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論外魔力の魔法使い  作者: 宮地拓海


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7話 激闘? エルセvsしびれスライム

 逃げた。

 それはもう、全速力で逃げた。


 けれど、住処のそばを盛大に焼き払った俺たちを、つか、エルセを、しびれスライムたちが許さなかった。


「はぁ……はぁ……もう、走れない……キツい……」


 心臓が雑巾絞りされている気分だ。苦しい。キツい。ぶっ倒れそうだ。


「コーシさん、もう少し頑張ってください!」


 逃げ足だけは一級品のエルセがらぐなろフォンをいじりながら言う。


「今、裏技を使いますから!」

「うら……わざ……?」


 そいつがどんなものかは分からんが、それに賭けるしかない。

 頼むぞ、エルセッ!


「一回バッテリーを外して装着し直すと、一瞬電源が復活…………しませんっ!?」

「お前の裏ワザ、クッソくだらねぇな!?」


 それが通用するのはリモコンくらいのもんだよ! スマホみたいなバッテリー食うヤツでそんなもんが通用するか!


「ぐぅっ!?」


 突然、腰のあたりに「ビリッ!」とした痛みが走ったかと思うと、足が動かなくなった。

 肩が重くなり、立っていることが出来ない……


「コーシさんっ!?」


 エルセの悲鳴にも似た声を聞きながら、俺は地面へと倒れ込んだ。


 ……どうやら、しびれ液を食らったらしい。


「コーシさん!? しっかりしてください!」


 ダメだ……こんなところで立ち止まっていては、しびれスライムの餌食になる。

 こうなったら、せめて、エルセだけでも…………


「……げ、ろ……」

「『もげろ』?」


 んなこと言うか、この場面で!? 状況を見て考えろよ!


「お前だけでも……逃げろ……」

「そんなこと出来ません!」


 俺を庇うように立ち、エルセがしびれスライムに睨みを利かせる。


「わたしが戦いますっ!」

「バカ……やめろ……っ!」

「うぅ~りゃあ~~!」


 俺の制止も聞かず、エルセはしびれスライムの群れに向かって駆けていく。

 無茶だ。エルセはコスプレーヤー。コスプレもしていなければ、武器すら持っていない丸腰だ。

 ギルドからもらった初期装備は、『それっぽい髪飾り』とかいうてんで大したことのない防具のみ。

 エルセ一人で太刀打ち出来るはずがない。


「くっそ……何か、何かないのか……!?」


 言うことを聞かない腕を無理矢理動かして、自分の持ち物を確認する。

 しびれ薬みたいな気の利いたアイテムなど当然持ち合わせておらず、俺が持っていたのは冒険者カードだけだった。

 その冒険者カードに、アラート共にこんなメッセージが表示されていた、


『冒険に出る前には、きちんと準備をしようね!』


 遅いわっ!

 いや、まぁ、注意を怠った俺も悪いけどさっ!


 と、突然画面に別の文字が表示された。


『エルセの攻撃:しびれスライムにそこはかとないダメージを与えた!』


 実況してくれるのか。身動き出来ず状況が把握出来ない今の俺にはありがたい。

 にしても、相変わらず数字は出さないんだな!? 『そこはかとないダメージ』って、どんくらいなんだよ!?


『しびれスライムの攻撃:エルセはひとかたならないダメージを受けた』


大丈夫か、エルセ!? どれくらいダメージ受けたのか、一切分からないけれど!


『エルセはやるせない表情を浮かべている』


 戦って! ダメージ受けてヘコまないで! それどころじゃない状況、ちゃんと理解して!


『しびれスライムはいたたまれない気持ちになった』


 反省してる!? 女の子いじめちゃったって反省しちゃってるよ、魔物が!?


『エルセはのっぴきならない身の上を話した』


 愚痴り始めたぞ!? 「わたしだって、好きでこんなことしてるわけじゃない」的なこと話し始めたぞ、あいつ!?


『しびれスライムは人ごととは思えない不憫さに涙した』


 心打たれてるー!? 魔物の心を鷲掴みだね!?


『エルセたちは取りとめのない話で盛り上がった』


 和解したぁ!? なんかもう、すっかり仲良くなっちゃったよ、おい!?


『ちょっといい感じの経験値を得た。コーシはレベルが上がった』


 うっわ、全然嬉しくない!

 そして不思議なことに、体のしびれが取れている!? レベルアップすると体力全快するタイプなんだね、この世界!?


「コーシさん、やりました! 手に入れましたよ『しびれ液』!」


 人畜無害そうにぷるぷる震えるしびれスライムに囲まれて、エルセが嬉しそうに手を振っている。

 エルセの右手には、サイダーみたいな液体が入った瓶が握られていた。

 ……クエスト、完了?


 俺、しびれてただけじゃん。


 なんとももやもやした感情を残して、俺のファーストクエストは完了した。






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