62話 元に戻す
「「「なんか、ホント、ごめんなさい」」でし」
エルセ、スティナ、カチヤの三人がしおらしくこうべを垂れている。
ニコを助けろーと突撃して床をぶち抜いたことへの謝罪なのだろうが……家主のカチヤまで謝ってんのはなんでだ?
わちゃわちゃしていた連中をとりあえず落ち着かせ、カチヤの家へとお邪魔した。
動くのが怖くなるくらいにあっちこっちがボロボロで、まったくと言っていいほど寛げない。
この姉弟、ちゃんと生活出来てんのか?
「ほぅれ、おじやを作ってきたのじゃ。熱いからの、ふぅふぅしてから食べるんじゃよ」
「ありがとー、小さいお姉ちゃん!」
「ちっちゃいおねーちゃん、ありがとー!」
「おっきぃおねー、ごちそうさまです!」
「妹(小)の発言だけ、オッサン臭く聞こえるわね」
「そうとしか聞こえなくなるからお前は黙ってろスティナ」
それにしても、風邪だってのに元気な弟妹だな。
ニコがおじやを弟に食わせてやっている。
ふぅふぅと息を吹きかけて、「あ~ん」と食べさせてやる。なんか、微笑ましいな。
「うわぁ……コーシさんがジェラシーにまみれた視線で弟さんを睨んでいます」
「違うわ!」
「も、もぅコーしゃま……言ぅてくれれば、いつだって……ワシは…………きゃっ☆」
「だから違うって!」
「羨ましいわよねぇ……介護」
「お前だけは根本的に違うな、スティナ!? もう、何もかもが!」
俺はただ、幼い子の看病をするニコが「いい娘だなぁ、微笑ましいなぁ」って思ってただけだよ。
「お、美味しぃぃいいいでしぃぃぃいいいっ!」
「おいしーーーーーーでしーーーー!」
「おいち~~~~~でし~~~~~!」
弟妹が揃って感激の声を漏らす。
「羨ましいでしぃぃぃいいいっ!」
そしてカチヤが見当違いな声を……って、おい。
「カチヤの分もあるのじゃ。あとで食べるのじゃ」
「ごめんなさいでしっ! 催促したみたいで、ごめんなさいでしっ!」
うん、してたしてた。めっちゃ催促してた。
「はぁ……お姉ちゃん、小さいお姉ちゃんと結婚してほしいでし」
「女の子同士は無理でしよ、おにーちゃん」
「あそこのおにーとなら結婚出来るでし」
「にょにょっ!? なに言ってるでし、あんたたち!? そ、そそ、そんな、ご迷惑でし!」
妹たちの他愛ない話にカチヤがマジ照れをする。
……やめて、こっちまで照れるから。
「でもそれじゃあ、小さいお姉ちゃんと家族になれないでし!」
「ちっちゃいおねーちゃんのご飯毎日食べたいでし!」
「じゃあ、ウチのおねーと、あそこのおにーが結婚して、おねーの不貞行為が原因で離婚して、親権をあそこのおにーが取った後、おっきぃおねーと再婚すれば家族になれるでし」
「「おぉ、円満解決でし!」」
「アッチ、追い出されちゃってるでしけど!?」
なんだろう……この家は妹(小)が一番デンジャラスだな……気を付けておこう。
「コ、コーしゃま…………ちらっ、ちらっ」
「ごめんな、ニコ。俺、無駄に戸籍に傷付けたくない派なんだ」
なんで離婚前提の結婚を一回経なきゃいけないんだよ。
「コーシ。私気付いたわ。養育費という名目で……」
「黙れスティナ」
「そうですよ、スティナさん。お金があるだけじゃ、スティナさんは生きていけません! ちゃんと同じ家に住んで介護してもらわないと!」
「お前何言ってんの、エルセ!? やっぱりアホなの!?」
「エルセ……あなた、なんて優しい娘なの!?」
「それ優しさかなぁ!?」
こいつら、互いをディスりあってんじゃないのか?
いいのか、お前らの関係。それで円滑に回ってるのか?
「けれど……ここに住むとなると、強度が不安よね」
「なに勝手に寄生先候補に入れてんだよ、他人ん家を」
こいつ怖ぇなぁ。気付いたらスネを齧られてそうだ。
「コーシさんの魔法でなんとかならないんですか?」
「お前、俺の魔法の効果全部知ってるだろ? どれも使えねぇよ。魔法ならニコだろう」
「あいにくじゃが、ワシの魔法は基本的に攻撃系ばかりなのじゃ。この家を一瞬で粉微塵にすることは出来るんじゃが……」
「やめてほしいでし!?」
カチヤ、心からの懇願であった。
「コーシさん。家がこんな状態で困っているって女の子が四人もいるんですよ?」
「1、2、3……おい、エルセ。お前今スティナを数に入れたろう? あれ部外者だからな?」
「なんとかしてあげられませんかね?」
「いや、でもなぁ……俺の魔法って、口内炎作るヤツと、魔力を分け与えるヤツと、ご飯を食べごろにするヤツと……もう一個はまだ使えないし」
「ご飯といえば……ここの柱や壁は、シロアリのご飯とも言えるわね」
そんな屁理屈こねたところでよぉ……
そもそも、『逆巻く刻』は温度を元に戻すだけの魔法だしな。
「一回、試しにやってみませんか? どうせわたしのMPじゃないですし」
「エルセの余計なひと言で急激にやる気をなくしたんだが?」
「あ、あの、無理はしなくていいでしよ……」
恐縮した様子で、カチヤが俺に言う。
そして、申し訳なさそうに視線を逸らし、今にも泣きそうな声で続ける。
「アッチも妹たちも、おっぱい小さいでしから……」
「だからそれ誤解だって!」
「でも…………小さいでしからっ!」
「よぉ~し! ダメ元で頑張っちゃおうかなぁ!? エルセ、さっきの木片持ってきて! 試してみよう!」
こんなところで、純粋な娘たちにあれの悪評を信じ込ませたくはない。
試すくらいはただじゃないか! ……MPは減るけども。まぁ、論外だし。やるだけやってみるさ。
「んじゃ、やてみるか。――『逆巻く刻』っ!」
シロアリに食われてスッカスカになった木片に『逆巻く刻』をかける。
なんの変化もないだろうなとは思いつつもしばらく様子を見てみると…………
「…………うそぉん」
スッカスカだった木片が、ぎっしりと密度の詰まった若々しい、まるで今切ってきたばかりかというような木に変わった。
……食べごろに戻るんだ。




