ほら、アプリってバッテリー食いますからね」


 使えねぇ!?

 まったくもって使えないな、らぐなろフォンとお前!


 切り札を最初に使いきり、なんの力も持たない俺たちは魔物の群れに取り囲まれた……どうする?


「逃げましょう、コーシさん!」

「それしかないよな!?」


 それは、この世界に来てから二度目の全力逃走だった。






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