63話 桐たんすの中から
し、死ぬ……
「コーしゃま、大丈夫なのじゃ?」
「MP切れって……こんな、辛いの……?」
「ワシも若い頃は、よくこうなったのじゃ。みんな通る道なのじゃ」
いや、若い頃って……ニコ、お前十四歳じゃん。
「私も、MP切れの時は何もしたくなくなるわね」
いや、スティナ。お前、それ常時じゃん。
「わたしは、MPがなくなると充電してほしいなって思いますっ!」
いや、エルセ。お前の言ってるそれ、MPじゃなくれバッテリーだから、らぐなろフォンの。
無理して会話に参加しなくていいから。
「あ、あの……ごめんなさいでし、アッチたちのために、こんなことに……」
「いや、それはいいんだ……」
そんな顔をされるためにやったわけじゃない。
「で、どうだ? 元通りになった我が家は?」
「はい! 最高でし! ジャンプが出来るおウチなんて初めてでし!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるカチヤ。
もう、床が抜けることなどない。
俺の『逆巻く刻』により、カチヤの家は元の頑丈な家へとよみがえっていた。
シロアリ目線で言えば、食べつくした物が『食べごろ』に戻ったわけだ。……もう二度と食わせねぇけどな。
「物を生み出す魔法は、とかくMPの消費が激しいのじゃ。おそらく、コーしゃまが最初に再生させた木片くらいの大きさが、一般的な魔法使いの限界なのじゃ」
「え、あんなもんで限界なのか!?」
「むろん、再生や生成、創造に特化した者もおるので、一概には言えんのじゃがの」
「それじゃあ、一軒家をまるごと再生させるのって、実は相当凄いことなんですか?」
「国家プロジェクト並みじゃ」
「地域振興券並みですか!?」
いや、あの。
確かにそれも国家規模でやった政策だけどさ、イマイチ比較対象としてピンとこないっつうか、何と比べてんだ。
「エッカルト様の握手会みたいなものね」
「それ絶対国家プロジェクトになり得ないから」
「可能性はゼロではないわ」
「ゼロだよ」
「うむ。コーしゃまのツッコミにキレが戻ってきたのじゃ。もう大丈夫じゃろう」
「えっと、ニコ……判断基準そこなの?」
悔しいかな、ニコの判断は割と正しく、体も少し動くようになってきた。
ヤダなぁ……今後、ツッコミしなくなる度に体調不良を疑われるの。
「それじゃあコーシ。『そこ』からさっさと頭をどけなさい」
「そうですね。ニコさんの足が痺れてしまいますから」
指摘され、俺はニコの太ももから頭をどかせる。
……そう、ニコに膝枕してもらってたのだ。
いや、俺はいいって言ったんだぞ? けど、ニコが「いいから」って。体も動かなかったし、抵抗も出来なかった。……まぁ、決してイヤではなかったけれど。むしろ、超気持ちよかったけれど。母親の耳かき以外で初の膝枕にちょっと心ときめいたけれども!
「まったく。イヤらしさが顔に滲み出しているわね」
「あのなぁ。俺は別に、太もものぷにぷに感とか、楽しんでないからな!?」
「分かっているわ。大迫力の下乳を楽しんでいたのでしょう?」
「お前は俺の何を分かっているというんだ」
確かに、眼前にとんでもないものが「ドドーン!」と突き出していたけども!
俺は体調不良により横になっていただけだ……ったく。
「あぁ、そういや。弟たちはどうした?」
「はいでし。お薬を飲んですぐに寝ちゃったでし」
「なら、すぐによくなるだろう」
美味い物を食って、薬を飲んで、たっぷり眠れば風邪は治る。
「『もしそれでも風邪が治らない場合は、俺が妹たちのウィルスをもらってやるぜ……マウス・トゥ・マウスで』」
「言ってねぇし、思ってもねぇよ! だからカチヤ、今すぐ妹を避難させなきゃみたいな顔でどこかに行こうとするな!」
よかったなぁ、床が頑丈になってて! もとのままだったら今頃抜けてたぞ!
「あ、あのっ! 何かお礼をさせてほしいでし! なんでも言ってでし! なんだってするでし!」
心が清らか過ぎるカチヤは、感情がころころ変わるようで、現在は心の底からの感謝を俺に向けている。……よかった。妹を狙う変質者レッテルから解放されて。
「ねぇカチヤ。本当になんでもいいのかしら?」
スティナが神妙な面持ちでカチヤに問う。
そしてカチヤは元気いっぱいの笑顔で首肯する。
「はいでし! アッチに出来ることなら、なんだってやらせてもらうでし!」
「あちらを向いて、同じことが言えるかしら?」
と、スティナが俺を指さす。
カチヤがじぃ~っと俺を見つめ、耳を二度「ぴくぴくっ」と動かし、スティナの方へと向き直って言葉を発する。
「エッチなこと以外なら、なんでもするでし!」
「もう俺、完全に『ソノ』キャラになっちゃったじゃん!?」
勘弁していただきたい!
「冗談はさておき、風のタリスマンを作ってもらうことは可能かしら? あれば冒険の役に立つわ」
「それでしたら、お安い御用でし! とっておきのタリスマンを皆様にお一つずつ作らせてもらうでし!」
そう言って、居間の隅に鎮座している、桐たんすへと駆けていく。
……その桐たんす、胡散臭いんだが? どこで買ったのか後で問い詰めてやろう。
カチヤの家は平屋の一軒家で、俺たちが今いる居間と、カチヤたちの寝室と、元両親の部屋と、台所があるだけの質素なものだった。
元は両親の部屋だった場所が、今は作業場になっているらしい。
「この中に風の原石が入っているでし」
「わぁ! 見たいです! いいですか?」
「どうぞどうぞでし」
「なら、私も」
「ワシも興味あるのじゃ。コーしゃまも見るのじゃっ」
珍しい物好きの一同が桐たんすへと群がる。
ニコに呼ばれ、俺もその輪の中へ。……ちょっとわくわくだな。
どんなものなんだろうか、風の原石ってのは……
期待が高まる中、カチヤが桐たんすの引き出しを開けた。
「ガチガチガチガチッ!」
「「「「「ぅぅうううわあぁぁああああああっ!?」」」」」
引き出しの中には、小型犬くらいの大きさをしたシロアリっぽいモンスターがぎっちり詰まっていた。
「コーしゃま! このたんすの中に、シロアリ型魔獣を生み出すための魔法陣が仕込まれているのじゃ!」
「そんなピンポイントな魔方陣あるの!?」
「ねぇ、カチヤ。教えてちょうだい。これ、誰の紹介で買ったかしら?」
「え……っと、ウセロさん……です」
「騙されてますよ、カチヤさん!? もっとしっかりしてくださいっ!」
「だぁ! それはあとだ! 全員戦闘準備! 襲ってくるぞ!」
俺の合図で戦闘が開始される。
とりあえず……ウセロには追加のキツ~イ拷問決定!




