5話 初めてのクエスト
「さぁ! クエストに行きましょう、コーシさん!」
意気揚々と、それはそれは元気いっぱいに、エルセがアホ丸出しで俺の前を歩く。セミロングと言うのかボブと言うのか、とにかくそれくらいの長さのエルセの髪が肩口でふわふわと揺れている。……アホ丸出しで。
「なぁ、エルセ。『阿呆』って漢字で書ける?」
「ぷぷーっ! 何言ってんですか、コーシさんっ。『アホ』は英語だからカタカナで書くんですよ。まったく、物を知らないんだから、ぷっくく」
……あぁ。これがステータスに気を遣われるレベルの知能なんだ。可哀想に。
俺は、ギルドから支給された頼りない杖を握りしめて、なるべくエルセから離れて歩く。
阿呆が伝染ると困るからな。
とはいえ、俺の知能も『話にならない』なんだよな……なんだ、この偏差値の低いパーティ。
ギルドでもらった『冒険者カード』を眺める。そいつはスマホみたいな形状をしていた。
手のひらサイズで、少し分厚い。タッチパネルで操作出来る全画面ディスプレイのような仕様で、画面上の文字をスクロール出来る。
……ハイテク?
いや、きっと魔力によって生み出された魔法的なものなのだろう。
原理はどうだっていいのだ。道具とはどう使うかこそが重要で、それ以外は些末なことなのだ。
油がいらないフライヤーの原理とかよく分かんないしな。あと、どっちからも開く冷蔵庫。要は使えればいいのだ。
冒険者カードには俺のステータスが表示されており、職業の欄にははっきりと、『職業:魔法使い』と表示されていた。
……魔法、使えるのかねぇ。
「そういえば、エルセはなんの職業に就いたんだ?」
冒険者カードの操作を覚えるのに必死で、エルセの登録を一切見ていなかった。
しっかりと監視しておくべきだっただろうか。パーティのバランスとか、こいつ絶対考えてないだろうし……最悪こいつも魔法使いってこともあり得る。アホだしな、こいつ。
「コーシ様が魔法使いなので、バランスを考えて相互扶助出来る職業にしましたよ」
おぉ!? なんと、相互扶助とな!?
こいつも一応は頭が使えるらしい。
ってことはやっぱり前衛の戦士とか、武道家か?
「見てください、わたしの職業を!」
自信たっぷりに自身の冒険者カードを差し出してきたエルセ。
その職業欄には、燦然と輝くようにこんな文字が表示されていた。
『職業:コスプレーヤー』
「バカなのっ!?」
「全コスプレーヤーを敵に回す気ですか!? コミケに血の雨が降りますよっ!?」
「違ぇ! お前単体に、お前だけに向けた言葉だよ!」
異世界で、それも魔物だの魔王だのがいるような世界を冒険しなきゃいけないこの状況で、なぜにその職業をチョイスした!? そもそもそれ、職業なの!?
「凄いんですよ、この職業」
鼻息荒く、エルセが朗々と語り出す。
「様々な職業のコスチュームを着るだけで、その職業の特性を引き出すことが出来るんです! 完コピですよ!? 凄くないですか!?」
つまり、魔王のコスプレをすれば、魔王と同じ力を得ることが出来るのか!?
なんだ、それ!? 最強じゃねぇか!?
――と、職業の説明を読んでみると……
『 コスプレした職業の特性を、自分の力に応じた範囲で行使可能。だからね、コスプレさえすれば、なんでもかんでも出来るってわけじゃないからね? 大丈夫? 分かった? 勘違いして、「これ最強じゃね!?」とか思い込んで考えなしに選んだりしちゃダメよ? 自分のレベルが上がるまで、なんんんんんんんん~~~~~んにも出来ないからね? だったら普通にまともな職業に就いてレベル上げる方がはるかに有利だからね? たぶん分かってないだろうからぶっちゃるけど、この職業、「ハズレ」だからね? 』
……と、書かれていた。
……ので。
…………アイアンクローッ!
「ひたたたたっ! な、なにするんですか!? はっ!? 嫉妬!? 嫉妬ですか!? あぃひたたたたたっ!」
「ちゃんと読めや、説明を、最後までよぉ……っ」
つか、なんでお前のとこだけこんなに説明が親切なんだよ? 俺のなんか『もにゅもにゅもにゅ……バシュー!』だぞ!? アホの娘過ぎて冒険者カードに同情されるとか、一種のチートだぞ、それ!
クッソしょうもない職業に就いてしまった相棒と、魔力が論外の魔法使いとして冒険に出る…………あ、無理だな、これ。
つか、これから行く特例クエストすらクリア出来るのかどうか、怪しいもんだ……




